特殊訓練
「皆さん。今回も勝負しませんか?」
真白は集めた三人に呼びかける。
「お!!面白そうだねー」
「なるほど、このために競技を統一させたのね」
事前にバスケを選んでくれと頼まれた三人が納得したように頷く。
この中に空も入る予定だったが、あの男はバカなのでサッカーに行ってしまった。
「すみません。さすがにバスケでないと力の差が大きすぎると思いまして」
「三年生と一年生では力の差がでますからね」
「真白がバスケ部だからこそできる良い勝負ね」
小春と冷華が自然と真白をフォローする中、美桜はある疑問を述べる。
「それにしても真白ちゃん。今更だけど、どうしてその身長でバスケをしようと思ったの?」
「あ!!私も気になっていました。日の光に弱いのは知っていますが、何故バスケなのか、よければお聞かせくださいませんか?」
二人が質問すると、真白の顔にみるみる悲壮感が浮かぶ。
「そ、それは……」
真白の身長は150cmにも満たないほどであり、その体躯はバスケを向いているとはいえないものだった。
「す、すみません。ちょっと……今はまだ言うのが辛くて……」
「ご、ごめんね。そういうつもりじゃなかったの!!」
「い、今のは気にしないで下さい、真白ちゃん」
「い、いえ……真白の方こそ、こんな空気にさせてしまってすみません」
ぺこりと頭を下げる真白。
(ヤッベ〜、身長伸びそうだなぁって理由なんて恥ずかしくて言えない!!)
「…………」
一人、事情を知る冷華は一言も口を挟まなかった。
◇◆◇◆
「ここまで話しといてなんだけど、私もしかしたらバレーにさせられる可能性があるわ」
「え?ホントに今更ですね」
「あ!実は私もサッカーさせられそうかも」
「美桜さんもですか!!お二人とも最初から言ってくださいよ!!」
「一応第一希望にしておいたから大丈夫だと思うのだけど……」
「旬君と一緒の方がいいって勝手になってたから、私もどうなるか分かんないんだよねー」
「報連相は社会の常識ですよ!!どんなに細かいことでも伝えるべきです!!」
「あ!それじゃあ真白ちゃん」
「な、何ですか?ま、まさか小春さんも……」
「私はバスケのみです」
ムフンッ と胸を張る。
「卓球って人気ないんですかね?」
真白は一人のクラスメイトの顔が頭をよぎった。
「もしバラバラになった際には、より順位の高い人が優勝でいいですか?」
「私がバスケになった場合は?小春と同じチームだから二人とも勝っちゃうけど」
真白は悩んだフリをし
「その時はジャンケンで」
「適当だねー」
一通り話終えたところで、小春が姿勢よく手を挙げる。
「ところで真白ちゃん。勝ったら何かあるのでしょうか?」
「それは確かに聞いてなかったわね」
「この前みたいな景品があるのかな?」
皆の質問に想定通りとばかりに口を開く。
「ありません!!!!」
どっかのスペシャル風にかます真白。
「「「…………」」」
「だ、だって〜。せ、先輩がサッカーにしてしまったせいで、先輩を商品にする話が出来なかったんですよー」
「空君も入れて順位勝負じゃダメなんですか?」
「真白達がどんなに頑張っても女子の方で三位は確実にでますから、それだと不公平と思いまして……」
皆がバスケの場合は得点で競うことを考えていた真白が申し訳なさそうに話す。
「まあ妥当ね」
「じゃあ今回はただの勝負ってことでいいのかなぁ?」
少し重い空気が流れる。
「ま、真白を一日好きなようにしてもいい権!!なんてどうでしょうかー!!」
沈黙
「い、いやー、冗談がすーー」
「いいですね!!」
「それは面白そうね」
「えへへー、私真白ちゃんに来て欲しい服とかあるんだ〜」
立案者を除いて盛り上がる一行。
「わぁ、真白ちゃんって大人気」
一人置いてけぼりを食らう真白。
(でもこれって真白が勝っても何もないですよね?)
こうして球技大会への戦いが始まった。
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「さて、颯人君。僕は何から始めたらいいのかな?」
公園にやって来た僕と颯人。
「とりあえずお前が持ってきたバットとラケットは使わないな」
「なに!!そうだったのか!!すまない返すよ」
「うん。お兄ちゃんも頑張ってね」
そこら付近にいたキッズにバットとラケットとローラーシューズを返す。
「まず、お前が始めるのはパス練からだ」
「僕はA◯EXをやりにきたわけじゃないんだよ?」
「ボールを蹴る時はこうやってだな・・・」
ボールの蹴る場所や体勢などを事細かに教えてくれる。
「なんだ、結構上手いもんじゃないか」
「やれやれ、僕また何かやっちゃいましたか?」
「ああ。これなら『へぇ〜、天川君って意外とサッカーできるんだね』ぐらいには褒められるぞ」
普段は僕を貶すか叩くしか脳のない颯人が珍しく褒める。
あれ?もしかしてホントに結構上手い?
「次はディフェンスだ。正直、これはオフサイドやらを覚えた方が早い気がする」
「え?こう、イ◯イレみたいな必殺技はないのか?」
「ディフェンスが一朝一夕で上手くなるなんて無理な話だ。お前はひたすら相手を追いかけるだけでいい」
確かに、今までの球技大会も大体お団子になってワチャワチャするだけだったしな。
「教えることは以上だ。あとは練習しろ」
「え!!ドリブルやらシュートやらトリプルアクセルは教えてくれないのか!!」
「ディフェンスだからそんなのは使う機会がないんだよ」
「だ、だが、やはりそれだと活躍が薄いじゃないか!!」
僕はライバル達から一歩先を行く存在でなければならない。
そんな中でちょっと守備の硬い男なんてモブもいいところだ。
「恋愛だと、その守備すら甘いけどな」
「う、うるせぇ!!な、なにかないのか?せめて必殺シュートの一つでも教えてくれ!!」
「意味ないぞ?どうせ。じゃあ、そうだなぁ……オーバーヘットとかでいいんじゃないか?」
「オーバーヘッドと言えば、有名なマフィアの首領を裏から操ってると言われている、あの?」
「直訳したらそれっぽくなるが、お前サッカー見たことないのか?」
「冗談だよ。さすがにそれくらい知ってる。けど、あれって僕に出来るの?」
「知らん。お前がしたいって言っただけだ」
もう少し親友に対して優しくしてくれてもいいだろ……。
「とりあえず、僕も腹を決めたよ。早速練習しよう」
「ん?いつも『数多の努力の名言があるけど、1時間の努力が実人と、一年努力しても成果が出ない人がいる時点で結局才能ゲーだよね』と体力測定の後に言ってるお前が珍しいな」
「今回ばかりは負けてられないんだよ」
静かに、だが闘志を感じる僕の目を見、颯人も「ほう」と感心を示す。
「じゃあ始めるか」
「オス!!」
◇◆◇◆
「もう無理です」
僕は限界を迎えていた。
「始めて一時間で何へばってんだ」
鬼教官がリフティングをしながら咎める。
「あ、あんなの取れるわけないだろ!!しかも休憩無しって今がいつの時代か分かってる!?」
「そうは言っても球技大会まで時間がないんだ。俺も普通に部活あるから、今週は今日くらいしか教えられんぞ?」
くっ!!(女騎士風)
この男、何故いつも正論ばかり吐く。正論がいつも正しいとは限らないんだぞ!!
「正論は正しいから正論って言うんだ。正しくないのなら、それはただの屁理屈だ」
カウンターファイナルでトドメを刺された僕は、渋々練習を再開する。
「ところでうちのチームって強い方なの?」
マジシャンのようにボールを巧みに操る颯人が動きを止め、少し考える素振りを見せる。
「う〜ん、どうだろうな。他のクラスと違ってサッカー部は俺一人だが、龍騎が別格だからな。弱くはないと思う」
なるほど。
主人公様は帰宅部のくせにサッカー部並みの戦力とは。
やはりこの世界は才能ゲーミングだな。
「まぁ、多分優勝するのは部長のとこだろうな」
「部長って……旬先輩か?」
「ああ。あの人はサッカー部でも頭ひとつ出てる。中学の試合に一人プロが紛れ込んだようなもんだ。まず勝てん」
「はへぇ〜」(アホ面)
やっぱ旬先輩ってすげーなー(小並感)。
何もあの人の偉業はサッカーだけに限らず、生徒会長に立候補すれば他の立候補者が辞退したり、全国テストでは常に100位以内に位置、さらには機械にも強いらしい(美桜譚)。
数多の伝説を残す、まさに怪物。
きっと彼の親はモンスターか何かだろう。
「まぁ、別に僕は優勝を目指してるわけじゃない。とりあえずカッコつける。それだけだ」
「じゃあお前が無駄話してる間にスケジュール表作っといたから、これを毎日しろ」
口からは文句しか言わないが、やっぱり優しい我が親友。
「颯人、お前は親友キャラにピッタリな逸材だよ」
褒めたつもりなのに嫌な顔をしながら渡された紙には、朝6時起床の文字が見えたので、とりあえず破っておいた。
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ピピピピ ピピピピ
僕の朝はマジで最近早い。
朝6時に起床し、ジャージに着替える。
「ふわぁ〜。お兄最近早起きだね」
朝練のため、同じく朝早く起きた雫に声をかけられる。
「ホントに苦痛だよ。拷問集の鉄の処女の隣に早起きがあっても見分けがつかないと思うよ」
「じゃあ私は毎日拷問を受けてるようなもんじゃん。ま、お兄のヒョロヒョロがガッチリしたら私的にも嬉しいし、頑張ってね」
「おう、ありがとな。ところで雫、お前は球技大会何したんだ?」
僕の質問にキョトンとした顔の雫。
「何当たり前のこと聞いてるの?卓球に決まってんじゃん。高校生なんてドライブ連打で大体倒せるんだから、楽でいいよね」
「ま、そうだよな。じゃあ行ってくるわぁ」
「うん。言ってらー」
こうして今日もまた、僕は日課となった走り込みを始めた。
ちなみに、僕の可愛い妹である雫ちゃんは文芸部である。




