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眼鏡受付嬢の失敗しちゃった初体験はインキュバスの伊達男が美味しくいただきました!(なろう版)  作者: ケロリビ堂


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2.伊達男のお誘い

 目が覚めたら、朝になっていた。


「あれ……」


 わたしは自分のベッドに一人で寝ていた。隣にレオンはいなくて、いつもの自分一人で目覚める朝とまったく同じだった。


「ひょっとして……夢だった?」


 テーブルの上には二人で飲み食いしたらしい痕跡が残ったままになっていて、誰かが居たのは現実らしい。ちょっとだけお酒が残っている頭を活動させて昨日のことを思い出そうとする。エリックに最低なことを言われて蹴りだしたのは覚えてる。抵抗していた彼の手がぶつかったところが痣になっていた。だからそこまでも本当。

 気になるのはその後だ。自分の装いはそこまで乱れたものでもなかったので、そのあと突然現れたインキュバスと初体験をしてしまったのが夢なのか本当なのかちょっと定かではない。

 インキュバス。レオン。ハンサムで優しかった彼のことを思い出すと、なぜか胸がじんわりと温かくなるような気がした。夢か現実かわからないけど、昨日レオンに抱かれた記憶はとても心地がよくて、おかげでエリックにもたらされた最悪な気分はかなりスッキリしていた。


「いけない、出勤の準備しなくちゃ」


 たくさんお酒を呑んだけど、わりと強い方なので寝坊はしないですんでいた。わたしは鏡の前でお仕事のための化粧を顔に施す。目が悪くてよく見えないので目の周りを彩るときはうんと鏡に顔を近づけなくちゃならない。睨んでいるような顔がものすごく近くでわたしを見ている。目元の化粧がすんだところで、わたしは眼鏡をかけ直して鏡から顔を離した。


「やっぱりこの眼鏡可愛くないかな? でもかけてないと目つき悪くなっちゃう」


 最悪な男の自分勝手な暴言なのに、ちょっと前まで好きだった相手っていうのもあってエリックの言葉が胸に重く食い込んでいた。たとえ事実だとしても、かわいくないって面と向かって言われるのはとても傷つく。


「もう家を出る時間だわ」


 昨日エリックがどんどんと叩いていたドアに鍵をかけ、わたしは自分の働いている冒険者ギルドに向かった。


「リネット先輩おはようございまーす」

「おはよう~、今日も一日頑張ろうね!」


 受付で一緒に働いている後輩にあいさつをしてから、わたしは自分の仕事を始める。まず一日の最初にギルドの事務員に渡されたダンジョンの地図を新しい版に入れ替えるのだ。

 この街は大型ダンジョンに一番近い街なので、そこを攻略する冒険者で賑わって発展している街だ。成長し形を変える性質を持つダンジョンが抱える宝や資材を求めて集まってくる冒険者で無法地帯にならないように管理するのもギルドの仕事の一つ。わたしたち受付は、彼らの登録の手続きをしたり、ダンジョンの地図を作っているマッピング師の作った最新の地図が行きわたるようにしたりと毎日忙しい。


「おはようリネット。今週の地図くれよ」


 ばたばたと人を捌いていると、今聞きたくない声が聞こえた。エリックだった。


「おはようございます。今週の地図はこちらになります」

「なあ、今日さあ。仕事終わったらまた……」

「あいにく多忙なので。次の方、お待たせしました」

「おい、もっと愛想よくしろよ」


 なんなのかしら。昨日のことがなかったかのように話しかけてくる。わたしは仕事上必要最低限の対応をしてエリックをあしらおうとした。しかし彼はそれを無視して大きい声を出して受付に居座ろうとした。近くで私に告白するようにエリックをけしかけたという彼のパーティメンバーがにやにやしながらこっちを見ていた。


(昨日酷いことを言ってわたしに叩きだされて振られたこと、仲間に隠してるんだ……ほんとになんだってこんな奴にわたしは……)


 嫌な気持ちが胸をむかむかと蝕む。こんなのといつまでも話していたくない。後がつかえているから、と言いかけると、エリックはこちらに身を乗り出してさらに大きな声を出した。


「なんだよ、まだ股ぐら痛くて拗ねてんのか!? おまえ処女だったもんなあ!! キツくて狭くて俺のを入れたら裂けちまったもんなあ!!」

「!!!!!」


 無視されている姿を仲間に見られるのが嫌だったのか、エリックは大声でとんでもないことを言いだした。わたしに恥をかかせて溜飲を下げようとしているのだ。しかも内容は真っ赤な嘘。最悪。最悪だ。


「あ、あなた……っ!」

「邪魔だヘナチン野郎。いつまでも受付塞いでんじゃねえよ」

「うおっ!?」


 あんまりな言い草に言い返そうとしたとき、逞しい腕が横合いからエリックの体を突き飛ばして受付からどかした。ただ押しのけただけのように見えたがその力は強かったらしく、エリックはよろけて転びそうになっていた。


「てめぇ! 何しやがる……」

「素敵なレディにはそれ相応の接し方っていうのがあるんだよ。わかったらとっとと失せろ」


 エリックよりも背が高いその男の人は、立って睨みつけるだけでかなりの威圧感を発していた。肌は褐色。無骨になりがちな武装をセンス良く着崩して着こなしている。黒いつば付きの帽子からは緑がかった銀髪が零れ、紫色の瞳を持ったその顔は……。


(……レオン……!?)


 それは昨日わたしを慰めて、夢のように抱いていったインキュバス、ダンディレオンと同じ顔だった。


「おい! なんとかしてくれよ!」

「あんたら。犬の躾くらいちゃんとしとけ。見苦しいぞ」

「犬……っ!? てめえ、ふざけんなよ! 誰が犬だって……」

「おい、やめとけ。『伊達男』が相手じゃ分が悪い。行くぞ」

「えっ、おい。待ってくれよ……」


 エリックのパーティメンバーはレオンが現れると笑うのをやめ、戸惑うエリックを置いて出て行ってしまった。それを追いかけてエリックが出ていくのを見た後、レオンはわたしのほうに向き直る。


「嫌な思いをしたね。大丈夫かい? あ、今週の地図ください」

「あ、はい。こちらになります」


 何もなかったかのように笑顔で地図を求めるレオンにわたしは慣れた仕事の反射でくるくると巻いたそれを一枚差し出す。しかし彼が掴んだのはその地図ではなく、わたしの手だった。


「あ、あなた……?」

「昨日は夢のようだったぜ」


 レオンはセクシーなウィンクをひとつすると、わたしの手の甲にひとつキスを落とした。隣でそれを見ていた後輩がキャー♡ と黄色い声を上げる。


「わ……わ、あ……っ」

「なあ、仕事何時にあがるの。デートしようよ」


 突然のことに真っ赤になって慌てることしかできないわたしに、レオンはさらに畳みかけるようにデートの誘いをしてきた。わたしはこんなイケメンにこんなふうにぐいぐい来られたことがないので、五つの鐘で仕事が終わりの時間になると答えるのがやっとだった。


「じゃあその時間に迎えに来るから。待っててね」


 レオンはあまりのことに返事もできず硬直しているわたしに投げキッスをすると、他の冒険者をかき分けてギルドを出て行った。


「……ちょっと先輩! どういうことなんですか!? 伊達男と先輩ってそういう関係!?」


 その日のお昼休憩のとき、わたしは同僚や後輩たちに質問攻めにされた。エリックと付き合っていたのも別に人には言っていなかったので、自分の名誉を守るために彼の言い草は嘘ってことを表明したのだが、彼女たちはそんなことよりも伊達男と呼ばれるレオンのほうに興味深々のようだった。

 わたしは冒険者たちの人間関係とかはあんまり関心がないのでレオンの評判とかは特に知らないし知りたいとも思っていなかったのだが、「とうとう受付仲間の中から伊達男のお手付きが出たか~」という同僚の言葉はちょっと聞きとがめたいところがあったので彼の評判を教えてもらうことにした。

 レオン、ダンディレオンは最近ギルドに登録した新顔の冒険者でものすごく強く、メキメキと頭角を現しているとのことだった。とてもハンサムでおしゃれなので『伊達男』とあだ名され、どうやらいろんな女に手を出しているのだが、どの子も一度しか抱かないことで有名だという。


「それなのに二度目のお誘いがくるなんて。もしかしてリネット先輩が伊達男の本命~?」

「っていうかリネットが今まで受付してて伊達男の存在を把握してなかったのがびっくりだよ~、めちゃくちゃモテてて有名なのに!」


 受付仲間たちはそんなふうに沸き立っているけど、わたしはなんだか現実感がない。どっちかっていうと顔より内面を重視したい方だから気にしたことなかったな……。


(それより、エリックみたいなつまんない男に純潔を食い散らかされなかったことの方が重要かも)


 そんな風に考えて、わたしは午後の仕事を頑張った。そんなに浮名を流してるんだったらもしかしたらからかってるだけで、レオンは来ないかもなんて考えながら。


「お疲れ様です。お迎えに上がりました、お姫様」


 しかし、彼は予告通り、わたしを迎えに来たのだった。

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