↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第十話
PR
88/277

8

大量のよみがえりが大聖堂を襲った事件から数日の時が経った。

隣国から派遣された王子捜索隊の先遣隊が大聖堂に到着日時の報告をしたので、聖女から依頼された王子探索クエストはクリアとなった。

黒髪ボブの女にそう言われたテルラは、居住まいを正して報酬を受け取った。


「聖女様がご無事でなによりです。確認ですが、本隊が到着するのは明日で宜しいんですよね?」


「間違いありません」


「では、僕達は明日帰ります。聖女様によろしくお伝えください」


「畏まりました。私も、宿での待機はこれで終了です。皆様のハンター稼業のご多幸をお祈り申し上げます」


黒髪ボブの女を見送った後、一行は帰り支度を始めた。


「クエスト報酬の分配は買い出しの後にしましょう。荒野越えは物入りですから、共用財布を沢山使いますからね」


「ま、王子探しはついでの仕事だったからな。構わんよ」


グレイと仲間達が頷いたので、リュックいっぱいに食料とお土産を買った。

夕飯は、この街最後の夜を理由に、特産品や名物などをたらふく食べた。

食い貯めのつもりで胃袋の限界に挑戦したので、数日の旅の力となるだろう。


そして、翌日。

朝一番に宿を引き払ったテルラ一行は、大聖堂で水をタダで貰った。

テルラは普通に買おうとしたのだが、グレイが貰えるなら貰おうと提案し、仲間も無料で貰った方が良いと言い出したから。

クエストが終わっているのに気前良く貰えたので、いつもより余分に水を汲んだ。

テルラとカレンが背負う大きなリュックに人数分以上の水筒が詰められる。


「普段よりも持つ水が多いから、結構重いですね」


「来る時に水に苦労したから、もっと貰いたんけどねー。でも、これ以上は動けなくなるから、これくらいで諦めるしかないね」


大聖堂を後にした一行は湖の周りを半周し、それから西門に向けて大通りを進んだ。

門が見えて来たところで、後方から馬車が走って来た。

そして、テルラ達の横でブレーキを掛けた。


「ああ、間に合いました」


従者の手を取って馬車から降りたのは、聖女の姉のウィパ・ミックだった。

一足遅れて護衛の僧兵団が走って来て聖女の後ろで整列した。


「どうされました? 何か問題でも?」


テルラが駆け寄ると、ウィパは深く頭を下げた。

それ見て、グレイを除く全員が恐縮した。


「この街と妹の身を護ってくださったお礼を申し上げたくて、急いで参りましたの。本当にありがとうございました」


「いいえ。これが僕達の仕事ですから。残念ながら目標の不死の魔物ではありませんでしたが、この街の役に立てたので、僕達も来た甲斐が有りました」


「予定外の収入も有ったしな」


テルラとグレイの言葉を受けて笑んだウィパは、身を屈めてテルラの耳元に口を寄せた。


「妹との不仲の演技をする必要が無くなったので、今後はちゃんと仲良くやって行きます。聖都の大聖堂との連携は今まで通り時間が掛かるでしょうが、何か有ったらミック一族一丸となって何とかしますので、どうぞご心配なさらず」


「はい」


笑顔で頷くテルラから顔を離したウィパは、レイのきつい視線に気付いた。


「……何か?」


「いえ。出来れば全ての聖堂と教会が一丸となって欲しいのですけれど、と思っただけです。魔物の害が社会問題になっている今こそ」


レイのごまかしに苦笑を向けるウィパ。


「本当に。民族間の文化の違いから来る紛争の歴史が無ければ難しい事ではないんでしょうけどね。国土が広くて難しいのが歯痒いです」


「まぁ、それは王がなさる事です。今のわたくしはハンター。目に映る人々を魔物から守るだけですわ」


頷いたウィパが一歩離れる。


「では、私は隣国から派遣された王子捜索隊の出迎えに北門に行きます。名残惜しいですけど、これで失礼します。どうかご無事で」


ウィパは馬車に戻り、来た道を戻って行った。

今度は護衛の僧兵団が歩いて付いて行けるくらいのスピードだった。


「……さて。行きましょうか」


馬車を見送ったテルラ達は、門脇に有る小さな通路に入った。

入る時は門番に止められたが、出る時は顔を横目で見られただけだった。

王女が居るのに、見送りも無かった。

それはそれで楽で良いので何も言わずに街の外に向かう。


「さーて。お家に向かって歩け歩け、だ」


薄暗い通路の丁度真ん中付近でカレンが重いリュックを担ぎ直すと、背後がにわかに騒がしくなった。


「ん?」


しんがりを務めるグレイとプリシゥアが振り向くと、魔法の炎が街側入り口付近を塞いでいた。

その中心が割れ、三人の人が通路に飛び込んで来た。

剣を正眼に構えた大男が先頭で、グレイが脚を撃った女魔法使いが背中にしがみ付いている。

そして、その後ろに金髪の若い男が居た。


「ハイタッチ王子!」


先頭を歩いていたレイが剣を抜こうとしたが、通路の狭さに気付いて動きを止めた。


「ここでは突き合戦になり、リーチの差でわたくしが不利ですわ! 一旦下がって表に出ましょう!」


「でも、ここで止めないと逃げられるっスよ」


プリシゥアが拳を構え、グレイも長銃ではなくて拳銃を構えた。


「これはマズい。決死特攻だ。荷物持ちはとっとと逃げろ。レイも一緒に逃げて、剣が使える様にしろ」


言いながら大男の脚を撃つグレイ。

撃った二発ともかすって血が吹き出したが、突進の勢いは止まらなかった。


「チッ! でかいくせに避けるのが上手い! 死ぬかもだが、胴体を狙って良いか!?」


「みなさん、お逃げください! 入り口を塞ぎます!」


街の外側に居る兵士が叫んだ。

通路内で銃声を立てたせいで耳鳴りがして聞こえ難かったが、このままでは大男の突進が止まらないので、彼の刃から逃れるには下がるしかない。


「グレイ! 無理しないで下がるっス!」


「分かったよ」


女魔法使いが魔法を使わない様に、大男の肩から覗く女の頭を撃つグレイ。

下がりながらだと狙いを定め難いので、こちらには一発も当たらない。


「せーの!」


テルラ達全員が通路の外に出ると、門番達が引き戸を閉めた。

本来なら夜に閉め、通路を封鎖する物だ。

だから重く頑丈に出来ている。


「フンッ!」


大男が引き戸に身体を挟めたので、完全に閉じる事は無かった。

その隙間から外に出る王子と女魔法使い。


「よくもやってくれましたね、レインボー姫。お陰で計画が台無しだ」


「わたくしはわたくしの仕事をしただけですわ。それよりも、ハイタッチ王子。その子は何ですの?」


金髪のハイタッチ王子の手には、剣ではなく、幼い男の子が抱かれていた。

まるで人形の様になされるがままになっているが、この状況でフェイクを仕込むとは考え難いので、きっと誘拐されて眠らされている本物の子供だろう。


「我々が逃げる為の人質ですよ。陳腐なセリフですが、言わざるをえない様です。この子の命が惜しければ――」


「第三の目ッ!」


子供の喉元に刃物を当てた王子が脅迫している最中におでこから光線を発射するカレン。


「でかしましたわ、カレン!」


剣を抜いたレイが王子に斬り掛かる。

間一髪でそれを避ける王子。

そのままジリジリと後退る。


「何!? 子供の命が惜しくないのか? 王女として、それで良いのか?」


「人質を取っている御方に言われたくはありませんわ。それに、もうその子に危害を加える事は出来ませんわ。それがカレンの能力ですから」


「なん……だと?」


確かに、子供の喉に当てている刃物を持つ手に力が入らない。

無理に切ろうとしても取り落としてしまうだろう。


「ハイタッチ王子。貴方には訊きたい事が有ります。この街で何を行っていたのか、他にも色々と。大人しく捕まってください」


「く……」


勝ちを確信しているテルラの言葉に歯軋りする王子。


「王子! 俺はここまでだ! 通路の向こうからこの街の奴等が来ている! 一人で逃げてくれ!」


門番が支える戸に挟まれて動けない大男は、そう叫んで抵抗を諦めた。


「私もここまでね」


這う様にして王子に付いて来ていた女魔法使いは、グレイに向かって眩しい光線を放った。


「うわっ! 目が!?」


太陽を直接見た時みたいに何も見えなくなるグレイ。


「銃使いの目を封じました! しかしただの光なので、数分もすれば見える様になるでしょう! 王子の足なら逃げられるはずです! 私は脚の怪我で走れませんから、どうか見捨ててください!」


「お前達……。すまない!」


王子は子供をテルラ達の方に投げ捨て、そのまま走り去って行った。


「おっと、危ないっス」


子供が地面に落ちる前に、プリシゥアが抱き留めた。

少々乱暴に握り寄せたのでムチウチになったかも知れないが、取り敢えずは無事だった。


「ナイスキャッチ、プリシゥア! でも、王子が……」


カレンが残念そうに言う。

子供に目を取られている内に、王子は全力で走り去って行った。

数人の門番が追い掛けて行ったが、追い付けそうにないと思える逃げ足の早さだった。


「ふぅ……。本当に、あの方は何がしたいんでしょうね」


剣を収めたレイは、門番に取り押さえられている女魔法使いを見ながら呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。