表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第九話
73/277

2

何日も掛けて荒野を歩いた一行は、ようやく人工建造物の前に着いた。

それは王都を護る城壁と同レベルの強固な壁だった。

街を囲んでいるなら緩いカーブを描いているはずなのだが、右を見ても左を見ても真っ直ぐな壁にしか見えない。

規模が大き過ぎるので、目視では角度を感じられないのだ。


「凄いっスね。全部レンガっスよ、これ」


プリシゥアが壁をノックする。

普通の住宅に使われるレンガの三倍くらいの大きさだが、それでも街を囲うのはとんでもない労力だっただろう。


「他の街と同じく四方に出入り口の門が有るはずですが、この規模だとどれだけ歩くか分かりません。急ぎましょう」


左右を見ながら言うテルラに頷くレイ。


「どちらに向かいますか?」


「目印が無い状況ならどちら側に向かっても大差無いですので、コイントスで決めましょう」


テルラの指で弾かれたコインが示したのは裏。

なので、利き手ではない左手側に歩いた。


「街の近くで水気が有るからか、雑草や動物の死体が有るね」


骨が見えている野犬の腐乱死体を避けながら言うカレン。

しんがりを務めるプリシゥアもそれを避ける。


「普通の街ならこう言う死体は病気や虫の元になるからさっさと片付ける物なんスけど、ここは腐るまで放置してるっスね」


「街の外に出る必要が無いから、死体が有る事に気付いていないんですわ。荒野に出ても何もないですし。乾いた気候ですから、病気の元にはならないのではないでしょうか」


先頭を歩くレイが壁の先を見ながら言う。

危険な存在の姿は全く無いので振り向いて仲間の顔を見ても良いのだが、荒野を何日も歩いて疲れているので、余計な動きで体力を消耗したくない。


「あ、門ですわ。やっと門が見えて来ましたわ」


一行はレイが指差す方向を見た。

かなり大きな門がそこに有った。


「この様子だと、聖都と同じく、門の横に旅人用の小さな門が有るはずです。そこに行きましょう」


テルラの指示に従い、門脇に有る小さな通路の前に立つ一行。

頑丈そうな引き戸は全開になっているが、木枠で足止めされていて、それを三人の警備員が護っていた。

通路はそこそこ長いので、壁の分厚さも王都に引けを取っていない。


「止まれ! 何用だ!」


門番が必要以上に大きな声を出した。

それに反応し、通路の向こう側で数人の人影が動いた。

何か有ったら駆け付けて来るだろう。


「お疲れ様です。ハンターです。リトンの街に入りたいのですが、宜しいでしょうか」


リーダーのテルラが、ハンターの証であるバッジを指で示しながら言った。


「ハンターか。全員?」


「はい」


仲間達もバッジを示す。

目を凝らせてニセモノではない事を確認した門番が足止めをどかす。


「結構です。どうぞお通りください」


「ありがとうございます」


テルラ一行は街の中に入る。

荒野特有の砂埃っぽさは変わらなかったが、花壇には色とりどりの花が、通りには街路樹が生えていた。

旅人を出迎える為なのか、意外と植物が多い。

無駄とも思える小綺麗さだった。


「あの、すみません。聖女様がいらっしゃる大聖堂に行きたいんですが、どちらに向かえば良いでしょうか」


通路の街側を護っている門番に道を聞くテルラ。


「大聖堂に? ハンターなのに観光するのか? 随分余裕が有るな」


「いえ、不死の魔物の情報を頂きたいんです。大聖堂に行けば詳細が得られると言われているので」


すると、門番は納得した風に頷いた。


「ああ、あの魔物に釣られて来たのか。わざわざ若いハンターが荒野を越えて来るなんて珍しいと思っていたんだ。アレの報酬なら十分元が取れるからな」


「多分、その魔物が目的です」


「そうかそうか。手こずっているみたいだから、どうか退治してやってくれ。だが残念だったな。大聖堂は東側に有る。ここは西門で、西側の端っこだ」


「と言う事は、街を横断しないといけないのですか」


「いや、そこまでじゃない。門前の大通りを真っ直ぐ行くとリトンの湖に出る。そこまで行けば、対岸の大聖堂が見えるはずだ。つまり、街の直径の半分と、湖を半周分くらいの距離だな」


「分かりました。行ってみます」


「大きな建物で目立つから、湖が見える場所まで行けば迷わないはずだ。見たところ女子供のパーティだから、ならず者に気を付けてくれよ。そんな組み合わせでもハンターが出来る特殊な能力を持ってるんだろうが、この街はそんなに治安は良くないからな。油断するなよ」


「肝に銘じます」


門から離れた一行は、言われた通りに油断せずに陣形を整えた。


「日が暮れる前に大聖堂に着きたいので、速足で進みましょう。疲れているでしょうが、気を抜かずに」


「何でそんなに急ぐの?」


テルラと同じく大きなリュックを背負っているカレンが訊く。

荷物持ちであるテルラとカレンが一番歩き疲れている。


「聖都の大聖堂と同じシステムなら、明日一番に到着の報告をしても、半日待たされる可能性が有ります。最悪、丸一日待たされます」


「あー。それ聞いた事が有るっス。大聖堂に用事が有る人が待たされる問題が有るって。苦情を出されてはいるっスが、大聖堂側にも手続きやらの処理が有るっスから、全く改善されてないっス」


苦笑いしているプリシゥアに頷くテルラ。


「ですので、今日中に報告をすれば、無駄な時間を過ごさなくて済みます。大聖堂と同じシステムなら日暮れまでは受付をしているはずです。急ぎましょう」


「はい」


「ところで、グレイ。先程から一言も無いですけど、大丈夫ですか?」


訊くと、黒コートに海賊帽の少女は掠れた声を出した。


「乾燥した気候に慣れていないだけだ。水飲み場までは放っておいてくれ」


「そうですか。湖の近くまで行けば綺麗な水が買えるはずです。そこまで我慢してください」


「おう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ