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10.呪いなど誰が解いてやるか 3

 アルトリートがもう一歩前に出る。

「……おまえの親は、何歳で死んだ?」


「え?」


 一瞬、何を聞かれたのか分からなかった。一度瞬きをし質問に答えると、アルトリートが無表情のまま告げた。

「メレディス家の呪いはまだ生きているんだろうな」

「呪い?」

「俺が封じられたから繁栄はしない。そして厄災からは逃れられない。しかも俺がかけた呪いも解けない」

 近寄ってくるアルトリートに気を取られて、思わず聞き逃すところだった。


 今、聞き捨てならない言葉を口にしなかったか。


「あなたが……かけた呪い?」


 知らず知らず眉間に皺が寄る。悪魔だから呪いはかけるかもしれない。だが、アルトリートが引き換えたのはそんなものではなく、メレディス家の人間の寿命とこの地の繁栄ではなかったのか。

 呪いとは何のことだろう。


「どういうこと?」


 思わず詰め寄る。その赤みがかった瞳を見上げ、顔を覗き込む。

 アルトリートは目を反らさなかった。正面からアマーリエを見下ろし、いつものような嫌みのある笑みではなく、普通に笑う。その笑みは悪魔のくせにどこか悲しげに見えた。


「当時のメレディス家の当主は、俺を呼び出す前に愚かにも何度も他の悪魔を呼びだしていた。最初こそ小さなものと引き換えれるぐらいの願いで満足していたようだが、人間の欲望は深い。次第に大きな願いをするようになった。もちろん、その代償も大きくなる。そいつは悪魔を相手に狡賢くやっていたようだったが、ある時交渉に失敗した。それは大きな災いを呼び、メレディス家だけではなく領地にも襲いかかることとなった」


「災い?」


 先ほどもアルトリートは口にしていた。災いから逃れられないと。


「メレディス家の治める領地に産まれる全ての生に死がつきまとうようになる災いだ」


 それがどれほどの被害をもたらしたのか、アマーリエには想像がつかない。全ての生とは、動物はおろか植物も含むのだろうか。もしそうなら、人間の住める場所ではなくなってしまう。

 想像上ではあったがあまりの悲惨さに身震いをして、目の前の悪魔に続きを促した。


「……それで、どうしたの?」

「当主は俺を呼び出した。悪魔が呼んだ災いを、悪魔で封じようとしたのさ」


 いつものどこまでも見くだした眼差しに戻ったアルトリートを見てアマーリエはもしかして、と思う。アルトリートはメレディス家の血を引く自分に、アルトリートを呼び出した人間を重ねて見ているのではないだろうか。だからいつも見下したように見るのか。


 アルトリートは息を吐き出すように笑った。

「同じ悪魔でも、一度かけた呪いは同じ悪魔でないと解くことは出来ない。悪魔によって力の法則が違うからな。だから俺は蓋をするようにその上からもう一つ呪いをかけた」

「メレディス家の人間の寿命と引き換えに?」

「いや、引き換えたのはそいつの命だ」

 頭の中が混乱する。

 ではメレディス家の寿命はどこにいったのだろう。

 頭を捻っていると、アルトリートがアマーリエの横を通り過ぎた。薄暗い礼拝堂から出ていこうとしていて、明かりを持っているアルトリートが移動すると当然暗くなる。

 このような悪魔を呼び出した場所に取り残されるなど冗談じゃなく、慌ててアマーリエも後をついていくと階段下でアルトリートが立ち止まっていた。

 どうしたのだろうと思っていると、アルトリートに腕を取られた。それではじめて気づいた。アマーリエは知らない間に両手で身体を抱きしめるようにして震えをこらえていた。


「戻るぞ」

 階段を上るのに腕をつかまれたまま、引っ張られる。

 階段を上りきるとアルトリートは手の上にある白い炎を握りつぶした。それは音もせず消滅する。

「熱くないの?」

 思わず尋ねると、手のひらを見せられた。白い皮膚には火傷一つ見当たらない。少しも赤くなっていない。

 ホッと息をつき、安心している自分に驚く。そして未だつかまれたままの腕に視線を向ける。

「喋りっぱなしで喉が渇いた。お茶に付き合え」

 その言って、再び腕を引っ張られて一番近い部屋である食堂へと連れていかれた。


 部屋に入ると暖炉には火が入り、その側には椅子が用意されていた。ヨハンもいて、カップの準備をしている。部屋中にコーヒーの香ばしい匂いが広がり、まだ日中なのだと実感する。

「アマーリエさんはこちらに座って下さい。暖かいですよ」

 暖炉の側の椅子を示され、腕を離されたアマーリエはずっと地下にいた為にさすがに身体が冷え切っていたので素直にヨハンの言葉に従った。冷え切った足を暖炉に向けると、くすりという笑みと共に膝掛けが落とされる。どこから取り出したのか、赤のチェックの膝掛けは肌触りがよく、ふわりとしていて温かい。

「どうも……」

 素っ気なく礼を言い、ヨハンが差し出したカップを笑顔で受け取る。両手で抱えるように持って、やっと指先に血が通うのを感じる。アマーリエの好みを熟知しているヨハンが入れてくれたのは牛乳と砂糖のたっぷり入ったカフェオレだった。

「生きかえるようだわ」

 胃にふわりと落ちる少し熱めのカフェオレは、じんわりと身体の中から温かくなる。砂糖の甘みが頭の奥の緊張を溶かすようだった。

すみません。分かりづらいかもしれません。もう一話続きます。

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