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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第九話
79/277

8

目標の魔物が出るのは太陽が沈んでから。

聖女の方も祭事や公務でない限りは外を歩く事が出来ない決まりなので、時間になったら緊急避難用の隠し通路からコッソリと街に出る手筈になっている。

その時に全員一緒で出たいので、テルラ達は大聖堂の中で待てと言われた。


「息を潜めていないといけないから退屈だが、昼飯がタダだし、瑞々しい果物もおかわりし放題だから、全然我慢出来るな」


コートを脱いで長銃を置いているグレイは、ブドウを食いながらソファーに寝っ転がっていた。

行儀が悪いが人目が無いし、カレンも似た様な恰好でオレンジの皮を剥いているので、誰もたしめなかった。


「テルラ。聖女様の潜在能力をご覧になっていましたわよね? 指を輪っかにして」


レイは、鎧を脱いでいるからか、王女らしく上品に座っている。


「はい。仲間を増やすつもりは無かったので最近は見ていませんでしたが、勇者ではない人と一緒に戦うとなると、やはり情報が無いと不安ですからね。この街の要人ですし」


テルラとプリシゥアはテーブルに広げた地図を見ていた。

この街は地下水路が蜘蛛の巣の様に広がっていて、湖に近い上流が高級住宅街、壁に近い下流が一般住宅街となっている。

そして、高低差や区画状況の都合で水路が通っていない場所が貧民街らしい。


「で、どうでしたの? 注釈はありましたの?」


「いいえ。『聖女の聖水・清浄な水を生み出す事が出来る』と言う物で、魔物退治に役立つ能力ではありませんでした」


「この街に必要な能力でしかない、と言う事ですわね」


「だが、仲間にしたら便利ではあるな。水筒いらずで、旅路で毎食スープが食える」


グレイが茶々を入れると、カレンがヘラヘラと笑った。


「だめよう。人数が増えると報酬が減るじゃない。そう言うの、グレイが一番嫌がるじゃない」


「そう言やそうだった。聖女は仲間に要らんな。ハッハッハ」


ノンキな二人を無視して地図をのぞき込むレイ。


「で、地図の方には何か手掛かりは有りましたの?」


「こちらも収穫は無いですね。被害者が出たところに印を付けて貰いましたが、誘拐された子は、高級住宅街、一般住宅街、貧民街、関係無く消えています。法則性は見て取れません」


「魔物の行動予想はお手上げっスね」


テーブルから離れ、身を投げ出す様に椅子に座るプリシゥア。


「ですので、やはり僕が囮になる作戦を取るしかなさそうです」


「テルラに危険な事をさせたくはありませんが、仕方が有りませんわね。わたくしとプリシゥアの潜在能力が有りますから、きっと上手く行きますわ」


「はい。信頼していますよ、レイ。プリシゥアも」


時間が経ち、豪華な夕食が振舞われた。

それを全て平らげると、侍女が食器を片付ける前にランタンを持った黒髪ボブの女が部屋に入って来た。


「お食事は済みましたでしょうか。ルエピ様がお待ちです。移動をお願いします」


「分かりました」


だらけていた者も、装備を外していた者も、素早くハンターとしての身支度を整えた。


「外部の方は進入禁止の区域を通りますので、お静かにお願いします」


ランタンに耐火素材の布を被せ、足元のみを照らす様にして黄昏の廊下を進む黒髪ボブの女。

他の廊下には松明やロウソクが備え付けてあるが、この廊下は小さな空気取りの窓から差し込む夕日の明かりしかない。

秘密の出入り口が有る場所にしては露骨に人気が無いが、そもそも宗教施設には立ち入り禁止区域が山ほど有るので、余所者が思うほど怪しくないんだろう。

そしてある部屋に入ると、二個目のランタンを持ったルエピと一人の侍女が待っていた。

黄金の燭台や一メートル大の鏡が淡い光を反射しているので、祭具置き場の様だ。


「来たね。これから魔物退治に出るんだけど、その前に作戦の大雑把な流れを確認をするわ。テルラを囮にして魔物を呼び出す、で良いのよね?」


ルエピに指差されたテルラが頷く。


「はい、そのつもりです。他の子を囮にして何か有ったら責任を取れませんしね」


「分かったわ。でも、良く聖都の大聖堂は跡取りをハンターにしたわね。反対はされなかったの?」


「裏では有ったかも知れませんが、事はスムーズに進みましたね。女神に直接能力を貰ったのが僕でしたから、反対はし難かったんでしょうね」


「女神顕現の話は私も聞いているわ。まぁ、反対派はそこを怪しんでいるんだけど。――じゃ、行きましょうか。魔物を迎え撃つ準備は出来ているはずよ」


持っていたランタンの布を取った黒髪ボブの女が隠し通路の扉を開け、そこに入る。

続いて聖女が入り、そしていつもの隊列順にハンターパーティが入り、最後に侍女が入って扉を閉めた。

地下通路なので真っ暗闇で、ひんやりとしている。

200メートルほど歩くと登り階段が有り、鍵が厳重に掛けられた重い鉄の扉が出口を塞いでいた。


「狭いですので、頭をぶつけない様にお気を付けください」


黒髪ボブの女が持つランタンの明かりを頼りに外に出ると、そこは湖のほとりに有る小屋の中だった。


「ここは漁場を見張る監視小屋です。許可を得ずに密漁する漁師がいないかと見張るんですね。夜は漁が出来ませんので、人目を気にせずに大聖堂の外に出られます」


そう説明した黒髪ボブの女は、金網に備え付けられたドアに近付いた。

南京錠を開け、全員に出る様に促す。


「夜間外出禁止令が出ていますので、朝まで勇者と警備兵とハンターしか外出しません。我々の事は先方に伝えてありますが、余計な波風を立てない様に、お静かにお願いします」


金網のドアは、内側に残った侍女が施錠した。

それを確認した黒髪ボブの女は、聖女と手を繋いで歩き出す。


「ここから向かう先は、近所にある公園です。そこでキャンプの真似事をしながら魔物の出現を待ちます。出現しなかったら、バーベキューをして時間を潰しましょう。これも近隣住民の許可は得ています」


「魔物退治と言えば、この街の人間なら断れないわよね」


聖女がそう言っているのを聞きもせず、グレイは一人ほくそ笑んでいた。


「……肉……」


先程腹いっぱい夕食をご馳走になったにも関わらず、育ち盛りのグレイの腹はすでに臨戦態勢となっていた。

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