四章-8
僕は回想する。
糸闇に再会した日、リスタになった日、パラドックスに会った日。そこから始まって、いろんな人と出会い、いろんなことを思った。僕は何を得ただろう、僕は何が変わっただろう。僕はいったい何ができたというのだろう。わからない、わからないけれど今、決着の時を迎えている。
(確かに、これで終わる)
今、この場にいるのはパラドックスのメンバーやジン、馴染みのある人たちだ。すでに志浩と葛原は武器を構えて臨戦状態。十二は自らの能力“絶対遵守”を使い、この場をジェミニと同等の空間へと変容させている。それでも生身だ、ここでの死は現実でしかない。蘇ることはない。MISSINGやOVERなら戦いの経験がある。だから任せても大丈夫。だが、今日はそれほど甘い敵ではない。
僕らは今、最後の戦いの場で待機していた。
ヴィオは再会に対していったいどんな言葉を交わしただろう。わからない。もう、僕には解る事なんて微塵もない。すべてを知った気でいた僕は終わり、ここにいる僕は元の、何もわからないまま停滞し続けた存在。――ただ一つ知ることは、それがOVERと同じように滲み出したその時、架火に会いに来るだろうということ。
きっと、架火は、守ってみせる。……例え、彼女がそれを望んだとしても、僕は彼女を死なせることだけはしない。それが、僕の答えだ。後悔だけしか残らないと思った。こんな、最初からなかったものとするならば、犠牲に意味がなくなるから。
架火のマンションの下、皆が静観する中で、その唄は紡がれた。
「すべての子等は目覚め 夢は今に繋がり たゆたう現実は姿を変えて出会う 双子は家へ帰った」
「久しぶり、晩」
懐かしく、愛おしい弟の姿に、僕はただ、笑顔を向けた。
「よぉ、久しぶり」
人の類似品、神と呼ばれる化物を従え、彼は地に降り立った。
「せっかく倒した彼らを、また連れてきたの?」
「せっかく生み出したこいつらを、倒してくれたからな」
まったく同一の笑みを浮かべて僕と晩は言葉を交わす。人柱を失くしたMISSINGはすべての感情をまとって、まさに人のようにその巨体を佇ませている。 人にしか見えないデータの塊に動揺するパラドックスの面々だけれど、MISSINGが襲い掛かることはなかった。主の命なしに動かない姿は従者を飛び越え、言葉通りの人形としての在り方。心を得た化物は、けれど感情ないあり方を重視している。
「気は済んだ?情報を集めるのはもう飽きただろう」
「気が触れたか?情報を集めたのは必要に駆られてだぜ」
「どうだか、人のこと監視して、ストーカー?」
「どうだか。人のこと真似して、ストーカー?」
ヴィオに張り付いた監視の視線。僕の動向を探るような視線。
それは運命の糸となって、必然を起こし続けた。僕の不運体質が連続性を持ち、偶然が必然の如くジェミニ内での行動はすべてロキの思惑の内に起こっていた。
だから僕は時々、範囲外にヴィオを呼び出していた。僕らの行動がわからないように。