前編
私には仲の良い友達が三人いる。
「ねえ、これってどこの話なの?」
「ええ?都市伝説ってやつじゃないの~?」
「きっと、ごく狭い範囲でしょう?」
いえ、本当ですよ。おモテになる、三人さん。
「ねえ、華絵もそう思うでしょう?」
「ん?うーん。うううん」
少なくともとてもお綺麗で、おモテになる三人からは程遠く、私にはバッチリ当てはまるよ。
「「「彼氏、彼女ができたことがない人が半数以上なんてね!!!」」」
ええ。そうですね。私は一度もないですよ。この辺りだけ、統計学的に狂っていますが、誤差ですか?
ネットでニュースを見たのか、何かのトピックか魅桜が話題にすると、信じられないように薫姫が同意し、綺羅良が違う世界の出来事だと話す。現実です。皆さんのお隣にある現実です。なんなら、目の前にありますけど?
でも、そこは見栄を張りたい私。私がそうだと手を上げることはできないでいた。いいよね?嘘、ついてないし、黙っているだけだし。ね?ね?モテる人たち相手にモテない自慢なんて悲しすぎるよね・・・。
声をかけられて、昨日の四人で、カフェでお茶してた時の会話を思い出す。
「佐藤さん、このテーブルいい?」
私の周りで何が起こった?彼氏いない歴を鮮やかに更新中の私にだ。職場にこんな素敵な人いた?結婚指輪していない人なんていた?しかも、私の名前を知っている?いやいやいや。有り得ないことばかりが続いているよ。
「あ、どうぞ」
私ー!!もっと愛想よく、いや、彼女いるかもしれないし、ただ指輪していないだけかもしれないし。落ち着け。
「助かった。ありがとね。でも、今日の社食、混んでるね。何かあったっけ?」
「いや・・・」
すらりとした長身に穏やかな受け答えで、顔の良いあなたがここにいるせいじゃないですかね?今日の社食が混んでるの。
「不思議だね。でも、座れて良かった。佐藤さんはお弁当?」
「ああ、はい」
「あ、ごめん。俺、しゃべりすぎ?」
「いえ。大丈夫です」
気の利いたことは返せませんが、それでも良ければなんて言えないなー。
「そう?良かった。ねえ、佐藤さん、その卵焼き美味しそうだね。何、入っているの?」
これ、遠回しにくれだよね。
「たらこと小葱です。良かったら、おひとつどうぞ」
「わー。どうも。遠慮なく。!美味しい。美味しいよ」
綺麗な箸捌きで卵焼きを摘まんでいく。
「それは良かったです」
「ご馳走様でした。忙しなくて、ごめんね。じゃあ、俺はお先に」
「はい」
早。あんなに話していつの間に食べ終わってたの?色々、凄いな。
何故か私の名前を知っている彼、紅と書いて紅と読むそうだ。二回目に絡んできた(あれ?絡んできたなんて言っちゃって私、調子にのっている?大丈夫かな?)時に、自己紹介してくれました。流石の私も不信感がね、ちょっと出ちゃったみたいで。いかん、いかん。「和を以て貴しとなす」を信条としているのに、気を付けないと。
「佐藤さーん。今日のお弁当も美味しそうだね。あ、ここいい?」
「どうぞ」
私、今だったら凄く修行が捗ると思う。それぐらい、無我の境地に近付けているんじゃないだろうか。しかも「どうぞ」の一言でお弁当のエビフライと、席の両方を了承してしまっている!これ、逆に拙いかな。詐欺には気を付けよう。
「わ。どっちもありがとう。あ、俺いつも貰ってばっかりだよね。今度、何か差し入れするよ」
「お気遣いなく」
クール。私、大物感出ているんじゃないでしょうか?まあ、今度は永遠に来ないでしょう。分かっているから、気にしなくていいですよ。話しかけて貰えるだけでも、万々歳ですから。でも、なんでだろ?
「そんなこと言わないで。甘い物は好き?」
粘られています。甘い物は勿論、好きです。ここは正直に言っていいでしょうか。好みだけなら、見返りを求めている下心は出ないですよね。これだけ、お洒落で気遣いできる人ですから、凄いお菓子を貰えそう。駄目、駄目。期待しすぎるのはよくない。あれ?期待が色恋から食欲になっちゃっているー!
「好きですよ」
私の口―!!正直にペロっといきましたね。しかも好きって。いやん。
「じゃあ、今度、俺のお薦め持ってくるね。是非、食べて!」
私を食べてもできるとはやるな。しっかり、私。そんなことは言っていないよ。
「はい」
そんなことを考えているとは思わせない平らな態度。私、やるな
「あ、佐藤さんまたまた忙しなくてごめんね。俺、行くわー」
「いってらっしゃい」
きゃ。新婚さんみたいだった。言っちゃった。ひゃー。妄想、捗るわー。これは若返るね。あれ?名前は聞いたんだけど、どこの部署の人なんだろう?忙しそうだから営業かなー?あれれ?記憶力は減っているかも。