私が逃げたら国が滅亡しました。二度目の人生では絶対に王太子を助けません ~でも天才魔導士は万馬券を当てたい~
私は死んだ。
死因は老衰だった。
子供と孫に見守られて、安らかに人生の幕を閉じた。
でも、なんて過酷な人生だったんだろう。
好きになった人が悪かった。
もし、次があるなら、あなたを好きになる事はないでしょう。
絶対に——!!!
◆◇◆
私は王太子の婚約者の公爵令嬢だった。
親同士の決めた政略結婚で、同じ王都に住んでいたのに、王太子に会う事はなく、初めて顔を合わせたのが結婚式の当日だった。
でも、顔は知っていた。
整った顔立ちの非の打ちどころのない王子様で、肖像画だけで好きになってしまった。
実は私は転生者で、前世では冴えない人生だったので、イケメンと結婚出来るだけでご褒美!
毎年、王太子の誕生日には肖像画が更新されて、大人っぽくなって色気を増していく王子に想いを募らせた。
前世の経験と知識もあり、有能な公爵令嬢として名を馳せる私は、王太子の婚約者に相応しいと評価されていることが嬉しかった。
そしてついに結婚式……私は王太子と会わせて貰えなかった理由を知る。
「ああ、君が婚約者のセラフィナ・オルランディ公爵令嬢か」
婚約者で今日から夫になる王太子の横には、可憐な男爵令嬢と凛々しい子爵令嬢がいた。
シルヴァリア王国の王太子ジュリアス・フォン・ルーヴェンは結婚式にも愛人をはべらすアホでした。
婚約破棄したくても、もはや結婚式、どうにもならない。
メイドで姉のように慕っていたアイリスが泣いているが、涙は出ていない。
泣き真似かよ!
「すみません、セラ様。でも、アホな王太子の尻拭いを出来るのは、セラ様のような優秀な公爵令嬢しかいないのです! シルヴァリア王国全員の総意です! 私たちのために犠牲になって下さい!」
な、嘘でしょう!? 国民総出でハメられてた!?
自分の結婚式に愛人を連れてくる時点でヤバいけど、もっとヤバイのかもしれない!
そして結婚式の初夜。
愛人のいる夫お決まりの「君を愛する事はない」かと思ったら、普通に愛されてしまった。
好きだった人なので私も結構、嬉しかった。
しかし、妊娠した私より先に、男爵令嬢のリリアンが先に出産した。
遊び歩いてる夫の代わりに私が女の赤ちゃんを取り上げて、ローズと名付けた。
次は、子爵令嬢のキャサリンが出産し、次が私だ。
そして、また次が男爵令嬢リリアン、子爵令嬢キャサリン、公爵令嬢の私、セラフィナと出産ラッシュが続いていく。
ジュリアス! 妊娠させる暇があったら、一回くらい出産に立ち会え、ゴラァ!
そんな事が繰り返されるうちに、ジュリアスが隣国のヴェルダンティア王国の使者を怒らせてしまう——。
そして、戦争になった。
ジュリアスの行動は軽率だったけど、たった一人の人間のせいで戦争が起きるなどということはない。
戦争の火種は両国間にずっとあって、少しづつお互いに育てていったのだ。
ジュリアスのした事は、最終的なキッカケになったに過ぎない。
——が、
その後のジュリアスの行動は最悪だった。
隣国との和平交渉を台無しにするし、自国の貴族との間に軋轢を生み軍を弱体化させたり……。
戦争のキッカケは一人の人間じゃなくても、国を滅ぼすにはアホ一人で十分だった。
「何やってんだ、アイツは!?」
私はジュリアスのやらかしの報告を受けるたびに、身重の身体で西へ東へ奮闘した。
私の説得によって、隣国の使者や自国の貴族、軍人は、怒りをおさめてくれた。
「王太子妃様も身重の身体で大変ですね」
と、同情された。
隣国の王たちにも私の噂が伝わり、同情されるようになった。
そのおかげなのか、戦争はこちらの国が一方的に不利になるような条件も付けられずに、お互いの合意で終結した。
「俺がずっとセラフィナを妊娠させてたのが良かったんだな」
殺っ!!
その後は戦争までいかなくとも、ジュリアスのヤバいしでかしの尻拭いをさせられ続けた。
そして、相変わらず愛人たちも妊娠と出産を繰り返していたけど……。
リリアン亡くなる。
残された五人の子供たちは私が育てる事になる。
そして、キャサリンも亡くなる——。
残された五人の子供たちはやっぱり私が育ってる事になる——。
私の子供たちと合計十五人。
しかも年子どころじゃない、三人が同じ年で、それが五組いる。
三つ子が五組いるようなものだ。
乳母が育てるから、貴族の子育ては小さい頃の方が大変じゃない。
ただ、大きくなってからの方が大変で……。
身分の高い兄妹間の争いを止めるのは教育係の使用人でも難しい事があり、最終的には母親である私が仲裁に入った。
学園での友人間のトラブルも、公爵家の子供たちと揉めた場合は私がすぐに謝りに行ったが、身分が低い相手だとはいっても、王子や王女に非があれば、私が謝りに行った。
それが十五人分……。
そして、将来についても大変で、王子と王女をいい加減な相手と結婚させるわけにはいかない。
相当数の釣書を吟味した。
十五人分……。
「わ! この子、可愛い!」
息子の婚約者候補の肖像画の感想がこれ!? 殺っ!?
それでもなんとか相手が決まったと思ったら、長女のリリアンの子のローズと、長男で私の子のフェリックスが密会しているのが発見される。
母親は違うけど、姉弟なのよ!?
「母上、俺たちは愛し合ってるんだ!」
んな事言われたって、ダメなものはダメ!!!
けれど、念のために、本当の兄弟かどうか、魔道士にお願いして調べてもらった。
結果は……100パーセント姉弟ではない!?
リリアン、アンタ托卵してたの!?
私の結婚式で私より白いドレスを着て可憐に微笑んでいたリリアンの姿が蘇る……ついでに、ジュルアンも。
あの時、すでにリリアンは妊娠中で、『どーだ俺ってモテるだろ』って顔してたジュリアスは托卵されてたのか——。
ぷっ、本当にアホだわ。
とりあえず、魔導士に全員の兄弟関係を調べてもらう。
私の子たちは全員ジュリアスの子だけど……。
リリアンは五人中三人だけがジュリアスの子供で、キャサリンの子たちは五人中一人だけがジュリアスの子だった。
さすが笑えなくなってきたわ、ジュリアス。
話を聞くと、実は兄妹が好きだったって子たちばかりで、托卵の子とジュリアスの子でだいたいカップリングが済んだ。
実の兄妹で泣く泣く別れさせられた子達がいたけど、私の三男と次女で……さすがに兄妹で恋愛しすぎだわ!
結局、やっと決めた婚約者たちには謝って、なんとか全員が結婚した。
次の王太子はリリアンの子のローズと結婚したフェリックスだったけど……。
ジュリアスが、孫の顔を見る事なく王太子のまま亡くなった。
父親の王は悲しんですぐに亡くなり王太子になったばかりのフェリックスが王になる。
「は、母上、ど、どうしよう……!!?」
子供も生まれて幸せの絶頂のフェリックスだけど、王の荷は重すぎたか。
私がほぼ実権を握るレベルでサポートして、なんとか国は保たれた。
やっとフェリックスに全てを任せられると思ったら、孫たちが年頃になっていて……。
ローズや母親たちは頑張ってくれているけど、子供たち世代の頼れるお母さん——孫のおばあちゃんが全員私だと言う地獄……。
そして、数十年が経ち……私が死のうとしている時に、子供たち、孫たち、ひ孫に玄孫……みんな集まって来た。
「お母様!」
「おばあさま!」
ああ、なんて幸せな人生だったの——!
でも、二度とやりたくない!
絶対に——!!!
——目を覚ますと、まだ少年のジュリアスの肖像画が、部屋の壁に掲げられていた——。
私は、15歳だった。
◆◇◆
悪夢を見ていた……。
いや、子供と孫に囲まれて、幸せだったけど……そこまでの道のりが大変すぎる……。
まあ、悪夢であって、現実じゃないわよね?
壁の肖像画のジュリアス様に話しかけた。
なんて整った顔をしたイケメンなんでしょう!
これでアホだなんて有り得ない!
……有り得ないけど……念の為、念の為よ!
ジュリアス様の事は好きにならないでおこう。
私がジュリアス様を好きじゃないと言うと、メイドのアイリスの様子がおかしくなる。
いかにジュリアス様が素敵かと演説を聞かされる。
嘘っぽい……。
それはアイリスだけじゃなく、お母様やお父様、貴族令嬢の友達やその両親からもで。
使用人や平民たちとすれ違っても、何故かいつもジュリアスの素晴らしさを語っている。
……これは——! 国民総出でハメにきてる!
本当に? 悪夢じゃなくて、あれは未来の出来事なの?
私は、この国、シルヴァリア王国から逃げる事にした。
——そして、戦争が始まる。
隣国ヴェルダンティア王国に逃れた私は、王太子ジュリアスの振る舞いによる隣国の国民感情の悪化を目のあたりにして暗い気持ちになる。
誰か有能なものがジュリアスの側にいればなんとかなるかもしれないのに。
結局は、ヴェルダンティア王国の隣国シルヴァリア王国のジュリアス王太子への不審感が和平交渉を遠ざけた。
国内のまとまりもジュリアスのおかげで無くなっている。
軍とは名ばかりの烏合の衆に成り果てたシルヴァリア王国軍。
シルヴァリア王国は滅亡した……。
わ、私がいなかったから!?
まさか、たった一人の人間がいないせいで国が滅亡するなんて……いや、あるか。
たった一人の人間、ジュリアスのせいで滅亡しかけたんだ……たった一人の人間、私が防いでいた……。
お父様やお母様……メイドのアイリス。
男爵令嬢のリリアンと子爵令嬢のキャサリン、その子供たち……私の子供たち……。
会えないのは寂しい……。
でも、あれをまたやれるかって?
無理に決まってるでしょう!!
ごめんなさい、みんな!
私は一人で幸せになます!!
——私は死んだ。
死因は老衰だった。
たった一人だけど、安らかに人生の幕を閉じた。
そこそこ好きな事は出来た。
でも、思った以上に人生が長すぎて、後半は寂しさがつのった。
やはり、この人生も次があるなら選びたくない。
絶対に——!!!
そして、15歳の私が目を覚ます。
◆◇◆
俺は老衰で死のうとしている。
好き勝手な事をして、楽しく生きた。
まあまあのいい人生だった。
——ただ一つ後悔があるとすれば、あの時だ。
何故、土壇場で俺はあんな事をしてしまったのか——。
思い出すだけで、ため息と涙が出た。
もし、あの日をやり直せたら、俺の人生は完璧だったんだ——!
だから、稀代の天才魔道士と呼ばれた俺は時間を巻き戻した。
永遠に後悔として刻まれ続ける、あの日、あの瞬間へ——!
時間を巻き戻した俺の目の前にあるのは小さな紙切れだった。
1-12-7
——これだ!
三連単! 伝説の万馬券!!
あの日、俺は直前までこれで行こうと思っていた。
なのに何を思ったのか土壇場で数字を変えた。
ハズレた後に呆然と立ち尽くした。
あのままにしていたら、億万長者になれたのに——。
いや、俺は魔道士として大成功しているから金なら腐るほどある。
だが、そういう問題じゃないんだっ!!
万馬券、しかも歴代最高額!!
これを当てる事こそが、人生の誇りであり勝利の証しだっ!!!
……そして、勝負の時を迎え……。
俺は、完璧な人生の勝者になった——。
俺は、涙を流して勝利の余韻を味わった……はずだった……。
——何故か、国が滅亡した。
滅亡した国でも天才魔道士の俺が生きていくには困らなかった。
しかし、歴代最高額の万馬券は!?
滅んだ国の金は紙屑になる、それはいいっ!!
滅んだ国の競馬の歴史は途絶える、納得いかねぇ!!!
競馬自体は一旦途切れた後に再開されて続いているのに、侵略した国の競馬文化に組み込まれて、あの万馬券がなかった事にっ!!!
「え!? クロードさん、あの伝説の万馬券を当てたんですか!? すごーい!」
って言われたかったのに!!
言われてこそ、完璧な人生になったのに!!
——原因はなんだ!?
俺は、過去二回の人生を振り返って思い出した。
セラフィナ王太子妃!!!
一回目の人生で、俺に王太子ジュリアスの愛人の子が本当に王太子の子かを調べて欲しいと言ってきた女だ。
子供十五人の鑑定をすませて、愛人の子十人中六人が夫の子じゃないと知って、大笑いしていたあの女!!
アイツが、国を滅亡から救っていたのか!?
俺は二度目の老衰を前に時間をまた巻き戻す。
三度目の人生は、国を滅亡から救って、俺が当てた万馬券を歴史に残す!!
◆◇◆
三度目の人生で俺はまた万馬券を当てた。
周りの奴らに「すげー!」と言われる。
これだ! これ!!
この歴史を忘れさせるわけにはいかないんだ!
俺は王太子妃、今はまだ15歳のセラフィナ・オルランディ公爵令嬢の元へ向かった。
遠くから眺める。
一度目の人生で喜んで王太子妃になっていたと思ったけど……いや、愛人の子を育てさせられたりしていたが、結婚自体を嫌がっているとは言われていなかった。
なのに、二度目の人生では急に隣国に亡命したってどういうことだったんだ!?
「嫌です、あんな男とは絶対に結婚しません!」
セラフィナが叫んでいた。
「あんな男って、王太子のジュリアス様はとっても素敵な方ですよ。イケメンだし……ほら、あれ、あれですよ、あれ、顔がとって整ってらっしゃる! それに……えっと、み、見た目が良い!!」
メイドが必死で王太子の良さをアピールしているが、顔のことしか言ってない。
セラフィナが呆れている。
別の場所ではセラフィナの両親が王太子の良さをアピールしていたが、
「顔が……あれだ」
「ええ、顔がね、とってもよろしいものね」
と、やはり顔のことだけだった。
「他には?」
腕組みしたセラフィナに言われて、二人とも何も言えなかった。
「王太子は顔が良い!」
「王太子様はイケメン!」
「ジュリアス様の顔だけは好き!」
セラフィナが、使用人や平民の間を通ると不自然に王太子を誉める声が上がった。
しかし、またもや顔のことだけで、もはや顔だけの男だと貶してるようにさえ感じる。
「王太子の良いところは、王太子だと言うことです!」
そんな当たり前のことさえ新鮮に聞こえた。
しかし、セラフィナの顔は冷たくなるだけだった。
国民全員で王太子の良さをアピールしてセラフィナをハメようとしているが、さすがに王太子に魅力が無さすぎて、無理じゃないのか?
セラフィナが、王太子ジュリアスを好きじゃない事は分かったが、今回は何故、隣国に亡命しないんだろうか?
「もう、ジュリアスを好きになんてならないけど、二度目の人生みたいに孤独も嫌だし……」
不意にセラフィナの独り言が聞こえた。
あ、やり直しの記憶あったんだ……。
これは、セラフィナは絶対に王太子とは結婚しないな……。
セラフィナ以外に王太子の尻拭いを出来る人間はいないのに、職務放棄だ!
なんとかしないと、さっき当てた歴代最高額の万馬券が幻になってしまう——!!
俺は、王太子のジュリアスの後ろにいた。
「浮気やめろ! 公爵令嬢のセラフィナ様を生涯のたった一人の伴侶として一生大事にしろ!!」
ナイフを背中に突き付けて普通に脅した。
「ヒイイィィ!」
ここは王太子と浮気相手とが密会する為の館で、厳重な警備体制が敷かれて、浮気相手しか入って来れないようになっている。
そこに天才魔道士の俺が現れたんだから王太子もびっくりだろう。
もちろん俺の正体は分からないようにしているが。
「常に監視している。背中には気をつけろ」
「わ、分かったぁぁ!」
王太子はブルブルと震えている。
これで浮気はしないだろう……と思ったんだが、舌の根も乾かないうちに別の場所に浮気相手を呼んでいた。
「だぁからぁ! 常に見張ってるって言っただろうがぁ!!」
俺はまた王太子の背中にナイフを突きつけた。
「はいィィ!!」
しかし、また同じことが起こった。
「見張ってるって……言ったどぁろうがぁ!!」
仕方ないので、愛人の方を脅した。
「ナイフで脅された事への精神的苦痛は王家に訴えて、慰謝料をもらってくれ」
「はい……!」
愛人が慰謝料を王家に請求すると払ってくれたらしい。
むしろこの慰謝料が大人気になり王太子と浮気する気もないのに愛人に立候補する者が増えた。
「俺の愛人になってくれる人がいない……」
王太子がポツリつぶやいていて可哀想になってきた。
「婚約者のセラフィナ様がいます……」
俺は王太子の背中にナイフを突きつけて言った。
「セラフィナ! 俺の永遠の愛人になってくれ! 一生君だけを愛している!!」
「は?」
王太子が急にオルランディ公爵家に現れてセラフィナにプロポーズした。
会わせずに騙して結婚させようとしていた周囲は驚いた。
いや、もうその計画は破綻してただろう。
セラフィナは静かに王太子を見つめると、覚悟を決めたようだ。
「背に腹は変えられません。孤独も嫌だし、浮気しないという言葉、信じましょう……!」
セラフィナが王太子の手を取ると、固唾を飲んで見守っていた人々が歓喜に沸いた。
セラフィナの気が変わっては大変と、その日のうちに結婚式が行われた。
人々の心配通り、セラフィナの気はすぐに変わった。
王太子が隣国の使者と揉め事を起こしたのだった。
戦争が始まる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、やっちまった! ジュリアスの問題は浮気だけじゃない、こっちもあったんだあ゛あ゛あ゛!!」
セラフィナが膝から崩れ落ちた
俺は、なんて事をしてしまったのかと後悔した。
王太子ジュリアスは彼女一人に背負わせていい男じゃなかった……!
俺は泣くセラフィナを影から呆然と見つめた。
そして、突風が吹く……!
俺がポケットに入れていた大事な大事な歴代最高額の万馬券が風に飛ばされて——彼女の前に落ちていった。
セラフィナは万馬券を手に取った。
「え? これって……歴代最高額と言われてる奇跡の3連単の万馬券……どうしてこんなところに……」
俺は万馬券を取り戻そうと、セラフィナに駆け寄る。
「すいません、それ、俺のです」
俺に振り向いたセラフィナの目が見開かれて、驚きの笑顔を作る。
「え!? あなたなの!? この伝説の万馬券を当てたのは!? すごーい! すごーい!! 握手して!!!」
さっきまで泣いていた彼女が笑って俺と握手する。
「……落ち込んでたけど、あなたみたいなすごい人に会えて良かったわ。握手して貰ったし、御利益がありそう!」
にこりと笑う彼女に、俺の何かが奪われた。
頑張らなくていい!
セラフィナ、君はもう十分頑張った!!
俺が、万馬券の為に時間を巻き戻したから、君がしなくていい苦労をまたしてるとか、そういう些末な事は置いといて、
諸悪の根源は王太子のジュリアスだ!
アイツが余計な事ばかりして君に尻拭いさせるのが悪い!
自分の尻は自分で拭かせよう!
「ヒイイィィ!」
俺は王太子の背中にナイフを突きつけていた。
「お前が怒らせた使者にちゃんと謝って来い、戦争を終わらせて来い」
「はいぃィィ!」
王太子は俺の言う通りに動いたが、謝る事もできないアホだった。
謝りに行って悪化させて帰って来て、セラフィナ様の心労を増やしていた。
まだ俺はコイツを侮っていたのか……!
俺は、魔道士の力で一時的に有能になる薬を王太子に飲ませて、もう一度隣国に行かせて和平交渉を成功させた。
戦争は早々に終結したが、別のところでまた王太子は問題を起こす。
また、薬で一時的に有能にして解決させた。
ずっと飲ませていたらいいんだけど、そうなると別人になってしまうからなぁ……いや、別人になった方がいいのか?
俺が王太子の尻拭いを引き受けているからセラフィナ様はゆっくりと身重の身体を休めていた。
俺はその姿をそっと見守る。
一人目のフェリックスを抱きながら、
「あなたにはローズって言うお姉ちゃんがいたのよ。そして、あなたは彼女に恋したの。叶わぬ恋だと思ったのに、托卵だったから、うまくいったのよね……って、これって良い話かしら?」
良い話ではない。
俺が一度目の人生で判定したんだが、十人中六人托卵は結構すごい。
男爵令嬢のリリアンも、子爵令嬢のキャサリンも、相手の男は一人で、どっちも今回はその相手と結婚してる。
王太子の金目当てで托卵してたのか? 二組も!?
そして、王太子に托卵してた一人目はどっちも産まれてる。
キャサリンの方は二人目も托卵だったからそっちも産まれてる。
セラフィナが産気づく、そして産まれたのは双子だった。
「え? 一人は前回の人生で私が二人目に産んだ子だけど……! もう一人は、リリアンの二人目の女の子に似てる……托卵じゃないって判定されてた子……」
ん? それって、まさか……。
「ジュリアスの子は私から産まれるとか……!? 双子をあと一回、三つ子を最後に一回、産まなきゃいけなくなるんだけど……」
……他のことはなんでも俺が助ける。
でも、出産だけは君がやるしかない、頑張れ、セラフィナ様!!
そして最後の出産——。
四つ子が生まれた。
「嘘でしょう!? アイツ、ジュリアス、他にも隠し子がいたんだ……。今回、浮気してないのは本当みたいだけど……私はあと何人産めばいいの……!」
結局、セラフィナ様はあと三人子供を産んだ。
前回より二人減った十三人の子供の世話に追われるセラフィナ様だが……ここからは俺が完璧にサポートするから、セラフィナ様の出番はなかった。
子供同士の揉め事は、一度頭を冷やす魔法をかけて自分たちで解決させるようにした。
結婚相手については一度目の人生と同じ相手と自然に出会わせて、自分から結婚させて欲しいとセラフィナ様に頼みに行かせるようにした。
「運命なのかしら?」
セラフィナ様は驚いていたが、結婚後に見知った孫に会えて喜んでいる。
前回いなかった子たちにも、いい縁談を用意して、こっちもセラフィナ様に新しい孫の顔を見せている。
孫たちについても俺が面倒を見ている。
「今回はおばあちゃんが私だけってことになってないから楽だわ〜」
一体、一度目の人生でどんな苦労をして来たんだ、セラフィナ様は!
国の運営などは、人が変わった有能なジュリアスに任せておけば大丈夫だ。
一度目では孫の顔を見れずに亡くなっているから、俺が身体の事も診て薬の配分を毎日変えている。
天才魔道士の手厚い看護を受けられるなんて、セラフィナ様に感謝しろよ、王太子!
そんなわけで、セラフィナ様はゆっくりと自分の時間を過ごしている。
「クロード! お待たせ! 行きましょう!」
俺とセラフィナ様は、休日には競馬場に行くようになった。
「クロードよりすごい万馬券を当てるのが私の人生の目標なの!」
セラフィナ様と過ごす時間は幸せだった。
ただ、セラフィナ様は王太子の奥さんで、俺のモノじゃない。
それだけが、少し心残りだ——。
「セラフィナ様、もし……もう一度、人生をやり直せるな……」
「あ゛?」
セラフィナ様が一瞬にして鬼のような形相になった。
「な、何でもありません……!」
……冗談でも、セラフィナ様の前で人生のやり直しなんて言えない……!
俺は、恐怖で震えた。
君が、今、幸せならそれだけで、俺は何も望みません!!!
◇
三度目の人生で、素敵な人に会った。
一度目の人生でも会っていたけど、まさか、魔道士が競馬好きとは思わなかったわ。
知っていたら、一度目の人生も変わっていたかもしれない。
前世での趣味が競馬だったから、一度目では出来なかった事が三度目で出来て良かったわ!
子供や孫たちに囲まれて、クロードとも一緒にいられる今が幸せすぎて、やり直しなんて絶対したくない!!
だいたい10代で子供産んで、30代で孫がいるから、老衰死するまであと五十年以上あるし、三度目の人生、幸せの期間が長すぎない?
まあ、この幸せな人生をやり直すのは嫌だけど、
来世があるなら、クロードと——。
次の、万馬券が当たるまで、一緒に!




