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現代お茶人作家のつれづれ日々帖  作者: 久慈柚奈


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ミニマルな舞台には広い倉庫が必要

茶室に流れる非日常。あのすっきりした空間に憧れる。


お茶に必要なもの、というか最低限すぎるものしか置かれていない。掛け軸や花などのしつらえでどんな雰囲気にもできてしまう仕様は、まるで舞台みたい。大道具を入れ替えることで、草原にも城壁にもなる舞台のような……。


そこから連なって、いわゆるミニマリストの部屋を想起する。私もミニマリストに憧れて、できるだけモノを減らした時期があった。やっぱり視界に映る「モノ」が少ないと思考が散らかりにくい感じがあるし、モノの圧迫感、「霊圧」とでもいうようなものが極限まで減らされている感じもあった。


……けれども、対比されることもある「茶室」と「ミニマリストの部屋」には決定的な違いがあることに、茶道の情報に触れる中で気づき始めてきた。

「続き間の有無」。


ミニマリストの部屋が整理されているのは、モノを極限まで減らしているから。

茶室が整理されているのは、不要なもの、今の茶席では使わないものは、茶室以外の部屋にしまっているからだ。


抹茶という食品を扱うからには、うつわを洗わなければならない。懐石の漆器は濡らす必要もある。

茶室には水場はない。

代わりに茶室を出たすぐのところに「水屋」と呼ばれる付属のミニキッチンみたいな空間がある。歴史を紐解けば、水屋にも客人を通して2杯目以降のお茶をふるまったりしたこともあるとか。

水屋は茶会の準備をする場所。そこには茶会(茶室の飾り、懐石、炭の手入れ、お点前)に必要なものが揃っていて、モノが多く置いてある。置き場所が決まっているけれど、使うモノの個数を減らすことはちょっと難しい。どういう道具をどこでどのように使うか、作法として決められているからだ。

茶会で使う道具を全部茶室に持ち込んだら、茶室のあの静謐さは一瞬でぶち壊されてしまうだろう。茶室は必要な道具を隣の部屋に預けることによって、非日常的なまでのシンプルさを実現しているのだ。

そもそも侘び寂びの茶室はある程度お金のある人たちによって楽しまれ、作法が固められてきたこともあって、屋敷の一角に建てられていることが多い。

彼らは茶室で寝起きするのでも、普段の食事をとるのでもなく。暮らしの他の機能は広い屋敷のいろんな部屋に分散させていて、生活の裏方を担ってくれる下男下女も抱えていて、その上で侘び茶を楽しんでいたのだ。


現代のミニマリストと並べて語るなら、鴨長明が晩年に暮らしたという「草庵」の方が近いと思う。

持ち運べるように軽い素材で作られた四畳半の空間を簡単な衝立などで仕切り、仏画を飾る神聖な空間、布団を敷いて寝起きする空間、台所などを備えた小さな住まい。

時代的、あるいは建築上の都合でかまど(キッチンの機能)は建物の外、家の近くに分離されていたにしても、必要最低限なものだけを持ち、最低限な空間に暮らすという点では、鴨長明を初代ミニマリストと呼んで差し支えないのではないか。

鴨長明の暮らし方に憧れる人が多かったために、普段の生活の場出会った屋敷からちょっと離れたところに茶室がわざわざ作られ、茶を点てて心許せる相手と語り合う場が整えられて行ったのではないかと思う。

茶を点てる「だけ」なら、普段寝起きする座敷でやったっていい。でも昔の茶人たちが求めていたのは、単なる「美味しいお茶」だけではなかったのだろう。だからこそ茶室という舞台が作られた。


茶室の非日常的ですらあるシンプルさには、日常を水屋の向こうに隠しているゆえの作為がある。そこを見落として闇雲にモノを減らすのは、誰にでもできる暮らし方とは言えないんじゃないだろうか。鴨長明は自分に必要なモノの量と空間の広さを知っていたのだろうし、千利休は茶室から何を除き何を残せば茶の心を際立たせられるか、きっと知っていた。

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