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現代お茶人作家のつれづれ日々帖  作者: 久慈柚奈
2026年3月

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コマンド「お抹茶を点てる」がゲシュタルト崩壊しそう

先日、お茶席のお手伝いをさせていただく機会に恵まれました。

亭主が用意した道具組は、3月ということもありひな祭り。

床の間にも立礼棚にも立ち雛が飾られて、茶席の雰囲気も相まってとても華やかな感じがした。


お手伝い人数が限られているため、「お点前は、参加者1回ずつ」というわけにはいかない。

茶席の開催時間中、お客さんがお越しになれば何回でもお点前をする。

私も習いたて、覚えたての立礼に挑戦させていただいた。

……のだが、やっぱりお稽古と、本番の一種であろうお茶席とは違う。雰囲気も、目に入る景色も、緊張感も。

私はお茶を点てる前に水指の蓋を開けるのを忘れ、茶巾を正面で茶碗の中に入れて拭き始めるのを忘れ、あれも、これも……。お抹茶をひっくり返したわけでも、お道具を落としたわけでもないけれど、「あ、これ抜けてる!」って後から歯噛みしたくなるようなミスをいくつもしてしまった。

まだまだ修行が足りない(当たり前だけれど)ということを突きつけられた。鼻を高くしてはいけない。

茶道は「許状」がもらえる、一生学び続けることが推奨されている世界だ。

低い自己肯定感を虚勢と達成感で埋めようとしがちな私にとっては、まさに精神修養にもってこいである。謙虚に生きよう……。


そんなことを考えつつ、お点前をさせていただいたり「かげ出し」(裏千家茶道で、お点前をせず水屋で点てたお抹茶をお出しすること)に勤しんだりしていた私は、だんだんゲシュタルト崩壊してきた。

予想外にも「薄茶を点てる」という動作に対して。


私は左利きなこともあって、お点前の流れを覚える以前に「右手で茶筅を持って茶を点てる」というところから練習が必要だった。これまでの半生で、左手の補助みたいな役割しか果たしてこなかった右手は、抹茶を点てるというような繊細で、手首のしなやかさを求められるような器用な動きに慣れていない。

私はこれまで趣味の範囲で、左手に茶筅を持ってご自服してきたから、「利き手で点てた抹茶(私のポテンシャル)」と「右手で練習中の抹茶(見るからに泡が少ない)」の差が歴然としていて、茶道教室に通い始めた当初は愕然とさせられたものだった。

およそ1年ほど経った最近は慣れてきて、まあせいぜい2服くらいまでなら、右手で上手な見た目に仕上げられるようになってきた。


ところが今日はお茶席。2人どころじゃなくお客様がお越しくださる。

私は気がつくと3回、4回とお点前をし、5回、6回とかげ出しをしていた。

あれ、右手で2服以上の抹茶を点てている! それに、あまり利き手と遜色がない見た目かも。

手応えを感じられたのは嬉しかったのだが、気づいて意識してしまったのがいけなかった。

右手が急に手首の疲れを認識し始めて、ゆるやかなゲシュタルト崩壊を起こし始めたのである。

「あれ? 茶筅の動かし方って、これでいいんだっけ?」

「なんか手首疲れてきた。人生で一番、右手で抹茶点ててるよ〜」

気づいたのは何回目かのお点前の最中で、すぐさま手を止めたり、投げ出したりするわけにはもちろんいかない。

気合いでそのお点前はきちんと終わらせ、しばらくかげ出しにしがみついて右手を休ませることにした。

では、その間左手で点てよう。

……と思って左手で茶筅を握ったら、これまた大変。

これまでのお稽古と自主練の成果か「抹茶は右手で点てるもの」と左手首も認識しつつあるらしい。久々に左手で茶筅を握ったら「え!?自分ですか!」というアテレコが似合いそうなほど、手首の動きがぎこちなかった。これには自分でもびっくりした。なんか、うまく点てられなかったし。


よく書いている漢字だって、ゲシュタルト崩壊を起こして急に書き方がわからなくなったりすることもある。いわんや覚えたてのお点前をや。

逆によく乗り切った……と、自分を褒めたい。

もちろん、お点前を間違えてしまったことは改善の余地しかない。お客様の手前、黙って見守って下さった先生に感謝である。

ゲシュタルト崩壊と付き合うために、かげ出しも自主練もほどほどに。

だからこそ短期集中ではなくて、長くじっくり続けていくことが大事なんだろうな。


ちょっと遅めの、楽しいひな祭りめいた一日だった。

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