ギルドでバイト募集してたから行ってみた
ギルドとは接客業である。
それが「スカルギルド」で働き始めたクレイの率直な感想だった。
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バイトを始めよう、と思った。
地元から、街の方の学校へ進学した私、クレイは一人暮らしを始めた。
初めは、親元から離れる解放感、新たな友達との出会いに心を躍らせていたものだ。
しかし一人暮らしから数か月経った今、お金が足りない、と感じ始めた。
親元を離れた解放感で衝動買いを重ね、友達とも遊び歩いた。
結果、見事に金欠になった。
一体どうしたものかと学校の友達に相談してみると、「アルバイト」というものを勧められた。
聞けば、学生の短時間の労働形態を指すらしく、クラスでも半分以上の人がやっているとのことだった。
これは良いことを聞いたぞ、と早速私はアルバイトを募集している店を探すことにした。
「バイトの募集は基本ギルドに張り紙が出されてるよ」と聞き、その日の学校の帰り道に最寄りのギルドに寄ってみた。
そこには、八百屋、果物屋、料理店、さらには武器屋や防具屋、果てには錬金の仕事まで、実に様々な職種の応募が出されていた。
どの仕事が良いかなと頭を悩ませていると、ふとある疑問が頭をよぎった。
ギルドでのバイトは募集していないのだろうか。
張り紙には出されていなかったので、ダメ元で受付の方に相談してみることにした。
伺ってみると、受付の方は少し考えた後「少々お待ちください」と言い残し、カウンターの奥へ行ってしまった。
しばらくすると、カウンターの奥からここのギルドの経営者(?)と思しき真っ白な髪と髭を伸ばした高齢の男性が出てきた。
「ここのギルドで働きたいというのは君かな」
ギルドマスター(と一旦呼ぼう)の問いかけに思わず「はい」と答えてしまった。
まだ他の仕事も見ている途中だった。
だが、カウンターでちょこちょこ働くだけなら楽そうだと思ったので、まあ良しとした。
少しして、「それなら来週に履歴書持って今日と同じ時間またここにきて」と言い残し去っていった。
アルバイトとはいえ一応労働ではあるので、かなり形式張ったものだと思っていたが、随分とあっさりした対応だったため、拍子抜けしてしまった。
翌週、履歴書を埋め再びギルドに向かい、ギルドマスター(本当にそうだったようだ)の面接を受け、ギルドで採用してもらえることとなった。
こうして、私の「スカルギルド」でのバイトの日々が幕を開けたのだった。
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「クレイちゃん、売店の品出し補充お願い」
「分かりました」
「あークレイさん、そっち終わったら依頼の張り紙出しといて」
「りょ、了解です」
「おーい、依頼を受けたいんだが」
「あ、はい、ただいま伺います!」
ギルドで働き始めて分かったことは、仕事量が大変多いということだ。
ギルドの仕事は依頼の受付だけではない。
近年の冒険者の増加に伴い、ギルドの業務も多様化してきた。
現状は(他のところがどうかは分からないが、少なくとも私のところでは)依頼の受付に加え、ギルド内の小売店や飲食店の運営、賭け事の場所の提供、その他様々な要望への対応が業務となる。
当然覚える作業の手順も非常に多く、私はまだ覚えきれていない。
この仕事量なので、業務中常にマルチタスクを強いられ、心身ともに一息つける時間がほぼ存在しない。
加えてこれだ。
「はぁ!?この俺が依頼を受けられないだと!?舐めてんのかテメェ!」
「申し訳ありません、こちらの依頼はBランク以上の冒険者のみが受注することができるためお客様に紹介することはできません」
「ランクなんか関係ねぇだろ!実力で評価しろや、融通の利かねえクソ女がよ!見る目ねぇな、どうせ彼氏もいねぇんだろ」
客の民度が終わっている。
冒険者とは危険な職業だ、高難易度の依頼となると死者も出ることもある。
そんな危険を冒してでもロマンを得ようとする勇敢な、悪く言えばアホな男達に特に人気の職でもある(もちろんSランク帯のトップ層とかは違うのだろうが)。
そいつらをギルドはメインターゲットにしているため、自意識過剰、不衛生、ノータリンなど毎日様々なクソ客がやってくる。
よってこのような罵詈雑言が飛んでくるのは日常茶飯事なのである。
てか彼氏がいないは余計だろ、ぶっ飛ばすぞ。いないけど。
「クレイちゃん、品出しの方行っていいよ。お客様、大変申し訳ありませんでした……」
「す、すみません、ありがとうございます」
先輩がカウンターにきて、私の客の対応を引き継いでくれた。
今の状況は私の手に余るとみて、助けに来てくれたのだろう。
先輩に言われた通り、カウンターを抜け、小売店の方へ向かう。
ずっと前からここで働いている人にとってはいつも通りの光景なのだろうが、正直かなり堪える。
膨大な仕事量に翻弄され、すべてを捌ききることができず、自身の不甲斐なさを痛感する毎日。
それに追い打ちをかけるように浴びせられる人格否定の言葉の数々。
正直、参ってしまった。
「働くのって、こんなにキッツいんだな~……」
業務中にも関わらず、無意識に口から零れてしまった。
これはいかん、と気を取り戻し、品出しの作業を始める。
一日が、随分と長くなったような気がした。
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ある日のバイト終わり、アパートに戻ると、ポストに手紙が入っていた。
誰からだろう、と手に取り、差出人を見てみると、母親だった。
ああ、そういえば、と先日母親に手紙を送ったことを思い出す。
一人暮らしをするにあたり、両親から、「週に1度は手紙をよこすように」と言われていた。先日送った分の返信が来たのだろう。
この前は何を書いたんだったかと振り返る。
バイトが超大変で辞めたい(要約)って書いたんだっけかな、確か。
手紙を開けてみると、元気か、ご飯は食べているか、ちゃんと学校行けているか等のいつものお約束が書かれていた。
過保護だなぁ、と苦笑し、読み進めていく。
すると、ある部分で目が止まる。
『初めてのアルバイトにだいぶ翻弄されているようですね。もう耐えられない、というのであれば、辞めるのを止めはしません。ですが、もう少しだけいけるかな、と思うのであれば、続けるのを推奨します。学校に行くだけでは得られない学びが、きっと手に入るでしょうから。』
その後の文章は、実家側の近況報告と、また私の体調を気遣う言葉が綴られていた。
読み終えたところで手紙を閉じ、顔を上げる。
学校だけでは得られない学び。
そんなもの、今のところはさっぱり分からない。
分かったことといえば、働くのは大変だということくらいだ。
……いや、自分で稼いだ金は嬉しいのかもしれない。
お金のことを考えてきたら少し元気が出てきた。まだバイトを続けることはできそうだなと思う。
そして、手紙を持っていた鞄にしまい、自分の部屋へ戻った。
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バイトでミスをしてしまった。
Cランクの冒険者にAランク以上推奨の難易度の依頼を受注させてしまった。
私のミスに初めに気付いたのは先輩だった。
「ん……?ごめん、クレイちゃん、その控え見せてくれる?」
「あ、はい、どうぞ」
依頼書は受注後冒険者控えとお店控えに分けられる。そのお店控えの方に記載された冒険者のサインを見て先輩は気付いたのだろう。
「この人って確か……Cランク冒険者だったはず、クレイちゃん、あなたこれ間違えて受注させてるよ」
「え」
心臓が大きく、どくん、と音を立てた。
見落としていた。もらった冒険者証明書にしっかりランクは記載されていたのに。
やばい、と頭の中が警鐘を鳴らし始める。
冒険者の死亡事故は少なくない事例だが、その原因の一つに、「依頼難易度と冒険者のランクの乖離」がある。
私が発注させた任務は「レッドドラゴンの討伐」、死亡事故も珍しくない依頼だ。
指先が冷たくなる。
私のせいで人が死ぬかもしれない。
先輩が「ちょっとギルマスに相談してくるね」と言っていたが私の耳には届かなかった。
視界がうつろになり、呼吸が荒くなっていく。
もし死亡事故になったら、私は彼やその遺族に対して責任を取れるのだろうか。
私だけではない、ここのギルドの方や、家族にまで影響が及ぶ。
私はいったい、どれだけの人に迷惑をかけることになるのだろうか。
頭の中がぐちゃぐちゃになってその場に呆然と立ち尽くしてしまった。
客を馬鹿にしているくせに、ホンモノの馬鹿は私じゃないか。
いつもは次から次へと冒険者が来るのに、今日に限って、閑古鳥が鳴いたようにギルドは静かだった。
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どれくらい経ったのだろう。ギルドの扉が開く音がした。
重い顔を上げるとそこには、先の冒険者が五体満足でそこにいた。
は、と気の抜けた声が出る。
目の前の状況を理解できないでいると、後ろから先輩がやってきて、説明してくれた。
「いくつかのギルドに連絡してね、彼を助けるよう要請を入れたの」
「いやーすんませんっス」
冒険者は頭を掻き、申し訳なさそうに頭を下げる。
「自分のランクと離れてることは分かってたんスけど、「レッドドラゴンをソロ討伐!」ていう男のロマンをど~しても追い求めたくなっちまって……」
事態を把握すると、ふっ、と緊張の糸が解け、その場にへたり込んでしまった。
「……よかった……」
「あっ、嬢ちゃん、大丈夫スか!?」
「……よ、よかったです…!無事で、無事で本当によかった……!申し訳……申し訳ありませんでしたっ……!」
気付けば顔をぐしゃぐしゃにして声を上げて泣いてしまっていた。
私がその場から動けないでいると、先輩が後ろから背中をさすり、落ち着かせようとしてくれた。
「カウンターの裏行こっか、ね?お客様は私が対応しておくから」
戸惑う冒険者の彼に、少々お待ちください、と伝え、先輩は私を支えながらカウンターの裏へ連れてってくれた。
裏に入り、座らせてもらってからも、私はしばらく泣き止まなかった。
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「どう?少しは落ち着いた?」
「……はい……」
対応を終えた先輩が、裏に入って様子を見に来てくれた。
私は目を腫れぼったくさせながら頷いた。
どのくらい経ったか正確な時間は分からないが、小一時間くらいは過ぎたと思う。
後処理にも手間がかかったんだろうなと考える。本来私がそれをするはずだったのを先輩が変わってくれたと思うと、また申し訳なさが生まれた。
「今回は本当に申し訳ありませんでした……私のせいで、先輩や冒険者さんに迷惑をかけてしまって……」
「それはもう十分伝わったよ、大丈夫。多分クレイちゃんが思ってるより重い問題じゃないし、それに悪いのはクレイちゃんだけじゃないんだから」
えっ、と思わず声が出て、先輩に向け顔を上げる。
人を危険にさらしておいて、どこが重い問題じゃないというのか。
そんな私の意図を読み取ったのか、先輩は続ける。
「死亡者を出すような危険性の高い依頼については基本的に検問があるんだよ、本当にこの人が挑んでも問題ないかってね。で、彼がそれに引っかかってる間に引き戻させたってわけ」
先輩の説明を聞き、少し腑に落ちた。
とはいえ私が気付けていれば迷惑をかけさせずに済んだことだ。心の靄は晴れない。
でも、と言いかけると先輩は人差し指を唇に合わせ言葉を抑える。
「そもそも、身の丈に合わない依頼を持ってきた彼が原因なんだからね、表では言えないけどさ」
そこまで言われると、何も言えなくなってしまい、俯く。
気持ちの整理が付かず黙り込んでいると、先輩が肩に手を置いてきた。
「それと、クレイちゃんにかまうことのできてなかった私達にも問題があるよ」
思いがけない発言に、私は驚愕し、先輩の方を向いた。
迷惑をかけられた側だというのに、自分にも責任があるというのか、と意図を理解できず、眉を顰める。
先輩は私に微笑み、言葉を重ねる。
「私含めて、自分の忙しさにかまけてクレイちゃんの助けに回ってあげることがあんまりできてなかった、本当にごめんね。でも、クレイちゃんが頑張ってたのはみんな知ってる。説得力無いかもだけど。」
「いつも一生懸命に働いてくれて、ありがとう」
そう言って、先輩は私の手を両手でギュッと握った。
納まったと思ったはずの涙が、また零れてきた。
先輩は私を責めるどころか、なんと感謝まで伝えてきた。
もう、何もわからなくなってしまった。
ただ、「ありがとう」という言葉が強く心に響いた。
「こんなところだけど、続けてくれたらうれしいな。私、クレイちゃんのこと好きだからさ」
そう言って先輩は椅子から立ち上がり、手を差し伸べる。
「今クレイちゃん休憩ってことにしててさ、そろそろ終わるんだけど、行けそう?」
「はい!任せてください!」
涙をぬぐい、私は勢い良く返事をした。
ここまで言ってくれる先輩に応えなくてどうする。
拳を固く握りしめ、先輩と共に再びカウンターに向かう。私を助けてくれた人達に報いるためにも。
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「お疲れ様でした!今日は本当にありがとうございました!」
今日の業務を終え、従業員に挨拶を済ませ、手を振ってきた先輩に会釈してギルドを出る。
空を見上げると、日はもうすっかり落ち切っていて、辺りは暗くなっていた。
ほっと一息つき、帰路に就く。
あの後、業務に支障はなく、いつも通りに進んだ。ただ、頼りになる先輩達がいると分かっていたからか、気分はいつもより軽かった。
いつもはギルドまでの道のりが苦痛だったが、これからは楽になりそうだ。
家までの道のりの中頃まで歩いたところで、ふと今日の夕食を買っていないことに気付いた。
幸い弁当屋が近くにあったので、そこに寄ることにした。
「いらっしゃいませ!」
弁当屋に入り、適当に一つ選んでそれを店員に手渡した。
「550マネーです」
鞄から財布を取り出し、お金を出そうとしていると、突然、先輩の「ありがとう」という言葉が頭をよぎった。
店員に金額とちょうどのお金を手渡した時、無意識に口から出ていた。
「…ありがとうございました」
「ありがとうございました!またお越しくださいませ!」
店から出た後、この前の母親の手紙の内容を反芻していた。
「学校で得られない学び……あったよ、お母さん」
先輩に言われた「ありがとう」を思い出す。
たった一言なのに、不思議なくらい胸に残っていた。
私も誰かに、ちゃんと伝えられる人になりたい。
そう思いながら、弁当の袋を抱えて家路を急いだ。
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ギルドの扉が開く音がする。
今日も私は、感謝を伝えるため、人と誠心誠意向き合っていく。
口を開き、よく通る声で冒険者を歓待する。
「いらっしゃいませ!」
最後までお読みいただきありがとうございました!




