君のお尻からヘビーメタル
この手紙を読んでいるという事は、私はこの世にいないという事でしょう。だから最後に聞いて欲しい。
ああ、私の「おなら」を誰も止める事が出来ない。どうすれば止められますか?
ぶー
ぷー
ぶっ
ぶぼっ
ぼん
ぶすっ
すー
ぶほっ!
ばふっ!
ぶっ…ぶ……ぶぼぼぼぼぼぼぼっ!
ああ、止まらない。誰にも止める事が出来ない。
誰でも良い! 誰かっ! 僕の「おなら」を止めて下さいっ!
そんな内容の手紙をみつけた。察するに数十年前に書かれたようだ。手紙の主は切羽詰まった状況で手紙を書いた様子が伺える。
そもそも「おなら」とは「お鳴らし」という言葉から来ているという事なので、鳴る事に意味がある。鳴らない「おなら」はすかし屁である。
それはさておき。
「おなら」とは、いわゆるメタンガスである。工業的に生産されてはいるが、生物の腸内に於いても生成される炭素原子1つに水素原子4つの「CH4」という分子のエネルギーである。今の日本ではそのメタンガスである「おなら」を有効なエネルギーとして活用、重宝している。
そう! 「おなら」を有効活用できる「機能性パンツ」が誕生したのである!
「おなら」という放屁によって放出されたメタンガスを機能性パンツが検知すると、瞬時に電気エネルギーに変換する。そして、放出された「おなら」は無害無臭となって大気に放出される。これを開発した技術者は、2酸化炭素を酸素に変換する光合成の仕組みからヒントを得て開発したという事だ。
「おなら」から変換された電気エネルギーは、高機能パンツに備え付けられているバッテリーに蓄えられる。
そして高機能パンツに付いているコンセントから、通常の電化製品同様に電気を取り出す事が出来る。さすがに電子レンジを動かす程の容量は無いが、小型の電化製品なら全然余裕で利用できるという優れた代物だ。
故に、今の日本の街中では「おなら」の音が溢れる。
ぶー
ぷー
ぶっ
ぶぼっ
ぼん
ぶすっ
すー
ぶほっ
ばふっばふっ、ぶぶぶぶぶぶっ
これくらいの音の「おなら」では、メタンガスの容量としては大して期待できない。まあ、メタンガスの濃度の問題であるわけなので、音が直接関係する訳では無い訳だけど。
ブボンッ! ブボンッ! ボンッ!
バンッ! バンッ! バンッ! ブヴォッ!
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ブヴォッ!
ボンッ! ボンッ! ボンッ! ブヴォッ!
これほどの音を奏でられる「おなら」であれば、相当の電力が期待できる。しかし、まだまだ「おなら」の変換効率は低い。もっと変換効率の良い、機能性パンツの登場を期待している所である。因みにメタンガスは「CH4」という分子式ではあるが「チャンネル4」とは言わないからね。
しかし、中には哀しい結果を得る者もいた。そう、「おなら」ではなく「本体」が直接出力されてしまう人もいる。
哀しい人は傍から見ていてすぐに分かる。顔色が一瞬にして変わり、人生の終了を思わせる程に、世界の終りを告げられたかの如く、見開いた眼には哀しみが宿る。無表情のままに、無言でその哀しみを訴える。音も無く訪れたその出来事に、世界の終りを想像する。
だが「空気を読む」という特殊能力を保有する我々日本人は、見て見ぬ振りをするという優しさは忘れない。その優しさは年月を経ても変わらない。
空気を読――――おっと、ちょっと待ってくれ。メタンガスが出力されそうだ。よし、景気良く爆音を奏でるぞ!
………………あっ。
胃腸が弱いと特にね……
2019年08月03日 2版 諸々改稿
2019年04月07日 初版