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「お前、俺のこと嫌いだろ?」
ホームには他にも人がいたが一定距離を保ってパーソナルスペースを取っていたため話し声は隣の川元にしか伝わらない。
「佐東課長こそ、俺のこと嫌いですよね?」
質問に質問で返された。そういうところが苛立つ。
「質問の答えになっていないぞ。まずは答えてからだ。まあ俺はお前が嫌いだがな。」
「俺は、嫌いじゃないですよ。」
相変わらず目線を合わせはしないが、会社にいるときよりかは大分幾分ましに喋っている。というか、嫌いじゃない?てっきり嫌われていると思っていた。
「佐東課長みたいになりたいって思っていますよ。」
「二人しかいないんだ、余計な気遣いするな。」
「二人しかいないから言えるんです。」
川元の目線は前を向いたままだ。しかし、さっきよりもはっきりと聞こえる声になった。手に持っているブラックコーヒーのプルタブはまだ開いていない。俺はもう半分以上飲んでいるのに。
「まあ、俺は、嫌われているんですね、もっと努力します。」
話し方が元に戻った。
「だいたい、目線を合わせずに話そうとするところが悪い。長すぎる前髪で相手の目線もどこを向けばいいか分からないところも悪い。歯切れの悪い話し方も悪い。地味な服装も無難を装っていて俺は気に食わない。あと、」
まだ話足りないところもあったが、隣の座高がどんどん低くなっていくのを見て止めた。
「ど、努力します。」
地面にめり込みそうなくらいしょげていた。これではどっちが病人か分からない。
「もし、」
起き上がった川元がちゃんとこっちを向いて話し始めた。
「もし、さっき言ったこと、ちゃんと出来たら、」
こっちを向いているというのに目が見えない。俺はどこを向いて話を聞けばいいのか。
「俺のこと、認めてくれますか?」
「長そうだな。」
「が、頑張ります。」
次の列車がホームに入ってきてそれに乗った。川元は本当に家まで鞄を持ってきた。駅で鞄を引っ手繰ろうとしたが、病人と健常者の力の差は歴然だった。ただでさえ身長差があるというのに。
「大丈夫です。送り狼にはなりませんから。」
「それは、男に対して言う言葉じゃないだろ。」
「佐東課長はもっと危機感を持ってください。」
「確かに、倒れたのは俺の体調管理不足だな。今日は早く寝るよ。」
「その危機感もですが、」
「他にないだろ?」
「・・・はい、」
その危機感の意味を知ったのは、また別の話。