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スポーツはメンタルゲー

 前回大口を叩きに叩いた僕ではあえうが、この作戦は博打の要素がかなり大きい。


 さらに、成功しても特定の人物に迷惑をかけてしまう恐れがある。


「ま、それでもするんですけどね」


 周りに迷惑かけちゃう?


 そんなの生きてたら誰だって無意識でするもんだ。


 なら、お互いに遠慮無しでぶつかった方が楽しいに決まってる。


「それではこれより作戦名Ωを執行する」


 このΩはなんかカッコいいから付けただけで、意味は対してない。


 そんなΩとはいったい何かと申し上げますと


「お!!来た来た」


 僕の目の前には凄まじい速度で走ってくる噛真瀬とか言う男。


「さっきみたいに抜かせてもらいますよ」


「そうはいくか!!」


 おそらく僕が奴からボールを奪おうとしても100回に1回取れるかどうかの差があるだろう。


 ならどうするか?


 答えは簡単。


「くっ、しつこいですね!!」


「そりゃお前、嫉妬する男ほどネチッコクて厄介なものはないんだぜ」


 抜かれる前提で追いかけ続ける。


 僕の体力はミジンコ並であり、すでに限界も越えちゃってはいるが、相手がメンタルで押しているのならば、僕が勝つには同じ舞台に立つ必要がある。


「ハッハッハッハ、オエッ」


「ホントに!!」


 追いかける。


 ただただ全力で。


 その姿は他の人が見ればただの嫌われ者が汚い顔をしながら醜態を晒しているようにしか見えないかもしれない。


 だけど僕は知っている。


 彼女が、いつも僕をバカにし、王道を嫌いに嫌う彼女が、こういう展開では一番のヒロインだってことを。


「先輩頑張れーーーー」


 響く。


 その音の発生原は敵チームのベンチ。


 大声で応援する彼女の名は真白。


「やっぱ好きだなー」


 普段はふざけ合い、真面目な雰囲気なんて似合わない僕達だが、彼女はいつだって僕に欲しい言葉をくれる。


「ま、今回はそれを利用したんですけどね」


「あ!!」


 棒立ちしている似非てないイケメンからボールを奪い取り、パスを出した僕はそのままぶっ倒れる。


 そして仰向けになりながら、下から目線で僕は煽る。


「なぁどんな気分だい?お前らの心の支えである彼女の想いが相手チームにあるのは」


「ッッッッッッッッッ!!」


 真白の応援は明らかに僕を応援したものであり、奴らは気付いてしまう。


 彼女の目に映っているのは自分達ではないと。


 これが事実かはさておき、彼らの心に芽生えた疑心の種は確実に彼らの心に絡みつき


「俺達ってなんのために」


「結構頑張ったって思ったんだけどな」


 それぞれの不満が栄養になり成長し、奴らの心と体を縛り付ける。


 な、なんか心と体を縛るって表現ちょっとエッチだね。


 こうして僕の作戦Ωは成功し、どんどん敵の動きが悪くなる。


「正直助かったよ、最低野郎」


「ちーっす、あざーっす、どーもでぇーす」


 軽口を叩いてはいるが、歩くだけでも精一杯であり、残りの時間はヘロヘロのお爺ちゃんである僕と相反して、颯人と龍騎により点数を返す。


「ナイスゴール」


「一応お前の頑張り分俺もやらなきゃだしな」


 こうして試合は2-1で勝ちをもぎ取ることができた。


 試合が終わると噛真瀬が近づいてき


「僕はまだ負けていませんから」


 宣戦布告を残して去っていった。


「え?」


 颯人に向かって。


「真白ちゃんって先輩ってだけ言ってたから、まぁ誰かまでは分からんよな」


「え?タイミング的に完全に僕じゃないの?」


「確かにあの時お前がボールを必死に追いかけてて気付かなかっただろうが、俺もあいつのパスコースを潰すために頑張ってたんだぞ?」


 WAO。


 じゃあ僕って周りから見たら本当に恥ずかしい人だったんだ。


 ちょっとカッコつけただけで、実際はみんなに『実は空君ってカッコいいね』って思われてると思ってた。


「そんなどうでもいいことより、やらなきゃならないことがあるだろ」


 ギクリ!!


「はぁ、憂鬱だ。エンドレスヘイトを向けられた僕は颯人君にフォローを求めるよ」


 好意のある行為を無下にした僕は、彼女に謝らなくてはならない。


「ごめんなさい」


「何がですか?」


 真白はホントに何も分かっていないかのように首を傾げる。


「気を使わせてしまうとは情け無いな。だが怒ってくれていいんだ、僕は君の優しさに甘えることしかできないカブトムシを引退するよ」


「え?急に何ですか?キモいんですけど。試合の時のかっこよさを返して下さい。クーリングオフはつけなくていいですから」


 カッコいい?


「怒らないのか?真白。僕は作戦Ωによって真白の応援を無下にしてしまったというのに」


「何ですか作戦Ωって。ダサい上に真白の応援を無下にしたって最低ですね死んで下さい」


「クッ、やっぱり怒っていたか。僕もこれから気をつけるから見捨てるのだけは勘弁して下さい」


 どこか会話が噛み合ってない気がするが、きっとこれも噛真瀬とかいう奴の名前のせいであろう。


「ハァ。先輩が何言ってるのか全然分かりませんが、一つだけ言わせて下さい」


 踵(かかと)を翻(ひるがえ)し


「真白が応援したのは先輩の姿が本気で、それがカッコよかったからですからね」


 そう言って彼女は去っていた。


「…………」


 僕も踵を返す。


 顔を見られないために。


「空君!!」


「ぶべらっ!!」


 突然現れた小春にむっちゃ赤い顔を見られてしまう。


「ホントに、本当にカッコよかったですよ」


「お、おう。ありがとう」


 な、なんかいつもよりも激しいな。


「すみません。私、まだ試合の熱が収まらなくて」


「いや、そこまで誉めれたら僕も嬉しいもんだよ」


「いえいえ、事実を言っているだけですよ。本当に素晴らしくてカッコいい作(・)戦(・)でした」


 ◇◆◇◆


「美桜さん余裕そうですね」


「まぁ昔から一緒にしてたからね。僕としても少し鼻が高い気持ちだよ」


「これなら旬先輩のクラスが男女の部で優勝ですね」


「ハハ。凄い期待だね」


「いえ、旬先輩の実力なら当然かと」


「う〜ん。それは褒め言葉として喜ぶべきか塩対応に悲しむべきかどっちかな?」


「私は前者で答えたつもりです」


「そうか、それなら僕も素直に喜ばせてもらおうかな」


「……」


「……」


「旬先輩は諦めるつもりですか?」


「質問に対して質問するのは失礼かもだが、それは僕のため?それとも君のため?」


「……」


「いや、今のは無しだ」


「すみません」


「いいんだよ。さっきの質問の回答としてはね、分からない……かな」


「そう……ですよね」


「でもね、中途半端が一番キツいもんだよ」


 旬は乾いたように笑う。


「冷華ちゃんは後悔しないようにね」


 旬の悲し気な、でもどこかに熱があるような言葉に


「最初からーー」


 ピーーーーーーーー


「そのつもりです」


 彼女も同じような熱さの言葉で返す。


「彼女は手強いよ」


「承知の上です」


 試合が終わり、一人の少女が二人に元にかけて行く。


「ふ、二人とも、応援してくれるのは嬉しいけど、そんな青春の一幕みたいな顔をされると、変に緊張しちゃうよー」


「あ、すみません美桜さん」


「まぁまぁいいじゃないか。それより、おめでとう美桜」


 感謝の言葉を受けた美桜は


「えへへ、ありがとう」


 嬉しそうにはにかむ。


「……」


「これは手強いですね、お互いに」


「全くだ」


「ちょ!!なんでまた二人してそんな顔するのー」


 ◇◆◇◆


 午後


 ある二つのクラスがぶつかろうとしていた。


 片方には愛しの後輩。


 もう片方には愛しの同級生。


 そしてもう片方にまたしても何も知らない黒い塊。


「小春、ホントに出るのか!!」


「はい!!」


「無理しちゃダメだからね」


「はい!!」


「小春ちゃん、少しでもおかしな所があったらすぐに言うんだよ!!」


「はい!!」


 僕、冷華、美桜先輩の順に心配の声を上げる。


「小春さん、いざとなれば真白が頭から落ちて試合を止めるので、何かあったら直ぐに伝えて下さい。敵である前に真白達は大切な友達なんですから」


「う、嬉しいですけど頭から落ちるのはやめて下さいね」


 敵からも砂糖を撒かれ、試合は開始した。


 僕の反対側にいる龍騎もどこか落ち着かない様子である。


「こ、小春大丈夫かな?もしこれで何かあれば、僕は凡人なりに力を覚醒させる必要があるんだけど」


「力を覚醒できる人間を、人は凡人とは呼ばないわ。そんなこと考えてる暇があったら応援でもしてあげなさい」


「どっちの?」


「……」


「どっちもだよ」


「それだと優柔不断みたいになって好感度下がりませんか?」


「4人の女の子を選べない時点で今更じゃないかなー」


「ホントにそろそろ決めてくれないかしら」


 冷華がため息を吐く。


「いやいや、決めるのは僕じゃなくて君達だよ。そろそろ僕のものにならないか(ねっとりボイス)」


 僕の気持ちとしてはここで『キモい』だの『さすがにどうかと思うよそー君』だのを期待していたのだが


「元々私はあなたのものよ」


「私はそー君のものだし、そー君も私のものだよ?」


 思ってたよりもヘビー級な回答が飛んできちまったぜ。


 二人の言葉は似ているようでどこか違う。


 でもその本質は同じような気がする。


 それを表現するならば


『依存』


 そんな言葉が頭に浮かぶ。


 これって……


「何だか二人ともメンヘラみたいだね」


「空、今日の帰りはデリカシーについて一緒に勉強しましょうか」


「そー君ってバカだよね」


 僕の期待してた反応はこれだよ!!


「な、なんか冷華はいつも通りだけど、美桜先輩に罵られると何かクルものがあるね」


「はぁ、何で私ってこんな男を」


 冷華がバカを見るような目をする。


「ふふっ、それでこそそー君だよ」


 美桜先輩が艶っぽい声を出す。


 え?何で?


 このままだと僕の僕(しもべ)がボクボクしちゃいそうなので意識を試合へと向ける。


「試合は僅差だね」


「そうね、私はどっちも応援しているけど、正直小春にはここで負けて大人しくしてくれると嬉しいんだけど」


「私も本音はそうかな。でも、それは私達が決めていいことでもないと思うよ」


「分かっているんですけど……」


 体と心、優先すべきなのはどちらなのか。


 どちらが真に相手を大切に思っているかなんてこの世の誰が考えたって答えはでないだろう。


 でも今回ばかりはそんなの考えたって無駄である。


「あいつは強いよ」


 コートには相対する二人の美少女。


 お互い小柄ではあるが、ボールを持つ少女の身長と比べると全てが大きく見える。


 だが、そんな小さな存在は


「小春さん!!あそこにUFOいますよ!!」


「え!!ど、どこですか!!」


「嘘です」


「あっ」


 強ーー


「え、あいつ最低じゃん」


 今って真白がカッコよく決めるシーンじゃなかったの!?


「全く、誰のせいでああなったのかしら」


「根は良い子なのに」


 試合中に相手を動揺させて勝つなんて人間の恥だなあいつは。


「別にあんなことしなくても」


 真白にボールが渡る。


 それを彼女は放つ。


 普通の人間が100回に一回入るかどうかの場所と距離から


「入った」


 決める。


「天才って怖いな」


 凡人が恐れ慄(おのの)く。


「同感ね」


 天才1が共感する。


「羨ましいよねー」


 天才2が嫉妬する。


「やっぱり真白×小春ですかね」


 レズが興奮する。


「最初の方は体力を温存してたのね」


「そうだな。何故か知らんが真白にボールが回ってくる機会が多いからな」


 僕の含みのある言い方に


「そー君ってやっぱり嫉妬深いよね。自分の知らない真白ちゃんを知る誰かに嫉妬してるのかな?」


 気付くよなぁ。


「まるでメンヘラね」


「今日の帰りは冷華も一緒にお勉強だね」


 こうして、最初はどちらが勝つか分からない試合だったが、いつの間に10点差以上つけ、真白が勝利を収めた。


「負けちゃいましたー」


 本気で勝ちにいったためか、今にも泣いてしまいそうな小春が美桜先輩に慰められる。


「泣き顔ってなんか興奮するな」


「そー君はもう私達が歩いてる姿だけでも興奮しちゃいそうだね」


「でも冷華さんがいたら負けてたかもです」


 勝ったにも関わらず、少ししょんぼりする真白。


「それはもしもの話よ。実際あなたが勝ったのだから素直に喜びなさい」


「でも待てよ冷華。かもしれない運転はやっぱり大事だとーー」


「うっさい」


「ごめんなさい」


 僕に対して人を殺せそうな目をしていたのに、真白へと向き直る時には優しい顔に戻っていた。


「ありがとね」


「負かしておいてあなたのためっていうのも何だが嫌な気持ちですけどね」


「いいのよ。実力で負けたなら、あの子も納得しているはずよ」


「そう……ですかね?」


「ええそうよ。小春とは長い付き合いだもの。それくらい分かるわ」


「そう言ってもらえると助かります」


 試合に勝った方も負けた方も慰められる奇妙な光景がそこにはあった。


「何だがんだでいい話だったってわけか」


「不謹慎かもですがこれは興奮しますね」


 僕もレズもこの結果には納得で球技大会2日目は幕を閉じた。






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