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現代お茶人作家のつれづれ日々帖  作者: 久慈柚奈


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ねりきりは、好きなお店で買うに限る

近くの百貨店にやってきた「京都展」に足を運んだとき、和菓子屋さんが出店していた。

なんでも目の前で職人さんがねりきりを作ってくれ、できたてを買って帰ることができるらしい。

人間はライブ感のあるものに弱い。かくいう私もそうなので、さっそくねりきりの種類を選びオーダー。

そのねりきりは、普段身の回りで手に入るねりきりの1.5倍くらいの値段がした。高かったけど、ライブ製作なのだから仕方がない。これは必要な出費。そう覚悟して財布を開いた。


実際、必要な出費だったと思っている。


私が選んだのは「もみじ」的な銘のねりきり。黄色とオレンジのグラデーションが綺麗なねりきりだった。

注文を受け、真っ白な服の職人さんが手に取ったのは黄色とオレンジ色のあんこ玉。ショーケースに並んでいる見本と色合いは一緒だけれど、もみじの形はどこにも要素がない。

それが職人さんの手の中で、シンプルな道具と手だけで、みるみるうちに綺麗なもみじ形になっていく。私の感動はひとしおだった。


大切に持ち帰って食べたそのねりきりは、普段手に入るものよりちょっと大きかったし、比べものにならないくらい美味しかった。

ねりきりの取材料は白あん。シンプルな材料なのに、こうまで食感や風味が変わるのか……! と、まさしく「雷に打たれるような」衝撃を受けた。



その数年後。

ふらりと入った和菓子屋さんで、私の人生経験の中では格安のねりきりに出会った。

ねりきりってあんなに小さいのに、ケーキ1個に相当するくらいのお値段がする傾向にある。……から、これはお得だと思って求めることにした。

「もしかしたら京都展で味わったあの美味しさが、格安で再体験できるかもしれないぞ……!」

美味しいねりきりの基準がすっかりあの老舗和菓子屋になっている私は、ほくほくした気分で帰宅。

抹茶を点てていざ口へ運んでみると……全然別物だった。

食感がざらざらしているし(決してつぶあんというわけではない)、甘さが人工的というか、ただただどぎついというか……。

これまで数箇所でねりきりを食したことがあるけれど、ダントツで残念だった……。

きっと、やはり、美味しいものを作るには相応に費用がかかるということなのだろう。


安いねりきりを否定したいわけじゃない。もちろんあの味が好きな人だっているんだろう。


だけど私は、個人的には、和菓子は家で作るより、安さありきで買うものを選ぶより。自分が満足できるものを楽しんだ方が良いんだなということを悟った。


高いからって老舗を敬遠していたら業界が先細ってしまう……のは、和菓子業界に限ったことではないだろうけれど。


生まれてから20数年、断然洋菓子派として生きてきた。キッシュ生地をこねればパンだって焼く。

「これ、お店より美味しいんじゃないか……?」と思えるものができてにまにました瞬間だってある。

だけど和菓子は、ホームメイドで充分なものができるとは思えない。私の技術力では。

そして今から和菓子の本を買って、お店に匹敵するものを自分で作れるようになろうとも思えない。

多分私の「美味しいねりきりを食べる」という言葉には、「好きなお店で季節に応じた意匠を眺め、その中から一つを選んで持ち帰る」段階も含まれているんだ。


あんなに小さいのに、ケーキ1個と同じくらい高い、ねりきり。

あんなに小さいのに、ケーキ1個と同じかそれ以上の甘さに浸れる、ねりきり。


ねりきりが好きすぎる。次に住むなら和菓子屋の隣とかがいいな。いや、体重計に乗れなくなっちゃうか。

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