きらきらしない星の願いごと
冬の夜空は、
宝石箱をひっくり返したようでした。
凍てつく空気がレンズとなって、
星たちはいつもより鋭く、
美しく瞬いています。
「見て、ぼくの光を!」
「わたしの方こそ、きれいでしょう?」
一等星も、
小さな星くずたちも、
みんな競い合うように
「きらきら」と輝いていました。
けれど、その輝きの輪の中に、
ひとつだけ、
まったく光らない星がありました。
それは、夜空のすみっこにある、
古びた石ころのような星でした。
仲間の星たちが、
命を燃やして流れ星になり、
誇らしげに地上へ降り注いでいくのを、
ただ見送るだけ。
自分には、あの輝きも、
願いを叶える力もありません。
(ぼくは、夜空のただのシミだ)
光らない星は、
かじかむように身を縮め、
暗い闇に身を潜めていました。
ある、とても寒い夜のことです。
地上で、ひとりの男の子が泣いていました。
厚いコートを着ていますが、
心の中まで冷たい風が
吹き荒れているようです。
今日、誰かが自分の名前を
呼んでくれただろうか。
そんな行き場のない寂しさが、
胸の奥で凍りついていました。
男の子は涙をこらえようと、
夜空を見上げました。
「……お願い」
消え入りそうな声でした。
すると、夜空の星たちは色めき立ちました。
願いごとは、星たちにとって最高のご馳走であり、
出番だからです。
「ぼくに願って! 一番明るいよ!」
「わたしの光を見て! こんなにきれいよ!」
星たちは男の子を励まそうと、いつもより強く、
激しく瞬きました。
夜空はまるで遊園地のパレードのように、
きらきら、ちかちかと着いたり消えたりします。
けれど、男の子は顔をしかめました。
あまりに眩しすぎたのです。
あまりに騒がしすぎたのです。
あふれる光の激しい流れは、
悲しみに暮れる心には、
少し強すぎました。
「……どこを見たらいいか、わかんないや」
男の子は、
疲れた目をふっと逸らしました。
彼が視線を向けたのは、
きらきらした星たちの隙間。
光のない、
ぽっかりと空いた暗い場所でした。
そこには、光らない星がいました。
(あ……)
星は驚きました。
何億年も空にいて、
人間と目が合ったのは初めてだったからです。
もちろん、男の子にこの星は見えていません。
男の子が見ているのは「暗闇」です。
でも、光らない星は、
確かに見つめられていました。
男の子の瞳から、
一筋の涙がこぼれ落ちます。
その涙は、どの星よりもきらきらと光っていました。
その時、光らない星の胸に、
熱いものがこみ上げてきました。
それは光ではありません。
もっと静かで、強い意志でした。
(ぼくは、きらきらしていない。だからこそ、できることがある)
他の星たちのように、
派手に輝いて励ますことはできない。
流れ星になって、
奇跡を起こすこともできない。
けれど、この子が安心して涙を流せる
「静けさ」になることはできる。
星は初めて、自分のために願いを持ちました。
(この子が、ひとりじゃないと気づけますように)
星は、力を込めました。
光るためではありません。
そこに「在る」ために。
広大で不安な夜空に飲み込まれないように、
杭のようにその場に留まり、
静かに、じっと、男の子を見守り続けました。
――きみは、ひとりじゃないよ。
――ぼくも、ここにいるよ。光らずに、ここにいるよ。
声にはなりません。
光にもなりません。
ただの暗闇として、
星はそこに在り続けました。
しばらくして。
男の子の呼吸が、
ゆっくりと深くなりました。
きらきらした光の隙間にある、
何もないけれど、確かな闇。
その静寂が、
男の子の心を優しく包み込んだのです。
「……大丈夫だ」
男の子は小さくつぶやくと、
手袋で涙をぬぐいました。
その顔には、微かな強さが戻っていました。
やがて朝が来ました。
太陽が昇ると、
自慢げだった星たちの光も薄れていきます。
もちろん、光らない星の姿など、
誰にも見えません。
それでも、彼は満たされていました。
心の中には、
昨日の男の子の涙のきらめきが、
宝物のように残っています。
(ぼくは、このままでいいんだ)
誰かに見つけてもらわなくても。
きらきらと輝かなくても。
誰かの安らぎになれるなら、
闇の一部であることも悪くない。
澄み渡る青空の向こうで、
光らない星は今日も静かに浮かんでいます。
世界でいちばん地味で、
けれど誰よりも誇らしげに。




