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満腹になった一向は、薄暗くなった大通りに出た。
後10分もすれば太陽が沈む時分なので、宿屋の鉄提灯の明かりが良く目立つ。
「ところで、グレイ。さっきの勇者達に何か気になるところでも有ったっスか?」
自然としんがりの位置になっているプリシゥアが、前を歩く海賊帽に向かって言った。
「珍しく勘が良いな。なんでもない……と言いたいが、どうするかな」
周囲を確認したグレイは、しかし何も言わなかった。
「貴女の態度がおかしかったのは、わたくしも気付いていましたわ」
レイが自慢気に言う。
勇者の話に集中していて気付かなかったテルラとカレンは無言で耳を傾けている。
「それは俺のミスだな。ポーカーフェイスの練習をしなきゃな。ま、ここではなんでもないって事にしてくれ」
「しかし――」
テルラの言葉を遮るグレイ。
「そんな事より宿を取ろう。昨日の宿は窓を窓枠ごと割ったせいで追い出されたからな。暗くなってしまっては動けなくなる」
「そうですね」
適当に入った宿に空き部屋が有ったので、いつも通り二部屋取った。
今日は二階の部屋だった。
「クエストクリアを目指すなら作戦会議をしようか。テルラの部屋にお邪魔するぞ。カレンも良いな?」
「え? うん、良いけど」
階段を登り切ったところでグレイがそう言ったので、パーティメンバーはひとつの部屋に集まった。
ランプに火を灯し、カーテンを閉める。
「まぁ、ここまで用心する必要も無いけどな。相手が勇者だから、どこから会話が漏れるか分からないから念の為だ」
グレイは適当な椅子に座って足を組む。
「で、どうしたんですか?」
近くの椅子に座るテルラ。
他の三人はみっつあるベッドのそれぞれに座る。
「まず最初に詫びよう。飯屋で言った報告は話半分だった」
「では、収穫が有ったと」
「テルラの期待に応えられるほどではないがな。昼間ずっとお前達から離れて様子を見ていたんだが、それが結構怪しかったらしい。黒ずくめだし、敵を吊るために気配を消していなかったしな」
言いながら海賊帽を脱いだグレイは、それを大切そうに膝の上に置いた。
「そうしていたら、スヴァンの方に目を付けられた。それだけなら勇者の仕事をしていたんだろうと思えるが、視線がおかしいんだ。よそ者を見る感じではなく、勇者として怪しい奴を見る感じでもない」
「嫌らしく見られて鳥肌が立つ感じな奴かな? グレイはまだ子供だから、そう言う視線を向けられる事に慣れていないんだよ」
冷やかす様に言うカレンに首を横に振るグレイ。
「だから、そう言う分かりやすくキモイのじゃない。あえて言うなら船長の勘か。暗闇クエストの訳の分からなさとは別次元の、何かを企んでいる人間特有の油断ならなさが有る。そんな奴が接触して来たんだ。そりゃ警戒を顔に出してしまうさ」
「勇者が何を企んでいるんでしょうか」
テルラは眉を顰める。
「それを解明するのがクエスト解決に役立つのなら解明すれば良い。ただ、それ以外の気配も有った気がする。そっちの方は全く正体が分からない。だから念の為に人前では無収穫を装ったんだ」
レイも深刻そうに眉間に皺を寄せる。
「もしや、スヴァンが裏で何かをしている? そればかりか、仲間が居る?」
「それも含め、明日からの行動は全員で注意すべきだろう。どんな小さな情報も見逃すべきではない。俺からは以上だ」
「分かりました。その様にしましょう。今夜はゆっくりと休み、その分、明日は緊張を持ってクエストに当たりましょう」
テルラがそう締めて旅支度を解いたので、グレイとカレンも別の部屋に移動して楽な格好になった。