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現代お茶人作家のつれづれ日々帖  作者: 久慈柚奈
2026年2月

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お湯とビール。貴重だった水のこと。

茶道において炭が重要視されるのは、その昔、「湯」が貴重であったからだという。

飲める水を、体を温めてくれる温度にまで熱するということ。

それには火がなければダメで、火も、人間が起こさなければ恣意的には発生させられなかった。


……という歴史的事実を、スイッチひとつでどちらも手に入れられる現代にいて切実に想定するのは難しい。きっとできるだけリアルに想像しようとして、当時の人から見たら決定的な何かが欠けているのではないだろうか。


お点前の中で、薄茶を点てるためのお湯を釜から汲みあげた時、柄杓の湯の半分だけ使って、残りは釜に戻す動作がある。

これは「貴重な水を、世界のほかの人がわけあえるように」というようなニュアンスを込めた動作だという。世界という広い範囲までいかなくても、釜に残った湯は、茶室で時間を共にしている二客、三客が飲む薄茶を点てるのに使うことになる。次の人にも湯が行き渡るように、という心遣いは、身近な実用性でもあり、茶室の外の世界に豊かさを祈るところへつながっていくのだろうか。


一方、はるかエジプトやヨーロッパでは、長らく「そのまま飲める水」が貴重だった。

井戸水をそのまま飲むよりはビールにして醸造した方が清潔だから、真水よりビールの方が飲まれていた時代が長かったのだという。

ビールに含まれる栄養素は、物質の少ない庶民の健康を下支えしてもいた。紅茶が席巻した頃のイギリスでは、ビールを飲む文化が紅茶に取って代わられた結果、栄養不足が発生したらしい。

ビールは娯楽であり、大人も子供も年齢問わずに口にする、日常的な水分だったわけだ。


日本では「飲める水の温度」が貴重がられ、西欧では「飲める水の質」が貴重がられた。土地柄による違い。

今は蛇口のひとひねり、スイッチのひと押しで清潔な湯水が手に入る。ひとは毎日風呂に入る。温泉が湧き出ている場所でもないのに。

時々、「もしも、今も湯水が貴重な時代だったら」と想像をふくらませてみる。


「重きを軽く、軽きを重く」扱う茶道では、柄杓一杯ぶんの湯水は多分、「軽い」方に入る。

それを重々しく使う。

とびきり貴重で重々しい存在として。

そうすると水を注いだうつわの扱いも丁寧になるし、それが日常生活にも広がって、水の出しっ放しなんてとんでもないなとか、料理の水加減これでいいかなとか。自然と心を配れるところが増えていく。

これって節水になって、ゆくゆくは地球環境さえ守ってくれるんじゃなかろうか。

茶室の中には確かに宇宙があるのだ。

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