はじまりの魔法
「アイリーン、こっち!」
お酒で顔を赤くしたおじさんが空になった瓶を掲げて、手招きをしている。はいはい、ただいまー。返事をしながら、違うテーブルに注文品を運ぶ。あと数時間もすればがらがらになるのに、このお昼の時間だけはやけに忙しい。あれもやらなきゃ、これもある。やることが頭の中でぐるぐる回る。目まで回りそうだけど、なんとか身体を動かす。
「はい、お待たせしました!」
注文された食べ物をどんっとテーブルに置く。テーブルを囲んでいたおじさんの一人がにこやかに話しかけてきた。
「今日もよく働くねえ」
「もちろん!あ、おじさん。お酒はその一杯でとりあえず終わりね。あんまり飲ませすぎないようにお父さんから言われてるの」
そんなあ、とがっくりするおじさんを周りの皆が笑った。そういやあ、聞いたかい。別のおじさんが言う。
「町長のところに魔術師が来ているらしい」
「魔術師?確かにうちの町では珍しいですね」
この国には魔術師と呼ばれる人たちがいる。なんでも建国当時、神様の寵愛を受けたというこの国の民は皆不思議な力を持っていたらしい。それが今でいう魔術。とはいっても、それはもう何百年も前のこと。魔術を使う力は純粋なこの国の人なら潜在的に持っているとはいうけれど、ひどく弱い。だから、多くの人は魔術を使うことは出来ない。もちろん私もそうだ。ただ、その中でまれに強い力を持って生まれる人もいる。そんな人たちが修行を積んで、魔術師になる。魔術は人を癒すことも出来れば、必要な物を生み出すことも出来る。私はあまり詳しくはないけれど、他にも色々なことが出来るらしい。だから、この国では魔術師という存在はとても大切にされる。王都には王室お抱えの魔術師もいると聞く。けれど、魔術師の数、魔術を使いこなせる人の数は多くない。そんな存在がこんな小さな町に来ることはそれなりに珍しい。
「何かあるのかな」
私の問いに対して、おじさんは声を少し潜めて答えてくれた。
「最近この町で変な病が流行っているだろう。そのためさ」
なるほど、と納得する。つい最近はやり出した病気。主に老人と子どもがかかっているらしい。それを治すために町長は魔術師を呼んだんだろう。
本日最後のお酒を泣く泣く飲み干したおじさんが今度はにやりと笑った。
「それにしてもだいぶ男前の魔術師らしいぞ、アイリーン」
「そうなの?」
それはちょっとだけ見てみたいような、見て見たくないような。でもやっぱり見たいような。心の動きが顔に出ていたのか、おじさんたちが一斉に笑い出した。やっぱりアイリーンも年頃の女の子なんだなあ。そんな声が聞こえる。ああ、もう。明日もお酒を出すのをやめてしまおうか。
おじさんたちとの世間話が終わってからもせっせと動き回り、ようやく慌ただしい時間が過ぎ去った。お昼の片付けをしたら、少し休憩の時間だ。それを励みに、ばたばたとテーブルの上の食器やらゴミやらを片付ける。
老夫婦と若い息子夫婦が切り盛りをする、小さな宿屋兼酒場。ここが私の職場であり、住居。たまに息子夫婦の子どもがお店の隅に連れて来られて、お客さんたちに可愛がられている。
私はこの2世代の誰かと血縁関係があるわけじゃない。それでも、ここの人たちはもともと父親を知らなくて、それから母親を亡くした私を育ててくれた。だから私は抵抗もなく、彼らをお父さん、お母さんと呼ぶし、お兄ちゃん、お姉さんと呼ぶ。そして、当然のように家族だけでまわるこの場所で働いている。
そのお客さんは、お昼時から大分経ってから、私と酒場を担当しているお兄ちゃんとその奥さんのお姉さんがまったり休憩をしている時にふらりと現れた。
あら、とお姉さんが小さく声を上げる。その気持ちは痛いほどよくわかった。私はぽかんと口を開けたままだった。
随分と綺麗な男の人だった。夜よりも深くて濃い黒。彼が纏うその色は単に暗い印象というよりもただ神秘的に見えた。普段おじさん、それも酔っぱらった人ばかり見ている私にとって、若くて綺麗な男の人というのは珍しくて仕方がない。お客さんは酒場の中を見渡して、口を開いた。
「まだ飯は食わせてもらえるか?ここがこの町で一番上手いって聞いたんだが」
お兄ちゃんもお姉さんも私も同時に頷いた。男の人はそれに笑ったのか、少しだけ雰囲気が柔らかくなる。
男の人が席に着くまでの一連の動きを間抜けな表情のままぼーっと見ているとつんつんと小突かれた。お姉さんがお客さんを指差す。慌てて注文を取りに行った。
珍しいお客さんは細身な割に意外な程たくさんご飯を注文した。お兄ちゃんが作るうちの料理は一品一品の量がそれなりだ。大丈夫だろうかとテーブルいっぱいに並べられた料理に手をつけるお客さんをちらりと見るとなんてことはない表情でぱくぱくと食べていた。
結局けろりと大量のご飯を食べきったお客さんは片付けをしている私に声を掛けてきた。
「おい」
「は、はい!」
緊張して声が微妙に裏返った。おじさんたちの言う通り、私もやっぱり年頃の女の子だったみたいだ。切れ長な目が私をとらえる。注文を取るために近くに行って、全身に黒を纏ったこの人の瞳だけが綺麗な紫色をしていることに気が付いた。彼は注文を取る私を見て一度表情を止めてから、今度は無遠慮なくらいじっとこっちを見つめて話した。それは不快ではなかったけれど、どこか怖かった。私が知らない何かまで見透かそうとするような、そんな視線だったから。
「ここ、宿もあるんだろう?」
宿屋はこの酒場の2階にある。ここを出て廊下を少し行くとお父さんとお母さんが受付をしている。
「泊まられるんですか?」
視線を合わせないようにしながら言うと、ああ、という短い返事があった。
案内を、と思ってお姉さんを見ればにっこりと笑うだけだった。最初うっかり見惚れてしまっていたことからお姉さんは何か勘違いをしてしまったらしい。カウンターの少し上から親指を立てている。余計なことを、とつい思ってしまう。今は、その視線が怖いのに。
仕方なく片付けの手を止める。
「ご案内します」
後で聞いた話によると、両手と両足が一緒に出そうなくらい緊張した私をお姉さんは微笑ましそうに見送ってくれたらしい。ああもうほんとうに、余計なおせっかいだ。
怖いな怖いなと思いながら若干早足で進むと何事もなくすんなりと宿屋エリアにたどり着いた。最初、あんなにじっと見てきた割に男の人は私に何も言ってこなかった。…単に、私の意識しすぎだったみたいだ。恥ずかしい。
お客さんを連れて行くとお父さんとお母さんも私たちと同じようにとても驚いた顔をした。何度も言うけれど、だって、こんな綺麗な人、この町で滅多に見ない。旅の人なんだろうか。この町は大きな街と街の間にあるから旅の人がちょくちょく立ち寄る。あれだけたくさんご飯を食べたということは長旅を続けてお腹がぺこぺこだったのかもしれない。お店に来た時間も遅かったし。ようやく町にたどり着いてお店までやって来たのかも。
そんなことをつらつらと考えていると、お客さんはいつの間にか台帳に記入を終わらせていた。2階の部屋に上がろうとして、振り返る。もう一度、紫の瞳が私をとらえた。
「ありがとな」
そう言うとさっさと2階へ行ってしまった。
酒場に戻るとお兄ちゃんもお姉さんも意地の悪い笑みを浮かべて私を迎えた。言いたいことはわかるので私はあえてそっぽを向いた。
「随分美人だったなあ。お前、ああいう男はどうなんだ?」
そんなことは意に介さずお兄ちゃんはちょっかいをかけてくる。普段は優しいお姉さんも何が面白いのかそれに便乗する。
「リーンったらずっと見てたじゃない。あんな人これから中々会えないわよ」
「お兄ちゃんも、姉さんも、一体それが何なのよ!」
「だってさ、お前一切そういう気がないだろ。この町にいる男がダメなら他のところから来た奴を狙うしかないし」
狙うなんて恐ろしい。私を一体何だと思っているのか。何の話かわからなくなりそうだ。でも、お兄ちゃんたちが面白がるだけじゃなくて、それなりに本気で心配してくれているのも知っている。
私がここで暮らすようになったのは3歳のとき。それから14年が経って、私は17歳になった。ここでは17歳なんてもう大人とみなされる。女の子は早ければ結婚だってする。そうでなくても、皆将来のことを考えて大きな街へ出て行ったり、家業を継いだりする。この町の、私の友達だって皆自分の進む道を決めた。それなのに、私は何も変わらない。引き取ってもらってからずっとお手伝いを続けているように、これから何十年もそのままでいると思っている。15歳になるあたりから、お父さんもお母さんもそんな私を心配しだした。お前はお前の好きなことをやったらいいんだよ。自分の将来は自分で決めていいんだ。何度も何度もそう言って私の背中を押してくれた。
血のつながらない私を引き取ってずっと育ててくれたことに対して引け目があるわけじゃない。そんなことを気遣う間柄ではなくて家族なんだと、胸を張って言える。ただ、私が甘えているだけなんだ。何かを決めて、ここから出ていくのが怖いから状況を変えようとしないだけ。だから、結婚だって考えない。年頃の女の子として自分でもどうかなと思うけれど、恋人どころか好きな人だっていない。…いないんじゃなくて、作らないっていうところまでお兄ちゃんは多分分かっている。作ろうと思っても結局出来ていないんじゃないかとは思うけど。うう、自分で言うと悲しいな。
「…まあ、男に限らず本当にいいと思ったチャンスは逃すなよ」
そう言って、お兄ちゃんは私の頭を撫でた。後からお姉さんにもぎゅっと抱き締められた。
酒場の夜は長い。お昼にいたおじさんたちのうち何人かがまたやって来た。一応看板娘なので、アイリーンと呼ぶ声はお昼と変わることなく止まない。お兄ちゃんとお姉さんの料理は美味しいし、お酒だってそこそこのものを置いてある。宿に泊まる人は大概夜になると酒場に降りてくる。けれど、あのお客さんは降りてこなかった。長旅で疲れていたからもう寝てしまったのだろうか。こんなことを考えているとまたお兄ちゃんたちにからかわれてしまう。ぶんぶんと頭を振って、中身を切り替えた。
長い一日が終わって、やっと寝れるという時、部屋の外が騒がしくなった。不審に思って廊下に出てみると声はお兄ちゃんたちの部屋からする。
「お兄ちゃん?」
扉を開けても二人は振り返らなかった。私も部屋の中を見て、状況がわかった。
「メル!」
二人の子どものメルがベッドの上でぐったりしていた。朝からちょっと調子が悪いとお姉さんが言っていたのを思い出す。けれど、今の様子はちょっとどころじゃない。顔が真っ赤で、呼吸もとても苦しそうだった。そばでお姉さんが泣きそうな顔をしている。青ざめたお兄ちゃんが私に気が付いた。
「さっき、急に様子がおかしくなったんだ。これは、」
言葉を切って、頭を抱えた。お兄ちゃんの言葉の続き。メルの様子はおじさんたちが話していた流行病の症状に似ている気がする。そう考えたとき、さっと背筋に冷たいものが走った。お店でこの病気に関する噂話を聞いた。かかったら、普通のお医者さんが出す薬では治らないこと。抵抗力が弱い子どもにはとても危険だということ。――だから、町長は魔術師を頼るしかなかったということ。
同じように騒ぎを聞きつけてやって来たお父さんとお母さんを押しのけて、私は部屋を飛び出した。普段ならダメだけれど、今なら。今なら、魔術師はこの町にいる。
町長の家まで行こう。町長は優しいから理由を話したらきっと聞いてくれる。魔術師本人にだって、いくらでも頭を下げる。メルを、私の家族を助けられるなら。
その時、カウンターの上に置かれたままの台帳が目に入った。今日のお客さんは、あの男の人ひとり。コンラッド・エアルドレッド。台帳に書かれた名前。あれ、と思う。町長に依頼されて、この町にやって来ただいぶ男前の魔術師。おじさんたちの会話を思い出した。誰かに聞いて、この酒場と宿にやって来た、私もお兄ちゃんもお姉さんもお父さんもお母さんも見惚れてしまうくらいとても綺麗な男の人。まさか、が一瞬で確信に変わった。
階段を駆け上がって、その部屋をノックもせずに開けた。寝てるかもしれない、そう思ったけれど、中の人は月明かりだけをたよりに古びた本を読んでいた。昼間見た紫の瞳が突然部屋に侵入してきた宿屋の娘を訝しげに見る。
「…なんだ?」
私は勢いをそのままに頭を下げた。
「お願いします、メルを助けてください!」
そのまま事情を説明する。反応を見る限り、私の予想は間違っていなかったみたいだった。この人が、魔術師だ。全て説明し終わって、もう一度お願いしますと頭を下げる。
「…営業時間外、と言ったら」
「え?」
返ってきた言葉の意味が分からなかった。問い返せばご丁寧にもう一度答えてくれた。
「営業時間外だと言ったらどうする?魔術ってのはそんなに軽く日に何度も使えるもんじゃない。それこそ寿命を縮めるくらいじゃなければ使えない。俺は今日だいぶ働いた。そもそも使える魔力なんて残ってるかもわからんし、試すのも疲れる」
「じゃあ、メルをほっとけって言うんですか!?」
無責任な言い方に怒鳴る私に目の前の人は目を細めただけだった。私は魔術のことなんてほとんど知らない。けれど、旅の人から魔術は人を助ける力だと、魔術師は魔術を使えない人を助けてくれる存在だと聞いたことがある。この人は、人を助けられる力があるのにそれを使わないと言うのか。
「魔術師に夢を見すぎるなよ。魔術師は魔術が使えるだけの、お前らと同じ人間だ。俺みたいなのは、報酬なしじゃそんな簡単に動かない」
魔術師だって職業だ。この人の言いたいことだってわからなくもない。けれど、けれど。同じ人間なら私にも、この人と同じ力があったらいいのに。そうしたら、こんな人に頼らなくても私がメルを助けるのに。どんなに願っても、何の力もない私には何も出来ない。
「それでも、今あの子を助けられるのはあなたしかいないんです!私じゃメルを助けられない…!」
私を育ててくれた人たち。14年間たくさんの幸せをくれた人たち。その人たちに何かを返したかった。何も出来ないまま外に出るのが怖かったから、何も変化を望まなかったのに。結局、傍にいても私は何も返せない。
「なんでもします。すぐには何も出来ないけれど、出来ないことだって、それが報酬として望むのなら絶対に出来るようにするから…!魔術に寿命が必要なら、私の寿命を縮めてくれたってかまわない!だから、お願いします。メルを助けてください!」
「…なるほど」
呟きが聞こえたのとほぼ同時に腕を引っ張られた。下げていた頭を上げると紫の瞳が笑っていた。
「今の台詞、忘れるなよ。手伝ってやる」
腕を引かれて、先程飛び出した部屋に舞い戻る。メルの様子は変わっていなかった。今も苦しそうに呼吸をしている。魔術師はそんなメルの顔を覗き込むと、そっと撫でた。
「遅くなって悪かったな」
そして私をベッドの横に座らせた。魔術師に言われるままに私はお姉さんの代わりにメルの手を握る。一連の流れに茫然としているお兄ちゃんたちに彼が魔術師であることをごくごく簡潔に説明する。皆の視線がすがるようなものになった。
私の傍に立つ魔術師が呪文のようなものと唱え始める。彼と私とメルの周りに光が立ち上った。――そこで、私の意識は途切れた。
目を覚ましたとき、横には彼がいた。部屋に突入したときと同じように本を読んでいる。すっとした鼻筋と、長い睫。少し長いくらいの前髪と、その下からのぞく紫色。やっぱり綺麗だった。
「何をそんなに見てるんだ」
不意に切れ長の目がこちらに向けられた。じっと見ていたことに気付かれて恥ずかしくなって布団をかぶった。窓から朝日が差し込んでいる。
「えっと、その、ありがとう、ございました」
この人も私もここでのんびりしているということはあの後無事にメルを助けることが出来たんだろう。なんだかんだ言いながら、結局魔術師は助けてくれた。最初はひどいことを言っていたけれど、本当は悪い人ではないんだろう。そのことにほっとした。
「お前ももう起き上れるだろ。普段使わない力を使って身体が驚いただけだ。そしたら早く支度をしろよ。明日には出て行きたいからな」
出て行く?支度?さっぱり意味が分からない。
「報酬として出来ないことでもなんでもするんだろ?なら、お前を俺の弟子にする」
「えー!!」
朝にもかかわらず大声で叫んでしまった。皆昨日のことで疲れて寝てるはずなのに。ごめんなさい。でも、それにしてもこれは思わず叫んでしまっても仕方がない。
「うるさいな。忘れるなと言っただろう。お前には魔力も根性も十分ある。だから弟子にする。報酬だからな。お前の意志はそんなに関係ない」
ただ、と続ける。やっぱりその瞳は最初と同じで会ったときのように無遠慮に私を見据える。本当に、心の中身を見透かしそうなほど。
「家族にちゃんと話をする時間くらいはやる。…決めたならさっさと行って来い」
それから半年。あのまま彼の住む街へと連れてこられた私は郊外にある彼の家で魔術の修行をしている。今は休憩中。二人分のお茶を淹れて、テーブルに運ぶ。
「思い返すとほんっとうに師匠の手口って強引ですよね」
自分で作ったクッキーを頬張りながら目の前でいつものように本を読む人へと話しかけた。
「私の根性やら決意やらを試すためにあんなひどい人ぶって。あれ、やっぱり本性でしょう」
「あの子どもには悪いことをしたとは思ってる。が、お前は別だな。なんだかんだで良い選択だっただろう。あれが本性でいいならまだまだ厳しく出来るな」
「うわわ、すみません!師匠は思ったより優しかったです!」
変わることを恐れていた私をこの人は呆気なく外へと連れ出した。悔しいことに師匠の言う通り、私は今の状況を後悔していない。起き抜けの一方的な会話の中で、魔力があると言われたとき確かに私は喜んだ。強引だったけれど、魔術師の弟子になるのもいいかな、と思ったんだ。師匠にメルを助けてと頼み込んでいたとき感じた無力な気持ち。それが、魔術を身に付けることでなくなるのなら。家族の一員として必要以上な意味を見つけられないままただ働くよりも、私にも出来ることがあるのなら。師匠はそれを見透かしていた。
出て行きます、と話したとき、お父さんもお母さんもお兄ちゃんもお姉さんも泣いた。すっかり元気になったメルは私の服の裾を放さなかった。皆、泣いて泣いて、とても喜んでくれた。私が見つけた将来に。ようやく前に進みだした私に。代わる代わる頭を撫でられ、抱き締められた。
そして、いってらっしゃいという声に送り出されて、私は旅立った。
「…師匠、私、頑張ってますか?」
お母さんたちから届いた手紙の返事を書きながら聞く。私を育て上げて、ここまで送り出してくれた人たちに、今の自分は誇れるのだろうか。
私の問いに師匠は本から顔も上げずに答えた。
「言っただろ。根性は人並み以上だって」
師匠らしい言い方にちょっと笑って、私は手紙に書き綴る。これを書いたら休憩は終わりにしよう。まだまだ教わることはたくさんあるのだから。
まだまだ大魔術師には遠いけれど、日々頑張っています。←根性は師匠も認めてくれています!
この国一番の魔術師になるのを楽しみにしていてください。
アイリーン・コレット
読んでくださり、ありがとうございました!