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災難勇者の帰還計画(仮)  作者: 九十九神
第一章 日常から非日常へ
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第一章 六話 異世界での食事と魔法と

ブックマークと評価ありがとうございます!嬉しくて、早めに更新してしまいました。(2020年3月14日)

 扉が開き、数人の兵士が部屋に入ってきた。兵士がカートのようなもので食事を運んできたようだった。


「勇者どもの食事を持ってきた。」と兵士が言いながら、


部屋にあった机に見た目パンのようなものと何かの肉と豆のスープと空のゴブレット(コップ)が置かれた。


 突然の召喚から王との謁見、立て続けに体験した非日常により忘れていたが、全員自身が空腹だったことを思い出した。


「一応食事は出るんだな」と朝陽(あさひ)が言った。


「そういえば、腹減ったな……」と大地(だいち)が言った。


「頂いても良いのかしら? 」と撫子(なでしこ)が兵士に聞いた。


「食事を持ってきた、と最初に言ったはずだ」と兵士は無愛想に答えた。


 兵士たちは、食事を運んできたカートを外に出し、部屋から出ようとしていたが、


「ちょっと、待ちなさいよ! 」と凪(なぎ)が止めた。


兵士は「なんだ」と言いながら振り返った。


「飲み物が無いわ! あたし色々大声出して、のどが渇いてるんですけど! 」と凪(なぎ)はゴブレットを持ちながら言った。


兵士たちは、目を合わせ何を言っているんだ?と首をかしげながら、


「水くらい自分たちで用意しろ」と言った。


 そう言われて、世名(せな)たちは部屋の中を見渡した。

八人分のベッドと食事用のテーブルと椅子、窓はなく明かりもランプのような物があり特に飾り気のない部屋だ。

水を用意できるような流し台や給水器などはついていなかった。一応奥の方にトイレが付いているようだが、まだ中は確認していないが、トイレの水は嫌だな……と世名(せな)は思った。


「水がどこにあるっていうのよ! 」と凪(なぎ)が言うと、


「……異界人は自分で水を出せないのか? 」と兵士が言った。


「自分で水を出す? ……」と輝夜(かぐや)が首をかしげた。


「どういうことよ……まさかっ! 」と凪(なぎ)が顔を赤くして言った。


兵士が凪(なぎ)の前まで移動し、手に持っている空のゴブレットに右手を近づけ、


「クリアウォーター|清らかな水で杯を満たせ」と言った。


すると、凪(なぎ)の持つゴブレットが綺麗な水で満たされたのだった。


「水が湧いた! なにこれ! 」と凪(なぎ)が驚きながら言った。


「このくらい子供でもできるぞ」と兵士は少し得意げに言った。


「魔法来たーーー! まさかの初魔法が一般兵士とかがっかりだけど、すげー! 」と紫道(しどう)はテンションを上げ飛び上がりながら言った。


「……がっかりで悪かったな、後は自分たちでやるが良い」と兵士はそのまま出ていってしまった。


「あ、ちょっと! 」と世名(せな)が兵士を止めようとしたが、兵士は出ていってしまい扉に鍵をかけてしまった。


「……」全員が紫道(しどう)を無言で睨む。


「いや、その、悪い……」と紫道(しどう)が謝った。


「どうするのよ! あたしのコップの水しか無いじゃない……」と凪(なぎ)が言った。


「全員に分けるには少なすぎるわね……」と撫子(なでしこ)が言った。


「くっ……俺が水を出せばいいんだろ! 俺ならできる! うぐぐぐぐぐ」と紫道(しどう)がゴブレットを両手で持って唸った。


「クリエイトウォーター!! 」と紫道(しどう)が言った。


しかし、ゴブレットの中身は空のままであった。水滴の一粒もなかった。


「……ニートさん……」と颯一郎(そういちろう)が悲しそうな目で紫道(しどう)を見つめた。


「呪文と違うんじゃないか? さっきの兵士が言っていたのは……」と鉄人(かねと)が言った。


「え? そ、そうだったかな……」と紫道(しどう)が言った。


「なんか普通に英語じゃなかった? クリアウォーターって」と朝陽(あさひ)が言った。


「もう一回! 俺は魔法が使える! 俺は魔法が使える! クリアウォーター! 」と紫道(しどう)がゴブレットを掲げながら言ったが、何も変わらなかった。


「なんでだよ! 」と紫道(しどう)が嘆いていた。


騒ぐ紫道(しどう)と呆れる他のメンバーをよそに、


「クリアウォーター|清らかな水で杯を満たせ……」と輝夜(かぐや)が言った。


すると、輝夜(かぐや)のゴブレットが水で満たされ……過ぎて水が溢れていた。


「わ、わ、わ、ごめんなさい」と輝夜(かぐや)は言いながら慌てていた。


「え? 二宗さん、どうやったの! 」と凪(なぎ)が驚き、


「すごいわ! 輝夜(かぐや)ちゃん」と撫子(なでしこ)が言った。


他のみんなも輝夜(かぐや)を絶賛していた。紫道(しどう)だけは唖然としていた。


「輝夜(かぐや)ちゃんができるってことは、俺たちもできるんじゃないか? 」と大地(だいち)が言った。


「でも、七軒さんはできませんでしたよ」と颯一郎(そういちろう)が言った。


「何かコツでもあるのかな? 輝夜(かぐや)さん、教えてもらってもいいかな? 」と朝陽(あさひ)が輝夜(かぐや)に聞いた。


輝夜(かぐや)は注目されて少し恥ずかしそうにしながらも説明してくれた。


「えっと、さっきの兵士さんがしていたみたいに、コップに手を近づけて、水出てこいって思いながら、『クリアウォーター』って言ったらできました。」と言った。


それを聞いた皆は、自身のゴブレットに向かって『クリアウォーター』を唱え始めた。


「あたしは、この水飲んでいいかしら? もう喉がカラカラなんですけど」と凪(なぎ)が自分のゴブレットを見つめながら言った。


世名(せな)もやってみることにした。


「クリアウォーター|清らかな水で杯を満たせ! 」と世名(せな)が言うとゴブレットは水で満たされた。


「僕もできました! 」と世名(せな)は少し興奮しながら言った。


みんな世名(せな)を褒めてくれた。


――結局、ゴブレットに水を出せたのは、世名(せな)と輝夜(かぐや)の鉄人(かねと)の三人だけであった。


 世名(せな)と輝夜(かぐや)はみんなのゴブレットに、水を入れる係となった。

鉄人(かねと)の水は硬度が高いのか、……まずかったのだ。苦味と渋みがあった。鉄人(かねと)は少し残念そうにしていた。


 水不足が解消したため、みんなようやく食事を取ることにした。パンは少しかたくふすまパンのようだった。

豆のスープは薄味で、食べられなくは無いが満足できるものではなかった。それに水騒動ですっかり冷めてしまっていた。

 肉は何の肉かわからなかったので、みんな戸惑っていたが、大地(だいち)が腹減ったとかぶりつき「意外とうまい」と言ったためみんな手を付け始めた。

肉は鶏肉のようだった。味は塩のみのシンプルな味付けであったが肉本来の旨味なのかそこそこ美味しくいただけた。


「俺はきっと水属性使いじゃないんだ……俺の力が発揮されるのはここじゃない……」と紫道(しどう)はブツブツ言っていた。


「あんた、全然だめじゃない」と凪(なぎ)が紫道(しどう)に言った。


「うるさいな! そういえば、お前、兵士が自分で水を出せって言ったときになんで慌ててたんだ? 」と紫道(しどう)が聞いた。


「うぅ……うるさいわね! どうでもいいでしょ! そんなこと! 変態ニート! 」と凪(なぎ)が顔を赤くしながら言った。


「なんで俺が変態なんだ! このビッチ! 」と紫道(しどう)が言い返していた。


あの二人、意外と中がいいんじゃないか……と世名(せな)は豆のスープを飲みながら思った。


――全員が満足……とは行かないものの、空腹を満たせたことである程度落ち着けたようだった。


 そして、全員が食べ終わったとき、タイミングを見計らったように数人の兵士が部屋に入ってきて食器を片付け始めた。

片付けが終わると、


「まもなく日没となる、速やかに眠るが良い」と兵士の一人が言った。


「あの、ちょっと良いですか? 」と世名(せな)は気になっていたことを兵士に尋ねた。


「この部屋ベッドが八台しか無いんですが、一人分足りないですよね」と世名(せな)が言った。


「そういえば、貴様は後から来たのだったな。今から用意することはできないから明日まで待て」と兵士は答えた。


「え、じゃあ僕はどこで寝たら……」と世名(せな)が聞くが、


「そんなことは自分たちで考えるんだな」と言い兵士は出ていってしまった。


……マジかよ。と世名(せな)は落胆した。


「セナ、俺のベッドで寝るかい? 」と朝陽(あさひ)が言った。


「えっ!? 」と何故か撫子(なでしこ)が反応した。


「いや、違うよ!? 俺が床で寝るから、セナがベッドを使いなよってことだよ! 」と朝陽(あさひ)は弁明した。


「朝陽(あさひ)は優しいね。でも大丈夫。僕が後から来たんだから、僕が床で寝るよ」と世名(せな)が言った。


朝陽(あさひ)と世名(せな)がお互いに譲りあっていた。


「……あんたが床で寝なさいよ、ニート」と凪(なぎ)が紫道(しどう)に言った。


「な、なんで俺なんだよ! お前が譲ればいいだろ! 」と紫道(しどう)が言い返した。


「女の子に床で寝ろなんてサイテー! クズニート! 」凪(なぎ)と紫道(しどう)は言い争いを始めた。


――結局、身体の細い凪(なぎ)と輝夜(かぐや)が同じベッドを使うことになった。


「三砂さん、二宗さん、ごめんね……僕のせいで」と世名(せな)は謝った。


「大丈夫ですよ」と輝夜(かぐや)は言った。


「別に、良いわよ。誰かを床で寝させるわけには行かないじゃない。ニートを除いて」と凪(なぎ)は言った。


「きっ……聞こえてんだぞ! 」と紫道(しどう)が言っていた。


「みんな、明日からもきっと大変だろうけど、頑張ろうね。俺なんかみんなとならなんとかなる気がするよ」と朝陽(あさひ)が言った。


「うん」「はい! 」「そうですわね」「ええ」「うっす」「ああ」「わかってるよ」それぞれがうなずいた。


「「「おやすみ」」」とそれぞれが口にした。


――


静かになってから数分後、


「……あの、すみません……」と世名(せな)が女性陣にむかって言った。


「なに? 」と凪(なぎ)が言い、「どうされました? 」と撫子(なでしこ)が言った


「トイレって……、どうしたら良いんでしょうか……」と少し半泣きになりながら世名(せな)が尋ねた。


――


最後にトイレ騒動が発生し、またひと悶着があったが、異世界の夜は更けていくのであった……


世名(せな)たちの部屋の前にいる見張りの兵士が、


「異界人は猿魔のように騒がしいな……」とつぶやいていたのだった。――



ベッドの並び順は、こんなイメージです。


■■■■


■■■■


凪&輝夜、撫子、世名、颯一郎


朝陽、鉄人、大地、紫道

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