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エルカノートからの援軍と、ランドビークへ帰る護送団は、二列になって国境の街へ向かった。
テルラ達はそれに混ざり、エルカノートの馬車に乗って移動する。
予期せぬ混合軍になったが、良く訓練された精鋭達だけあって、馬車の台数が多くても移動速度は速かった。
それでも何日も掛かる路だが、テルラ達は上げ膳据え膳のより苦の無い旅になっていた。
国境を表す目的地の山脈がどんどん近付いて来ている中、本日の野営も軍の炊き出し係が作る美味しい夕食が振舞われた。
「夜分お邪魔します。少々お話宜しいでしょうか」
テルラ達の陣に隊長のジェイルク・ジールドが訪れた。
兵士や騎士達は野に張ったテントで寝るが、テルラ達は馬車の中で寝るので自前のテントは広げていない。
「はい、なんでしょうか」
テルラが応えると、ジェイルクはその隣に座った。
「今の君達はハンターと言う立場なのでテルラ君がリーダーだ、と聞いてはいますが、これから行く国境の街では、それを曲げてレインボー姫に王女として先頭に立って頂きたいのです」
「おや、なぜでしょうか」
「国境の街は普通の街とは違い、隣国と戦えるだけの戦力が常駐しています。しかし実際には徴兵で集められた若者がほとんどで、アルバイト気分の者が多いのが実情です。現在の魔物状況も有り、見習い騎士の修行場にもなっています」
大きく頷くレイ。
「わたくしもその状況は存じていますわ」
「若者達を奮起させる為にも、体面だけでも王女の視察として頂き、街の士気を高めて頂きたいのです。ただしこれは私の独断なので、断って頂いても構いません」
「どうでしょうか、テルラ」
レイに判断を仰がれたレルラは、良く考えてから反応する。
「折角行くのなら、お国のために出来る事をしても良いでしょうね。この判断のみ、王女であるレイに任せましょう。ハンターの仕事とは全く無関係の案件ですので」
「わたくしの独断で公務をしても良いのかと悩むところですが、大々的に喧伝したり税金を使ったりしなければ大丈夫でしょう。ジェイルク様。その様にしてください」
「はい。王女様が見えてもお声掛けをせずにスルーされたら、その不自然さに若者達の士気が下がるかも知れませんから、とても助かります」
「――ジェイルク様。僕達は王女とは無関係を装った方が良いでしょうか?」
テルラが訊くと、茶髪の騎士は頭を横に振った。
「そこまでする必要は無いでしょう。仲間の皆様は通常通りでも構いません。ただ、今はハンターだと街の皆に説明して回るのも現実的ではありませんから、やはり王女には先頭に立って頂きたい」
「街の中だけなら問題は無いでしょう。ただし、魔物が居る現場に行く事になったら、僕達はハンターとしての陣形を組みます」
そう言いながらレイを見るテルラ。
それを受けて頷くレイ。
「街中だけは王女として振る舞いましょう」
「ありがとうございます」
行軍は順調に進み、予定通りの日数で国境の街に着いた。
普通の城壁は街を囲む様に造られる物だが、ここは山側の一面だけにしか壁が無かった。
その分国境に沿って横に長く、先が見えないくらいだった。
ランドビーク側の隊長であるオカロ・ダインがレイに頭を下げる。
「通行の許可が得られるまで、我々は一旦ここで待機します。では、レインボー姫。尋問のご協力、ありがとうございました」
ランドビークへ帰る護送団を残し、国境の街に入る。
国境の街は有事の際に真っ先に戦地になるので、住宅や店舗の並びは陣地みたいに規則的に並んでいる。
通行人も徴兵で集められた若い男性ばかりで、女子供の姿は全く無かった。
「ようこそ国境へ、レインボー姫」
先遣隊が王女の到着を知らせていたので、街を取り仕切る騎士団が馬車を降りるレイを出迎えてくれた。
徴兵軍も、二列に並んで小銃を敬礼の形に持っている。
「皆様のおかげで国境は今日も安泰です。心よりの感謝を。ありがとう」
銀の鎧にラベンダー色のスカート姿のレイは、高貴な王女スマイルで応えた。
テルラ達は、従者の真似事をして一歩後ろで控えている。
どうしたら良いか分からないカレンとグレイは、俯き加減で立っているだけだった。
「――あちらの騎士達は? 隣国の紋章が付いた鎧を着ていますが」
レイは、離れた位置で控えている一団に顔を向ける。
市長兼徴兵隊長のおじさんが恐れながらとレイの前で跪き、その質問に応える。
「要塞から避難して来た隣国の騎士と兵士達です。国際法に則り、一時的に共闘しております」
「なるほど。現在の状況を聞かせて頂きましょうか」
「こちらへ」
王女を先頭にしたテルラ一行と援軍隊長のジェイルクは、揃って徴兵隊長宅に移動した。
普通の邸宅と違い、玄関を潜るとすぐに作戦室だった。
隊長はお茶が出されるのを待たずに王女に状況を説明する。
「隣国の国境要塞から溢れ出ている魔物は、身長二メートル半程度の、赤い肌をした人間型の魔物です。やたらと皮膚が固く、我等の剣はほとんど通用しません。しかしあるハンターの持つ切れ味の良い剣なら倒せるので、その者に頼っている状況です」
「良くない状況、と言う事ですわね。その赤い肌の魔物は、南側へも漏れ出していますか?」
「地形の関係で西の方は確認不可能ですが、こちらに攻めて来る頻度より高い割合で南や北の方にも漏れている様ですね」
「北にも、ですの? それはランドビーク国内にも魔物が溢れて行っている、と言う事ですの?」
「はい。魔物は時間が経つと勝手に増えるので、どの方向でも行かないと要塞の中がギュウギュウ詰めになりますからな。それから、人間の身長ほども有る謎の泡も漏れています。シャボン玉の様なその泡は、風向きのせいか、こちら側には飛んで来ません。そのため、泡の詳細は不明です」
「泡……。自然現象――ではないのでしょうね」
「それらの観察をしていて、衝撃的な事実が判明しました。この事実は教会通信によって王城に報告済みです」
「それは?」
「赤い肌の魔物は要塞の周辺にいくつかの村を作っていて、そこを観察しての限定的な情報です。なんと、赤い肌の魔物はオスしか居ないのに、その状態で個体数を増やしているんです」
「オスしか居ないのに増えている……?」
「どのような仕組みかは分かりませんが、出産や育成をせずに増えるんです。幼体が居ない。観察班からこの情報を受け取った私は、こんな増え方をしているから、魔物は急速に全世界に広まる事が出来たのでは、と予想しました」
それを聞いたテルラが頷く。
「魔物が一気に広まった説明になりますね。更に、不死の魔物を倒すと数が増えなくなるのは、その仕組みが関係していると考える事も出来ますね」
「早急に赤い肌を持つ不死の魔物を倒さなければなりませんね。――その村は女であるわたくしの足でも確認出来る位置に有りますか?」
「はい。多少歩きますが、隣国兵の監視がございませんので、見に行くだけなら苦は有りません」
徴兵隊長に頷いたレイは、テルラに顔を向けた。
それを受けた金髪の少年も頷いた。
「早速要塞が見えるところまで行ってみましょう」
「到着したばかりで? 休息なされた方が」
徴兵隊長がそう提案したが、テルラは首を横に振った。
「現場がどうなっているかを実際に見なければ策が練れません。大丈夫です。僕達だけで行けば、魔物に見付かっても対処出来ますし」
「ううむ。確かにのんびり出来る状況では有りませんが……」
少し悩んだだけですぐに気持ちを切り替える徴兵隊長。
日々状況が変わる国境を任されている隊長だけあって、判断が速い。
「せめて、姫の安全のために赤い肌の魔物を倒せるハンターと協力してください。今連絡させますから、返事が来るまでお待ちを」
「そうして頂けるなら僕達も助かります。喜んで待ちましょう」




