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18.これでお別れです 3

※R15かな?。念の為、苦手な方はご注意下さい(一気に下までスクロール!で大丈夫なはず……)

 突然訪れた両親の死は、現実的なものとして受け入れられるものではなかった。

 でも、突然始まった悪魔との同居生活はそれ以上に現実的ではなくて、悲しみは訪れることはなく、意地悪ばかり言う悪魔にどう対抗してやろうかとばかり考えていた。


 だから気づかなかった。



「……どうして、私なの?」

 呼吸さえろくにさせてもらえず、わずかに唇が離れた隙にそっとアルトリートの唇に手を当てる。背後は寝台、正面にはアルトリートと、すでに逃げ道は断たれている。

 アルトリートの唇を押さえたその手を取られ、今度は手のひらに唇を落とされる。

「おまえは俺を、利用しようとしなかった」

「支払うものがなかっただけだと思わないの?」

 取引が条件だと言ったのは、アルトリートだ。

「たとえあったとしても、おまえは俺を頼ろうと思わなかっただろう?」

 言われ、笑みを零す。

「そうね。毎日、腹が立って仕方なかったわ。次こそは言い負かしてやるって、いつも思ってた」

 その言葉に、チョコレート色の瞳が楽しそうに細められる。それはとても珍しく、嫌味なく見つめられるのは、イヤじゃない。心臓が痛いくらい絞めつけられる。こうしていると、本当に悪魔だとは思えない。

「……いつも?」

 その形のいい唇が、耳に触れるか触れないかのところで囁く。

「ええ。いつも……」

 もう、認めるしかない。


 気づくと、アルトリートのことばかり考えていた。





 翌朝、心地よい体温の中で目覚めたアマーリエは、聞きなれない声で完全に眠気を飛ばした。

「おはようございます。アルトリートさま、アマーリエさま」

 執事のような格好をした年老いた男性は、控え目に扉の側に立っていた。白髪をきれいに撫でつけ、皺一つない黒のスーツを着ている。

 肩から布団がずり落ち、慌てて胸元をかくすとアマーリエから視線を外すように横を向く。

「あなた、誰?」

 呆然と呟くと、隣から伸びてきた手がアマーリエを布団の中に引きずり込む。直に肌と肌が触れ合う感触に、昨夜の出来事が脳内に鮮明に蘇り、頬に熱が集まる。

 眠たげな声が耳元で囁く。

「あれはヘルマンだ。以前、会ったことがあるだろう?」

 アルトリートが話すと吐息が耳をかすめ、それに身を竦めながら頭の中に疑問符が浮かぶ。

「え?」

「四階で……」

 どうしても眠たいらしいアルトリートの途切れた呟きに、アマーリエは記憶を総動員する。四階に上がったことは数えるほどしかない。その時の印象的な出来事といえば……。

 思い出し、思わず布団で胸まで隠してヘルマンの右手を見る。

 それは見間違いようもない土色の手で、他の身体よりも明らかに色が違っていた。

「あなた、あの……」

 口をパクパクさせるアマーリエに、ヘルマンは視線を逸らせたまま頷いた。

「はい。いつぞやは驚かせてしまったようで申し訳ございませんでした。ヘルマンと申します。以前はメレディス家で家令をしておりました。至らないところもありましょうが、以後よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げたヘルマンに、アルトリートは布団から手だけを出して下がれと振る。

「朝食はいかがいたしましょう?」

「いらない」

 承知したように頷いたヘルマンは、静かにアマーリエの部屋から出ていった。

 呆然としたアマーリエは、昨夜アルトリートが言っていた意味を知った。

「風邪をひくぞ」

 そう言って再び布団に引きずり込んだ悪魔に、今度こそ簡単に逃れられないよう雁字搦めにされる。

「私、仕事に行かないと!」

「行くな……」

「でも、昨日も早引きしたのに!」

「いいから……」

 耳元でささやかれ、それでも反論しようとする唇をアルトリートの唇で塞がれ、アマーリエは呆気なく白旗を振る。

「わかったから」

 昨夜からずっと触れ合っているにもかかわらず、なおも触れてくるアルトリートに逆に甘えるようにすり寄ると、ようやく安心したのか髪を梳かれる。

 あまりの心地よさに再び眠気が襲ってくる。

「ずっと側にいるから……、だからあなたも側にいて……」

 心地よい眠りに落ちる瞬間、アマーリエは自分の悪魔に乞う。

 額に落ちた口づけが、その返事で契約であったことに気づくのは、もう少し先の話――。

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