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現代お茶人作家のつれづれ日々帖  作者: 久慈柚奈
2026年3月

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買った着物が高くて、なかなか袖を通す勇気が出ない。時の、考え方

着物は伝統工芸品です。高くて自然。

ことに正絹で作られた、「作家もの」と言われる逸品は。


私の着物はほとんどが祖母から譲り受けたものや、リサイクルショップなどで一目惚れしたものです。プライスレスな着物を、あえて値段の次元に落とし込んで語るならば、その購入等価格は私にとっては0〜3000円くらい。

一方で、私は一つだけ、自分で買った作家ものの帯を持っています。作家ものゆえに一点しかなく、一目惚れだったのです。大切に巻き続けています。

また、おばあちゃんから譲り受けた着物も、一点ものという意味では同じです。

購入当時に親戚の誰かが高いお金を出してあつらえたものでしょう。私にとっては0円でも、先祖の大金なのです。


着物って、貴重。


そう思えばこそ、扱いに気をつけるし、痛めたくないと思うし……プレッシャーが高じて、袖を通すのに躊躇する時も、ままある。

大切にしたいからね。

一方で、着物は読んで字の如く「着る物」ですから、タンスの肥やしにしていると虫やカビに襲われて大変なことになります。

昔は虫干しなどしたそうですが、着物が大多数において普段着で亡くなった昨今は「着ることが虫干し」などとも言われるようです。


では、着なければなるまい。


でも、着たら、汚してしまうかもしれない。痛めてしまうかもしれない。

そうなったら取り返しがつかなくて、怖い。

高かったし……貴重な物だし……。


……と、思ってしまいます。


私もこの思考ループにはまって長かった。今でもはまる日があります。大切なものを扱っているからこそでしょう。

私は思考を変えることにしました。


着物はエンドユーザーである「着たい人」(つまり我々)のところに来た時点で、商業的価値が0円になるのだ、と。


実際、買取業者が査定する着物の査定額はめっちゃ低いです。おそらく当時は数十万もしただろう着物が、査定に出せば数百円。いや、「百」までいけばいい方かも?

国内での着物需要は下がっているらしく、業者が買い取った着物はほとんど海外に輸出されると聞いたことがあります。

おそらく現在の日本では、「着物をめっちゃ着る人はめっちゃ着るけど、着ない人は全然着ない」という二極化が起きているのでしょう。

着物界隈にいれば、世の中にはかわいい着物が溢れていて手に入りきらないくらい! と感じられるのでしょうし、一方世間に出れば「着物は需要がない」と見做される。

いくら我々が着物を愛好していても、価値を見出していても、マジョリティ的にはその価値は数百円なのです。


だったら、リセールバリューなど頭から追い出して、自分の手元にやってきた着物たちを、着て、着て、着て、着倒そうではありませんか。


……と、私は考えることにしています。

私は末代になる予定だし、周囲に着物好きがいないので、今私の手元にある着物たちが、私の目と両腕が届く範囲の誰かに行き渡る見通しが全然ありません。私の両腕は半径85センチくらいしかないから。

将来は有名になって、「あの久慈さんが所蔵していた着物」として、地球の誰かの手に渡ったらいいな、とは考えているけれど。まだその誰かが誰なのかも分からないし。箔をつけるならいっぱい着ておくべきだし。


もしも私の遺品を整理してくれる誰かが、着物の価値が分からないし着る趣味もなくて、「ただの迷惑な箪笥のひと棹」に成り果てるかもしれないなら、着物たちが哀れでなりません。

私がたくさん着ておかなければ。


どんなに気をつけていても大切なお皿は割れることがあります。着物も同じ。

着ていれば、どれだけ気をつけていても、どこかに引っかけたり、ほつれたり、コーヒーをひっくり返したり……する可能性がある。

じゃあそれを恐れて箪笥に仕舞い込んでいればいいかというと、ある日大災害がやってきて、家ごと消し飛ぶ可能性があるわけです。

だったら、着れるうちに着るのが得。

持ち主にとっても着物にとってもウィンウィン。ではないでしょうか?


雑に扱うというわけではない。

丁寧に着る。

不意の災害(地震、雷、火事、コーヒー)には気をつけながら。

きっと、それでいいのです。

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