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百メートルの攻防戦。



「クソッタレがぁァアッ!」


 鈍色(にびいろ)毛玉に囲まれ、四方八方から襲われ続ける私達。


 ゴスドラで首を断ち斬り、蒼炎で喉を焼き潰し、グレイパーで死骸を縛って防壁替わりに積み上げて応戦すること、既に四時間。


 仕留めた後にアイズギアからDMの図鑑にアクセスして見ると、どうやらこの鈍色の毛玉はアイビールと言う名のモンスターらしい。


 毛並みの組成はやはり金属質で、魔力を通すと固化する柔らかい『固形水銀』のようなものだと記載されてた。


 コイツの厄介な所は、魔力干渉に勝てても純粋に物質として硬い毛皮を持っている事。


 伝承に存在するウサギの怪物アルミラージみたいに角が生えてる訳では無いが、純粋に硬く重く、突撃されると質量兵器として充分な性能を持っている。


 そして歯も鋭く、噛み付かれるとスパッと肉を持って行かれる。コイツらウサギの癖に肉食なんだよね。


「この齧歯類(げっしるい)がよォ!」


「フラムちゃん、ウサギは齧歯類じゃないわよっ」


「……え、そうなのっ!?」


 笑える程どうでも良い情報を泣ける程に場違いなタイミングで知った私は、蒼炎で草を燃やし尽くした初期地点の半径百メートルの地面全てに蒼炎の絨毯を維持しつつ、のしかかる様に立ち上がったアイビールの土手(どて)っ腹に予備ゴスドラ、略して予備ドラを叩き込む。


 コイツらの毛皮装甲(ファー・メイル)はかなり硬く、これを討伐速度重視で突破するには蒼炎で魔力を抜くしかない。素早く仕留めないとモンスターに埋もれて殺される。一匹に時間はかけられない。


 DM図鑑によれば魔力を通す事で硬くなってるはずなので、蒼のドレイン効果で抜いてしまえさえすれば刃が通る。


 そのため、私はゴスドラに常時蒼炎を展開してるし、お母さんとニクスの武器にもそれをくっ付けて維持してる。


 アイビール自身も魔力を抜かれて柔らかくなるのは嫌らしく、だからこそ私は初期地点に蒼炎絨毯を展開して維持してる。


 触れてる間は毛並みの硬化が著しく(むずか)しくなる蒼炎を嫌って、アイビールの攻めもある程度は緩んでくれるのだ。


 だからこそアイビールも、今しがた私を襲う時に立ち上がって、蒼炎になるべく多くの毛皮が触れないように攻撃して来た。その程度の知能は有るらしい。


「--ふッ!」


 (らち)が明かない。


 また追加のグレイパーを起動して死骸を縛り上げて防壁を追加しながら、隙間を抜けて来たアイビールの脳天に予備ドラを大上段から振り下ろす。


「こんなのっ……!」


 蒼炎があっても辛いのに、ドレインも無かった当時の先遣隊なんかどうしようも無かっただろう。第2ステージである銀級からいきなり、なんて無理ゲーをやらされるのか。


「……お、おねーちゃん! そこにお山つくって!」


「何するの!?」


「いいから!」


 ジリ貧、そんな言葉が良く似合う状況を前にして、少し離れた場所でアマドラを振り回してたニクスが声を上げた。詳細は知れないけど、何か作戦が有るらしい。


 肉食らしくアイビールが生肉製の防壁を食い破りながら襲って来るので息付く暇も無いが、パラライズボールとグレイパーを駆使して、もはや仕留める手間さえ省いて壁にする。


「これで良い!?」


「おねーちゃんありがとぅ! それと、ソレ(・・)から魔力抜いて!」


「よく分かんないけど任せろバリバリィー!」


 言われるままに蒼炎を吹き付けて思いっきり魔力をドレインする。収支のバランスが崩壊する程に効果を強めて、防壁の魔力をスッカラカンにする。


「行くよっ! ……全部凍っちゃぇええええッッ!」


 そして、間髪入れずに白雪が炸裂した。


 ニクスが生肉壁(生きてる)に向かって吹雪を纏ったアマドラを叩き付け、凝縮された冷気を大解放する。


 一瞬で強度を増した防壁が完成し、一時的に壁がある場所からの圧力が減る。


 そうか、凍らせたかったから魔力を抜かせたのか。干渉力分ロスしたら息切れするから、まだドレインでリカバリー出来る私に無茶させた方が効率良い。


「クーちゃんナイスぅうッ!」


「えへへ……♪︎」


 ほんの少し稼げた余裕。戦況的には大した変化では無かったけど、意識に生まれたソレは確かに私達を助ける一員だった。


「クーちゃん! 今ある壁全部お願い! 魔力は私が抜いておくから! お母さんとナイトはグレイパーとアイビールの死骸で壁作って! このまま築陣するよ!」


 私は皆へ指示を出しながら、インベントリから魔力(マナ)ポーションを何本か取り出して全部を喉へと流し込んだ。


 ドレイン出来るからって外部補給しちゃダメな理由なんて無いからね。収支を無視してドレインするなら消費は避けられない。


 だけど、先の見えない消耗戦を続けるよりはずっとマシだった。



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