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死んでも食べたいものがある

 電車での通勤は本当に退屈だ。

 毎朝、同じ景色をながめるだけ。


 だが、今日は違う。

 普段なら憂鬱ゆううつなこの時間さえ、楽しくてならない。

 今日の日替わりランチは、待ちに待った焼肉。

 考えただけでワクワクする。


 これだけ上機嫌の今、いつもなら気にさわることも気にならない。

 そこでクスクス笑っている女子高生コンビへも、寛容になれる。

 声だって聞こえてこない。

 そう、聞こえてこな……。


「また日替わりおじさんニタニタ笑ってる」

「キモーい」


 ……前言撤回。

 やっぱり頭にくる。


 人の趣味などほっといてほしい。

 こっちは四十過ぎのおっさん。

 これくらいしか楽しみがない。


 それなのに、日替わりおじさんなんて変なあだ名をつけやがって。

 こっちには米原米也まいはらよねやという立派な名前があるんだ!

 米が二文字も入っている!

 光栄な名だ!


 そもそも、何でオレが日替わりランチ好きだと知っているのか。

 女子高生の情報網は恐ろしい。


 本当に頭にくる。

 しかし、だからといって怒りをぶつけるわけにはいかない。

 もしそんなことをしたら、たちまちオレは社会的に死ぬだろう。

 ただでさえこのご時世。

 ちょっと注意した程度でも、完全にアウト判定を取られること間違いなし。


 耐えろ。

 耐えるんだオレ。

 全て、今日のランチにぶつければいい。

 幸い、もう駅に着いた。

 女子高生とは目を合わせず、電車を降りればいい。

 簡単なことだ。

 足取りだって、こんなに軽い。

 階段の上りも、腰が雲に乗ってるようだ。


 後は会社へ向かうだけ。

 そう、この道をまっすぐと行……。

 痛い!

 何が起こった? 右半身を……ハンマーか何かで強打された?

 体が宙に浮いている?

 そうか……さっき腰も軽かったもんな。

 そりゃあ、体だって浮くさ。

 なあんだ、心配して損し……。


「んぐぅ!」


 再び走った激痛。

 今度はその理由がわかる。

 地面に叩きつけられたせいだ。

 意識が……遠のく……。

 嫌だ……死にたくない……。


「冗談じゃねえ! 死んでたまるか!」


 ……叫んだのはいいものの、何やら違和感がある。

 体が妙に軽い。

 さっきまでも軽かったが、それの比じゃない。

 それに、足元に横たわってる人。

 これ、オレじゃねえか!


 オレ死んだのか!? 何で!?

 落ち着けオレ、周りを見ればわかるはずだ。

 周りを……うん? あれはトラック。

 そうか、こいつがオレを殺したのか!


「ふっざけんなよコラぁ!」


 オレがどれだけ今日を楽しみにしていたと思っている!

 返せよ! オレの焼肉!


「テメェ! よくもオレを殺したな! どう償う気だコラぁ!」


 何とか言えよ! 運転席にしたままじゃなく、ちゃんと起きてこっちを見ろ!

 ドアをガンガン殴る音、聞こえねえのかよ!

 オレにも聞こえねえよ! だって手がすり抜けるもん。

 何でだよ!? 何ですり抜けるんだよ!?

 お前のその胸倉をつかんで、ガクンガクン揺すってやりたいのに!

 何で触れられねえんだよ!?


「返せよ、オレの唯一の楽しみ。デザートはプリンだったのに! 返せよ! 返せよ……」

「あの……」

「っ!?」


 不意に聞こえた今の声は何だ?

 ……いつの間にか目の前にいる金髪の女性は一体?

 この人が発したのか?


「そうです」

「読んだ!? オレの心を!?」

「はい」

「もしかして……女神様!?」

「その通りです」

「本当ですか!? よかったぁ……助かった! 優しい女神様が、きっとオレをあわれんで来てくれたんだ! 最後に未練を断ち切るために!」

「あの……」

「最後の晩餐ばんさん……ってな」

「あの……」

「女神様、最後に焼肉食べたいです!」

「えぇー……」


 えぇー、っておい……。

 何その目? 女子高生がドン引きしてる時と同じ目なんだけど。

 ウソでしょ? 女神様。

 こっちは真剣なんだ! 一生に一度のお願いをしてるんだから、文字通り。

 なあ、お願いだから!

 聞こえてるんでしょ? オレの心の声! 黙ってないで何とか言って!


「……わかりました」

「本当ですか!? やった!」

「そこまで食事が大事でしたら……あなたにはきっと、このスキルがピッタリでしょう」

「ヴぇ!? スキル? いや、何言って……」

「あなたは毎日、昼食に食べたものに応じて能力を得ます。ただし、正午から午後一時半までの間に食べたもののみ。得た能力は正午にリセットされます」

「は?」

「……それでは、あなたを転生させます。ご武運を」

「えええ!? いや、焼肉は? ねえ、焼肉うわあああ!」


 いやいやちょっと! 違うんだって!

 話を聞いてよ女神様!

 ねえ、何この真っ白の空間。

 オレ一体どこに向かって飛ばされてるんだよ!?

 オレの焼肉返してくれよぉ……。

 カレーと迷いました。

 ちなみに作者はバニラアイスクリームとハンバーグが大好きです。

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