初スキル! 初バトル!
さっきまで、あんなに疲れていたはずなのに。
不思議と力が漲ってくる。
街の外へ走り続けて息が切れてるはずなのに、まだまだ走れそうな気がしてならない。
これも、さっき食べたリンゴの恩恵か? いや、違う。
自分が得たチートスキルの詳細は、脳内で把握できている。
そういうシステムのようだ。
が、体力に関するものは何一つない。
つまり、これはオレ自身の意思の力なのか。
それはそうだ。やるべきことがあるのだから!
オレを救ってくれた勇者さんに、きちんとゴールドを返さなければ。
5ゴールドをそのまま返すだけでは少なすぎる。
もっと……もっと、何倍にもして返さないと。
そのためにも、止まるわけにはいかない!
門番の兵士さんがオレに気付き、止めようと手を伸ばしている。
オレのことを心配してくれているのだろう。
ありがとう、兵士さん。
でも……。
「大丈夫! オレはさっきまでのオレじゃない!」
「んお!? お、おう……」
戸惑っているようだが、道を開けてくれた。
たぶん、オレの表情を見て察してくれたのだろう。
きっと、今のオレはさっきまでと違い、生き生きとした顔をしているだろうから。
イノシシを食ってチートを得た覚えはないが、猪突猛進だ。
森の木々がビュンビュン視界を過ぎてゆく。
さっきの場所まで一直線。
さあ、リベンジだ!
今のオレにはリンゴを食べて得たスキルがある。
使い方もバッチリ。
こうしてエネルギーを手に集中させ……できた!
右手にリンゴ型のエネルギー弾一つ。
左手に種型の銃弾二つ。
一度に作り出せるのは、食べた量に応じた分だけのようだ。
だが、これで充分。
後はこれを……。
そこでガサガサ揺れた草に向かって放つだけ!
「食らえ! アップルシュート!」
ゴンっ! という音がした後、ギャワン!と悲鳴が響き、野犬がキャンキャン鳴きながら走り去った。
これでは困る!
「おい待て! こっちは金稼ぎに来たんだ! 戦利品を置いてけ!」
追い打ちで種鉄砲を放ったが、遠すぎたこともあり当たらなかった。
最初からこっちにしておけばよかった。
そうすれば、一撃で仕留められたかもしれない。
後悔しても仕方ない。
次だ次。
もっと周りに目を向ければ、獲物はたくさんいるはずだ。
そういえば、さっきはあのリンゴを鷹が咥えて飛び去っていたな。
なら、こうして上空を見れば……いた!
同じ過ちはしない。
「今度こそ……!」
……当たった!
外しても外しても、すぐ装填して撃った内の一発が。
下手な鉄砲も何とやら、だ。
ヒュルヒュルと落ちてきた鷹。
これ焼いて食ったら飛べるんじゃね!?
……焼ければの話か。
仕方ない。これは売却用だな。
よし、次の獲物を探そう。
……なんて思ってたのがついさっきのはずなのに。
鐘の音が聞こえてきた。
気付けば空はオレンジ色。
最初に鷹を狩ってから、もう何時間も夢中で狩りを続けていたらしい。
その証拠に戦果も充分。
鷹が四羽と野犬一匹。
意気揚々と街に戻ったオレを見て、門番さんは驚いた。
街ゆく人たちの見る目も、さっきと全然違う。
肝心の稼いだ額は……100ゴールド!
これで勇者さんにお礼ができる!
そう思ってリンゴ屋を訪れてみたものの、勇者さんの姿はない。
そりゃあ、忙しいだろうから、ずっと待っているわけにはいかないよな。
店員さんに聞いてみよう。
「あの……」
「おや、あんたかい」
「はい。先程はお見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ないです。ところで、さっきの勇者さんは?」
「ああ。あの子ならね、あんたにこれを渡すように言ってどこかへ行っちまったよ」
そう言って差し出されたのは100ゴールド。
これは一体……?
「あの……これは?」
「あんたがお金に困ってそうだからって、渡してほしいと言っていたよ。返す必要はないから、気にしないでくれだとさ」
「そんな……」
これが拒絶じゃないことは確かだ。
だったら、オレのことなんて構わなくていい。
黙ってこの場を去ればいい。
そうすれば、何も知らないオレは馬鹿みたいに待ち続けるだろう。
勇者さんはそれを心配して伝言を残してくれたんだ。
それだけじゃなく、お金の心配まで……。
違う……違うんだ、勇者さん!
オレは、きちんとお礼がしたかった。
オレを救ってくれたこと……心から感謝している。
だからこそ、ちゃんと返したかったんだ。
でもきっと、勇者さんは見返りを求めてやったわけじゃない。
あの方にとって、人を助けることは当然のことなんだろう。
まさに、勇者と呼ぶに相応しい。
でも、だからこそ……だからこそ恩返しをしたい!
いつの日か、絶対に……!