【読切短編】没落呪いの公爵令嬢とザコオーク、結婚リングで始まる覇王伝 ~騙した奴ら全員土下座させますわ!~
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第一章:婚約者被害者の会の陰謀
ヴァージニア・レッドロータスは、自他ともに認める、どこからどう見ても自信に満ち溢れた公爵令嬢であった。彼女の燃えるような赤髪と鋭い瞳は、まるで戦場の覇王のようなオーラを放っていて、名前のように、赤い睡蓮のような美しい人物だった。
しかし、彼女にはひとつだけ問題。いや、彼女と関わることで起きる問題があった。
それは、
『婚約者が次々とダメ男になる』
というものであった。本人に非はない……と、彼女は信じている。だが、世間はそう見てくれなかった。
「ヴァージニアと婚約した男はすべて没落する」「彼女と婚約した瞬間から運が尽きる」などと噂され、彼女のもとから男たちは次々と逃げていった。
そしてついに、被害者たちが結束し、『ヴァージニア・レッドロータス絶対許さない同盟(通称ヴァナ同)』なるものを結成。彼女を社会的に葬るために、とんでもない陰謀を企てた。
「ヴァージニア殿、あなたにはふさわしいお相手をご用意しました」
元婚約者で公爵家の息子(今は身分が失墜してレッドロータス家の使用人。実はヴァナ同幹部)が持ち込んだのは、なんと“レッサーオーク”との結婚話だった。
「は?」
ヴァージニアは完璧に言葉を失った。オーク? しかも、ザコオーク? ふざけるのも大概にしろ。そう彼女は心のなかで呟いた。
しかし、彼女が気づいたときにはすでに遅かった。彼女は複数の男達に押さえつけられ、指輪をはめられた。ヴァージニアは身の危険を感じたが、男たちは指輪をはめたあとにすぐ、彼女の近くから離れた。意味不明な状況に困惑しながら、煩わしいその指輪を外そうとした。しかし、
「……指輪が外れない!?」
彼女の指にはめられていたのは、“強制結婚リング”という特殊なアイテムで、それをつけた瞬間、ペアになる指輪をしているものと強制的に結婚が決まるという呪いが施されていた。
ヴァナ同の仕掛けた罠は、完全に彼女を陥れるものであった。
第二章:ザコオークとの新婚生活
「は、初めまして……その……レッドロータス公爵令嬢……さま?」
彼女の目の前でオドオドと立っているのは、貧弱そうなオークの青年だった。指にはヴァージニアとペアになる指輪がハメられていた。名前はハイク。肌は褐色で、どことなく人間に近い顔つきで、オークに珍しく髪の毛が生えている。
「アンタ、本当にオーク?」
「え、ええ……まあ、その……」
ハイクはどうやら、オーク社会では落ちこぼれらしかった。筋肉至上主義のオークの世界では、彼のような華奢な体型は見下されるらしい。
「ふざけないでくださる!? わたくしはオークなんぞに嫁ぐために生まれてきたのではありませんわ!」
ヴァージニアは拳を握り締めて吠えたが、強制結婚リングのせいで離婚はできなかった。
「ちっ……こうなったら、やるしかないですわね」
彼女は決意した。このザコオークを“最高の男”に育て上げ、最終的に社会をひっくり返してやると。
第三章:スキルの覚醒
ヴァージニアは、ハイクを鍛えることに決めた。オークとしての力を強化し、同時に“最高の男”に仕上げるために。
だが、そこで彼女は気づく。
「……あれ?」
ハイクのステータスが、尋常じゃない速さでどんどん上がっている。見た目もどんどん人間目線でみて、まあ悪くない感じ(ヴァージニア評)になってきている。
最初は冗談だと思った。しかし、何度見ても間違いではない。どうやら、彼女のスキル『婚約者ダメ男化』が、ハイクのステータスのあまりの低さに反転を起こして強化バフになっているらしかった。マイナスとマイナスをかけたらプラスになる理論である。
「なるほど……つまり元がダメ男なあなたなら、私と組めば最強になれるってことですわね!」
同時にハイクのスキル『誠実な心』も、ハイク自身の努力もあいまって進化し、『絆バフ』という強力なスキルになった。これは普通にハイクがいいやつだったからであった。絆バフは、親しい人間が増えると、その人物の力を一部借りることが出来る上に、その人物のステータスも増加させるというものだった。
その影響で、彼の周りには次々と優秀な仲間が集まり、気づけば彼はオークの王に匹敵するほどの影響力を持ち始めた。
「お、俺なんかが……」
「お黙りなさい。アンタはもっと上に行くのよ!」
ヴァージニアは気合いを入れて言い放った。そして、その言葉どおり、ハイクはどんどん進化していった。
第四章:覇王への道
ハイクは成長した。元はザコなレッサーオークだった彼は、今やジェネラルオークとなり、魔界と人間界をつなぐ架け橋になろうとしていた。
彼の誠実な心と絆バフ、そしてヴァージニアの無鉄砲でありながらもあふれるカリスマ性と謀略が合わさり、二人は最強のコンビとなった。
そして、かつて彼女を陥れたヴァナ同の面々が、再び彼女の前に現れた。
「ヴァージニア殿……お許しを……」
彼らは土下座していた。かつてのダメンズたちは、自分たちの問題をすべてヴァージニアに押し付けていたことを反省し、許しを請いに来たのだ。
「……まあ、(どうでも)よろしいですわ。今回の件、水に流してあげましょう」
ヴァージニアは腕を組みながら言った。今はぶっちゃけどうでもいい奴らだったし、ハイクもなかなか悪くない男になったし、かつて自分を陥れた奴らが泣きべそかいて土下座しているのは痛快だった。そして、ヴァージニアには一つのアイディアがあった。
「ですが、一つだけ条件がございます。アンタたち、今後はわたくしとハイクの配下になりなさい」
「は、はい……!」
ダメンズたちは、ヴァージニアの反転スキルにより、ダメンズからなかなかのスペックへと進化し、その
結果、ヴァージニアとハイクに対して絶対の忠誠を誓った。
こうして、ヴァージニアとハイクは、魔界と人間界を統べる覇王となる道を歩み始めたのだった。
【完】