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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第一話
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7

普通の少年が着る様な服装になっているテルラティアは、聖都の中心街に有るオープンカフェでお茶を楽しんでいた。

王との謁見から帰って来てからの数日はこうして自由に街を歩いている。

今までならこんな事は許されなかったのだが、しきたりに従って大聖堂に引きこもったままでは、特殊な潜在能力を持った者を見付けられず、300年後の未来は無い。

それでは女神の期待を裏切ってしまう。

そんな訳で、今日も指で作った輪を覗いて通行人を観察する。

隣では普通の娘と同じ格好をしているプリシゥアが座っているが、護衛をほっぽり出して昼寝をしている。


「だーれだ?」


背後から手を回されて視界を塞がれたテルラティアは、息が止まるほど驚いた。

だが、背後からの声は聞き覚えの有る女の声だったので安堵の溜息を吐く。


「……レインボー姫」


「当たり! さすがテルラ様。わたくしの声を一発で当てられましたね!」


満面の笑みでテルラティアの正面に回ったレインボーは、銀色に輝く鎧を身に着けていた。

下はラベンダー色のロングスカートで、鎖帷子が仕込んであると思われる不自然な膨らみを有している。

少し派手だが、それはハンターの恰好だった。


「レインボー姫。もしや、ハンターになる許可が下りたんですか?」


「はい。これでテルラ様をお助けする事が出来ますわ」


ハンターの恰好をしている銀髪姫は、重そうなロングスカートを優雅に捌いてテルラティアの隣に座った。

兜を着けていないのは街中だからかと思ったが、そもそも持っていないので初めから被る気は無い様だ。


「まだ仲間が集まっていませんので、その恰好は少々気が早いですよ」


「そうですけど、王都から聖都へと移動する際はどのみち旅支度をしなければなりません。鎧を折角作ったのですから、試しに着て来たまでです」


「ああ、そうなんですか。――レインボー姫も何か飲まれますか?」


「そうしましょう。ええと、この様な場では、どうやれば良いのでしょうか」


「では、僕が注文を取りますね。このお店おすすめのお茶とお菓子で良いですね?」


「テルラ様にお任せしますわ」


テルラティアが片手を上げると、ウエイトレスが注文を取りに来た。

同席しているハンターの恰好をした女性がこの国の王女だとは気付いていないので、通常の調子で仕事をこなしている。


「そうやって注文するのですね。勉強になりましたわ。――それはそれとして、わたくしのハンター稼業は身分を隠して行う事が条件になりました。万が一バレても罰則は有りませんが、その様な理由からハンターの活動に限っては王家の援助は期待出来ませんの。力及ばず、ごめんなさい」


(多分、ハンターを諦めさせようと不利な条件を出したんだろうな)


王の心労を察したテルラティアは、苦笑して肩を竦めた。


「それは仕方が有りませんね」


「テルラ様も名の通ったお方ですので、偽名をお使いになられますか?」


「僕は身分も正体も隠しません。活動する上では、僕が教会の関係者だとバレた方が良いんです」


「あら、なぜですの?」


「人々は魔物に怯えています。ですから、誰かに助けて欲しいと願っています。そこで、僕、つまり教会が動いていると知られたら、多少は安心して貰えるかも、と」


「なるほど。二人分の偽名を考えて来ましたが、無駄になりましたわね」


「無駄ではありませんよ。場合によっては僕も身分を隠しますから」


「どうしてですの?」


「大体の村には勇者が居て村を守っていますし、本職のハンターも居る。そこで考え無しに教会から来ましたと大々的に宣伝すると、彼等の仕事を奪ってしまいます。それでは彼等に教会は邪魔だと思われてしまう。それは不味い。なので、積極的には正体を明かしません。王家の援助が得られないのと同じく、教会もそんなに援助が出来ませんしね」


「素晴らしいお考えですわ。惚れ直しますわ」


「これは僕の発案ではありません。教会の偉い人達の考えです」


「でも、それを完璧に理解し、実行するのはテルラ様ですわ」


そこで注文した品が届いたので、しばしお茶を楽しむ。

プリシゥアはまだ眠っている。


「偽名をどうするかはハンターになってから考えましょう。同年代の市井の者にはわたくしと同じ名の者が多いと聞きますので、本名のままでも大した問題ではないでしょうし」


「そうですね」


「ところで、テルラ様。先ほど、道行く人の潜在能力を見ていらしてましたよね。何か良い能力はございましたか?」


「いや、全然ですよ。――ここでこうして見ると、注釈付きは結構居るんですよ。ただ、『虫の知らせ。遠くの出来事を知る事が出来る。ただし身内の不幸しか知る事が出来ない』みたいな、魔物退治には関係無い物ばかりで」


「そうなんですか。ちなみに、そちらの方の潜在能力は何でしたかしら」


テーブルに突っ伏して眠っているプリシゥアに視線を送るレインボー姫。


「『猫の盾』。『警護対象を完璧に守る事が出来る。ただし、対象が手の届く範囲に居ないと効果は発揮されない』。ですね」


「注釈には『ただし』が必ず付くんですね」


「それと、もうひとつ。――レインボー姫は、家庭教師の先生に勉強を教えて貰っていますよね?」


「はい」


「失礼な事を聞いてすみません。その先生は姫をどう評価されていますでしょうか」


「それは勿論、成績優秀。家事も武芸も優秀で、今すぐにでもテルラ様に嫁入り出来ると太鼓判を押されていますわ」


「嘘を吐かないでください」


身体の大きな男性が話に割って入って来た。

テルラティアはのけ反って驚いたが、レインボーは姿勢を崩さないままツンと横を向いた。


「うわ、ビックリした。貴方は誰ですか?」


「失礼しました。私は王城親衛隊の者です。気配を消し、姫をお守りしていました」


「鎧じゃなくて普通の恰好をしていたので全然気付きませんでした。さすがプロは違いますね」


寝ているプリシゥアをチラリと見て言うテルラティア。

寝返りを打ったら椅子から落ちるんじゃないだろうか。


「恐れ入ります。ちなみに先ほどの家庭教師の先生の評価ですが、姫は飲み込みが早くて優秀ではありますが、座学よりも剣術や馬術の方ばかり好まれて効率が宜しくないと嘆いておりました」


「剣術や馬術を頑張ったお陰でテルラ様のお役に立てるのですから、結果オーライですわ」


レインボーはプリプリと怒って親衛隊の男を睨んだが、テルラティアは一人納得して頷いている。


「やはりそうでしたか。このプリシゥアも一人前の僧兵になれるだけの実力は有るのですが、ご覧の通りでして。先ほどの『虫の知らせ』の人もそうでした。これはもしかしてと思い、大司教と王家に人集めをお願いしました。条件をひとつ付けて」


「と、仰いますと?」


「『優秀ではあるものの、残念な部分が長所を台無しにしている人』。そんな人に注釈付きの潜在能力が備わるのではないかと」


「あら。わたくしはそんな残念な人ではありませんわよ?」


「残念でなかったら、王女がハンターになろうとはしませんよ」


レインボーが着けている鎧を指差すテルラティア。


「あら。これは一本取られましたわ。ご褒美にキスをしてあげますわ。チュー」


「やめてくださいよ。そう言うところですよ?」


テルラティアは、迫り来る唇から逃げる様に立ち上がった。

椅子が倒れて結構派手な音がしたのに、テーブルも少し揺れたのに、プリシゥアはそれでも起きなかった。

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