ペンダントのママ
「クリスマスなのに一緒に居てあげられなくてごめんなさい。
お婆ちゃんの言うことを聞いて良い子でいてね。
じゃ、また明日電話するわ。
おやすみなさい」
「ウン、グス、わかった、おやすみなさい」
目に涙を浮かべた幼い孫娘が母親との会話を止め、スマホの電源を切った。
孫娘の母親は惑星間旅客宙機のパイロットで、今、火星にいる。
窓際の椅子に腰掛けた私に抱かれ窓から見える満天の夜空を見上げていた孫娘が、突然ビックリした顔をして言う。
「あれ? ママのこえがきこえる」
「え! なんて言ってるの?」
「よくきこえないけど、ママはいつもあなたのそばにいるわよ、っていってるみたい」
私は首から下げているペンダントを孫娘の耳に当て問う。
「聞こえる?」
「ワァー、ママだ! でも、どうしておばあちゃんのペンダントから、ママのこえがきこえるの?」
「このペンダント、否、お星様がママだからよ」
「どういうこと?」
「このペンダントの最初の持ち主は、私のお婆ちゃん。
私も貴女位の頃、軍人だった母とクリスマスのとき一緒に居られなくて泣いていた時に、今の貴女のように母の声が聞こえてお婆ちゃんに譲って貰えたの。
そのときお婆ちゃんに聞かされた事を貴女にも聞かせてあげる」
私は遠い昔、お婆ちゃんに聞かされた事を孫娘に語る。
クリスマスなのに今家に居るのは私1人。
パパやお兄ちゃんたちお姉ちゃんたちは朝出かけるとき、「今日は絶対に早く帰るから」って言って出かけたのに、渋滞に巻き込まれて車が動かないってさっきそれぞれ電話して来た。
去年のクリスマスの時はママも一緒だったけど、今年の夏に交通事故でお星さまになっちゃった。
窓際の椅子に座り、飼っている犬や猫と一緒に夜空を見上げる。
あ! 流れ星だ。
沢山の流れ星が次々と夜空を横切って行く。
流れ星を見ていたら、去年ママと一緒に夜空を見上げていたときママが言っていた事を思い出した。
「流れ星が消え去る前に、流れ星に願い事を唱えると叶う事があるわよ」
って教えてもらったんだ。
だから、私は流れ星にお願いした。
「ママを私に返してください」
流れ星を見つける度に、何度も、何度も、「返して」って言い続ける。
そうしたら、一際眩しい流れ星が途中で消えること無く私の方へ落ちて来た。
流れ星は雪が積もる畑に落下。
私は、「ママが帰って来たー」って叫びながら流れ星が落ちた所に走る。
流れ星が落ちた所の雪は全て溶け、雪が溶けている所の真ん中にキラキラ光る石? 違う、お星さまがあった。
キラキラ光るお星さまを見つめていたら、ママの声が聞こえた。
「神様が愛しい貴女の願いを聞き遂げてくださった。
これからは貴女と何時も一緒よ」
お星さまの声が聞こえるのは私だけ。
パパもお兄ちゃんたちもお姉ちゃんたちも誰にも聞こえない。
「ママを私に返して」ってお願いしたから私にしか聞こえないのかも知れない。
パパにお願いしてお星さまをペンダントにしてもらう。
それからは首から下げて肌身離さず持ち続けている。
私は孫娘にお婆ちゃんから聞かされた事を話して上げてからペンダントを私の首から外し、孫娘の首に付けて上げた。
「わたしがもらっていいの?」
「良いのよ。
声が聞こえて、ママを必要としている人が付けていれば良いの。
何時か貴女が大人になって、このペンダントの声が聞こえる子供に出会ったら、貴女も私や私のお婆ちゃんのように譲って上げなさい」
「ウン! わかった、ありがとうおばあちゃん」