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聖女が帰った直後、一行は一旦自室に戻って作戦会議を開いた。
「みなさん承知してはいるでしょうが、重大な仕事なので声に出してクエスト内容を確認します」
上座に座っているテルラが咳払いをひとつする。
「僕達はハイタッチ王子を見付けなければなりません。護衛は以前にお会いした時の二人から変わっていない様です。剣士の男性と魔法使いの女性です」
レイが頷く。
「剣士の男性は、かなり目立つ体格をしていましたわ。そちらも見付かっていないとなると、王子は護衛とは別行動をしている可能性が有りますわね」
「と言うと?」
「役割分担ですわ。例えば、護衛の女性は何もしなければ普通の女性ですから、食料の買い出し担当。目立つ護衛男性は隠れ家に籠って炊事洗濯。王子本人は変装して目的のために動く、とか」
「なるほど。隣国の王子の顔を知っている人は少ないでしょうから、むしろ一人の方が動き易い、と言う事ですね」
「ええ。王子が炊事洗濯を担当するとは思えないので、妥当な線かと」
「王子の戦闘力はどのくらいだと思いますか? レイ」
「単純に考えれば、わたくしと対等に戦える程度の力量は有るでしょう。王族は剣術も必修ですから。ただ、彼は第三王子。彼のお兄様達に頼り切りで勉強をサボっていたのなら、その限りではないでしょう」
レイの言葉に異論を挟むプリシゥア。
「でも、単独行動しているなら、自分の力に自信が有るって考えられるっス」
頷くテルラ。
「どちらにせよ油断は出来ない、と言う事ですね。人探しをするなら手分けをした方が良いと思ったのですが、それは危険でしょうね」
「って言っても、全員固まって動いたら、逆にこっちが目立つよね。街中なら、私は手分けをした方が良いと思う」
カレンの言葉を受けて考えるテルラ。
「そうですね。向こうもこちらの顔を知っていますから、僕達に気付かれたら逃げられるかも知れませんね」
そこにグレイが提案する。
「なら、前もやった様に、テルラとプリシゥア、レイとカレンの二手に分かれてくれ。俺は一人別行動する。完全に気配を消して大聖堂から出る水の出口を見張ってみる。位置的に可能ならトイレ付近も」
「魔法結晶……ですか。聖女暗殺が出来ないのならそちらを狙う可能性が有ると言うのは、僕達の勝手な予想です。王子の目的が全く分からないですし、空振りになる可能性も有りますよ」
「有力な手掛かりなのは間違いない。それを無視するのは効率が悪い。遠距離狙撃の要領で、遠くから見てみる。それが出来なかったり無意味だったりしたら、まぁ、どっちかに合流するよ」
「分かりました。なら、大聖堂周辺はグレイに任せ、僕達はこの街の市民に変装して王子探しをしましょう。王子を見付けても、決して戦ってはいけません。彼は要人です。僕達が下手を打つと賠償問題に、最悪、隣国との戦争の火種になります」
「見付けたら後を付けて隠れ家を探り、後は大聖堂の僧兵か国から来る隊に任せるなりすれば、それでクエストクリアですわね」
そう言うレイに頷いて見せるテルラ。
「彼は魔法陣を使って何かをしようとしていました。今回もそうならば、魔法陣はそれなりに開けた場所でなければ描けないので、人目に付かない空き地かそれらしい場所を拠点にしている可能性が高いでしょう」
グレイが別の可能性を示すために口を挟む。
「もしくは、脱出の機会を狙っているか、だな。当然だが、大聖堂の奴等は聖女の安全を優先している。また暗殺するんじゃないか、とガッチガチに警戒している。そいつ等に見付かっていないのなら、もう聖女を諦めているかも知れない」
「その場合も人目に付かない場所を拠点にしているでしょうね。そうすると、街中での聞き込みは無駄でしょうか」
「人目が無い場所で僧兵か勇者がうろついていたら、どんなボンクラでも自分を探してるって気付くわな。そう言う地域に俺達が行っても相手を警戒させるだけだ。……いや、待てよ?」
黒コートの下で足組み直すグレイ。
「警戒されても良いな。俺達は奴と戦えないなら、むしろ警戒された方が良いまである」
「なぜですか?」
「俺達に気付き、焦って動けば門番か僧兵に見付かるだろう。警戒して引き籠るなら、国に派遣された奴等がゆっくりと探せば良い。つまり、俺達は王子を焦らせるか、動きを封じるかをすれば良いんだ。数日で出来る事なんてそんなもんだろう」
なるほどと言って頷くテルラ。
レイやカレンも納得して感心している。
「ルエピが無事なら成功報酬を貰えるっスから、ハンターとして動くのならグレイの案を採用するのが確実っスね」
「プリシゥアの言う通りです。では、今日は手分けして街中を探しましょう。何の手掛かりも得られなかったら、明日は全員一塊で郊外に」
「はーい」