勝利の価値
掲載日:2025/12/12
血のように赤い朝日が辺りを照らした。
修羅場にただ一人生き残った男は、
うつむいて足元の骸を見つめていた。
それは恩師であり主君であった者、
既に冷たくなり恨めしそうな死顔を晒している。
かつて男は武芸で身を立てたいと思い立ち、
高名な剣豪に弟子入りした。
筋が良いと師は褒めてくれたが、
兄弟子たちは強く、師はもっと強かった。
戦乱が起こり、師は武功を挙げて剣豪から武将になった。
弟子たちはその家臣になった。
戦乱が終わり、男は師に仕える文官になった。
男の心に、強敵に挑んで倒したい衝動が沸き起こった。
正面からでは師に勝てないのが明白だったから、騙し討ちにした。
そして勝った。
だが、この胸に広がる敗北感は何だ。
もっと早く気づくべきだった。
正々堂々戦って勝つからこそ勝利に価値があるのだと。
最強という名誉と称賛が欲しかったのに、得たものは卑怯者、裏切者の汚名だけ。
これから男は罪を背負って生きていくのだろう。
生者の侮蔑と死者の呪詛を浴びて。




