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これこそデートなのかもしれない

 

「継人君」


 そう名前を呼んでくれたのは、僕らの学級委員長の松戸絵夢(まつどえむ)さん。

 ボブカットにしている黒髪がキラキラと輝いていて、今日も笑顔が素敵だ。


 クラスの中でもナンバーワン美少女として名高い彼女は、誰でも分け隔て無く接し、更には頼み事も笑顔で聞いてくれる。


 そんな美少女に話しかけられて嬉しくない男はいない。

 絶賛舞い上がり中の僕は数秒固まっていたみたいで、トントンと肩を叩いて正気に戻してくれた。


「大丈夫? 継人君? どこか具合悪いの?」


 心配までしてくれる松戸さんは天使なのではないだろうか? いや、確実に天使だな……うん。


「いや、全然大丈夫。心配してくれてありがとう」


「いえ、どういたしまして」


 笑顔が眩しくて光合成を起こしそうだよ。酸素とか出しそうだよ。


「それで、話があるんだよね?」


「あっ、そうそう。うっかり忘れるところだった。今日、買い物に付き合ってくれないかな?」


「ぜひ、お供します」


 僕は即答でそう応えた。多分、脳で処理するより早く言葉を発していただろう。

 

 松戸さんのお誘いを断るなんて万死に値する。例え、足を折っていても行く自信がある。


 恋愛感情とはまた違う。これは憧れとでもいうのだろうか? あるいは感謝の気持ちが強い。

 

 何時も文句も言わずに、クラスを取りまとめてくれている。

 そんな松戸さんに恩返しがしたいと思うのは必然だと思う。


 そんなことを考えながら、松戸さんと歩いている。たわいもない会話をしながら、町中を歩く僕たち。

 

 周りから、嫉妬と嫉妬と嫉妬がこもった視線が向けられている。


「なんか周りから見られてるね? カップルだと思われているかな?」


 耳元でゴニョゴニョっと話してきた。脳がとろけそうになった。可愛いらしい声と可愛らしい仕草は卑怯ではないかと思う。

 

「どどどどどどうなのかな?」


「どが多いよ?」


「す、すいません……」


「えっ、なんで謝るの? 謝らなくて大丈夫だよ?」


「そうなんだけど……。なんか反射的に謝ってしまった僕がいる」


「ふふふ、なにそれー」


 可愛い……!! 超絶可愛い! 今の微笑みを額縁に入れて飾りたい! そして、小一時間ほど眺めたら、他の人に『これ、僕に向けた微笑みなんですよー? てへへー』って自慢したい!

 

 という気持ち悪い妄想はさておき、そういえば何を買うのか聞いていなかった。


「ところで何を買うの?」


「首輪だよ」


「首輪って……あの首輪だよね?」


「うん、あの首輪」


 犬とか猫とかの首輪かな? 壊れちゃって新調しに来たとか? まぁ、松戸さんと買い物が出来るだけ僕は嬉しい。ありがとう、ペット。


「松戸さん、ペット飼っているの?」


「ううん、飼ってないよ」


「じゃあ、友達のペットにプレゼントするとか?」


「ううん、しないよ」


「──えっ? なら何故、首輪を?」 


「それはね……?」


 隣を歩いていた松戸さんが僕の前まで回って、真っ直ぐに僕を見つめてきた。

 

「私の首輪を買いたいからだよ」


 ──うん? 私の首輪を買いたいから? どういうことだ? 松戸さんのギャグかなんかなのか? ツッコミとかいれた方が良いのか? 

 

 いや、それにしては真剣な目しているしなぁ……。


「……私の首輪って?」


「私、継人君に首輪をつけてもらいたいの。そして、出来るならペットにしてほしい。駄目かな?」


「だっ、駄目とかの前に理解が追い付かないというか……」


「そうだよね……。突然ごめんね……」


 松戸さんがシュンとしてしまった。なんか罪悪感がはんぱないけど、この場合しょうがないよね? 

 

 突然、同級生からペットにしてくださいって言われたら誰だって困惑すると思う。


「じゃあ、お尻叩いて『このメス犬が!』って言ってくれないかな?」


「それ、難易度上がってるよね? やらないからね?」


「ちぇー……。けちー」

 

 口をとがらせて不満をアピールしている松戸さんも可愛い。

 

 危うく今まで松戸さんが言った言葉を忘れそうになったが、完全に変態の発言だったことを思いだした。


「あの……一回整理させてもらうと、僕のペットになりたいと?」


「わん……じゃなくて、はい!」


「なんで僕なのかな?」


「継人君、家でもうすでにペットを飼っているみたいだし、一匹や二匹増えたところで変わらないかなと思ったの」


「僕、ペットなんて飼ってないけど?」


「えっ、でも、昼休み電話で話してたよね?」


 ──ん? 電話で……昼休み……あっ、もしかして……僕は昼休みのことを思いだした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 時は昼休み電話が掛かってきた。誰だろうと思いいつつ携帯の画面を見たら、母さんと表示されていた。

 

 教室にいた僕は廊下の端の方の誰も来なそうな所に行き、電話をとった。


「もしもし? 母さん?」


「あっ、つぐ君! 帰りにマカロンとケーキ買ってきてね! よろしくー! じゃあねーばいばい!」


「まてまてまてちょっと待て。お前、愛彩だよな? 何で母さんの携帯から?」


「えー、私お母さんですよー? 早くママって呼んで下さい。もしかして恥ずかしいんですか?」


「お前と電話しているこの時間が一番恥ずかしいわ。それと母さんはお菓子とか頼まないからな? 夕飯の買い出しとかはたまに頼まれるけど」


「良いから買ってきて下さいね! 頼みましたよ?」


「お前、取り繕うの面倒くさくなったな? それと絶対に買わない」


「えー、なんでですかぁー? 私、つぐ君の恋人っていうか愛人みたいなものですよね? なら買ってくれても良いですね? はい、決まりですね!」


「日に日にウザさが増してきてるな……。絶対に買いません。あと、お前に一言言っておくことがある……。僕にとってはお前はただ飯食らいのペットだ。分かったか? というわけで、さようなら」


「ちょっ待てよ──」


 愛彩が何かを言いかけていたが、急いで電話を切った。最後に何故キム○ク風にしたのか気にはなったが、これ以上話してもストレスが溜まる一方だ。


「はぁ……無駄な時間を過ごしたな。教室に戻ろう」


 僕は教室に急ぎ足で戻った。近くで電話を松戸さんに電話を聞かれているとも知らずに。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 あれかー!? あれを聞かれていたのか……! まずは誤解を解かないと……。


「松戸さん、あれは違うんだ誤解なんだよ」


「例え誤解であっても解は出てるから、これが私の解なの」


「どっかで聞いたことあるなその台詞!? どこぞの捻れボッチみたいな言い方!」


「まぁ、私はドMビッチだけどね?」


「納得したく無いのに納得してまう僕が悲しいよ」


「ストレスが溜まったら私のお尻を叩いてね? あっ、もちろん溜まってない時でも良いよ?」


 言ってることはあれでも、ウィンクしながら言う松戸さんは可愛いかった。

 

「で、首輪は「選びませんし、買いません。さようなら」


 これ以上、松戸さんのイメージが壊れる前に僕は退散した。いや、退散するしかなかったんだ……!









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