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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第八話
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1

「いやーん、怖いですわぁ~!」


レイが甘えた声を出した直後、ガラスが割れる音がした。

その激しく不快な音にテルラ達はすくみ、息を飲んだ。


「グェ」


食用ガエルが腹を蹴られた様な音が聞こえた。

しかし視界が奪われているので、音の方向は分かるが、何が起こったかのかを見る事が出来ない。


「みなさん、動かないでください! これが受注不可の『突発クエスト』です!」


テルラの声に返事をするのはプリシゥアの声。


「動きたくても、この暗闇では動けないっス!」


「不用心に動いたマヌケは居るがな。ちょっと待ってろ、今火を点けてみる」


「用意しておいて良かったね」


「そうだな」


グレイとカレンの会話の後、自分の手も見えない暗闇の中で火打石の音が鳴る。


「カチカチ音がしてるけど、火花は見えないね」


「カレンにも見えないか。テルラとプリシゥアにも見えてないか?」


「見えませんね」


「見えないっス」


「手探りでやってるから、ちょっと待ってろ。火花も見えないから、雑にやってベッドを燃やしたらたまらん」


「燃えてもきっと分からないっスから、危ないっスね」


「逃げたくても逃げられないよ、こう真っ暗だと」


「とにかく落ち着いて、冷静に現象を観察しましょう」


仲間達が騒いでいる中、一人黙々と火打石を打ち続けるグレイ。

墨の海に顔を浸している様な漆黒の中で慎重になっているので、どうしても時間が掛かる。


「――ロウソクに火が点いたぞ。熱を感じるが、やはり明かりは見えないな」


「見えていないですね。みなさん。闇が去るまでその場で待機しましょう」


「了解だ。俺が持っているロウソクは、このまま点けておく」


「お願いします。――レイ、大丈夫ですか?」


返事は無い。

耳を澄ましてみても、暗闇の中でお互いの無事を確認し合っている知らない人達の声しか聞こえて来ない。

普通なら暗闇に目が慣れて来る頃合いだが、視界は全く回復しない。


「テルラ。レイは心配っスけど、ここは時間が過ぎるのを待つしかないっス。この現象の事を教えてくれた役所のおじさんも、10分くらいで闇は去って行くって言ってたっスから」


「ええ、分かっています。でも、返事が無いのが心配で」


「こんな状況で動く方が悪いんだよ。はー、よっこいしょっと」


カレンがその場で楽な姿勢になる。

出来る事は何も無いので、他の仲間達もその場で楽な姿勢になった。

テルラ達が居るのは、宿屋の一室。

この街に着いたのはお昼前だったので、まず役所に寄ってクエストの確認をした。

そこで、この街を悩ましている『突発クエスト』の存在を知った。

それは突如闇が街を覆うと言う原因不明の現象だった。

昼でも真っ暗になり、何も見えなくなる。

最初の頃は馬車による交通事故が起こったり、不安に囚われた人が狂乱状態になって暴れたりしていた。

何度も起こっている現在は街の人々も慣れて各々が対処しているが、不慮の事故はどうしても発生してしまう。

夜も起こっていて、月や星が見えなくなるが、そちらは特に問題になっていない。

夜は大半の人が眠っているし、ドロボウをしようにも視界が奪われて何も出来ないからだ。

盗難事件自体は起こっているが、そこは普段と同じ様に自衛をしっかりするしかない。

手探りで行える悪事はたかが知れているし。

暗闇発生の原因は分からないが、最近になってからの現象なので、魔物が関係していると思われている。

しかし、街全治に影響を及ぼすだけで何もしないのは魔物の仕業とは思えないとの意見も出ているので、解決した人なら誰でも報酬を貰える『突発クエスト』として様子を窺っている最中なのだと言う。


「……あ、明るくなってきた」


カレンが身じろぎした。

ベッドと旅道具入れの棚しかない質素な部屋の風景が段々と見えて来る。

仲間の旅支度姿も見えて来る。


「外やロウソクの周りはまだ暗いな。視覚を奪っているんじゃなくて、光を奪っているって感じで確定だ」


グレイの手元が真っ暗になっている。

まるで闇を発するロウソクを持っているかの様だ。


「光を奪う魔法、と言う事でしょうか」


お仕事モードの真剣な表情になっているテルラに頷いて見せるグレイ。


「だろうな。魔物だろうが人間だろうが、そう言う魔法を使う奴がクエスト目標だ。しかし、魔物が魔法を使えるのか?」


「使える魔物も居ますが、そう言うのは大抵上位の魔物です。ここは目標の街ではありませんが、もしかしたら不老不死の魔物が居るかも知れません」


そう言ったテルラは、窓の方に目を向けた。

それに釣られてプリシゥアも窓の方を見る。


「あー、豪快に割れてるっスね。これは弁償っスねぇ。ガラスの破片が危ないから、テルラは近付かないで欲しいっス」


ガラスの破片を足でどけつつ窓に近付くプリシゥア。


「あー……気絶してるっすね。ここが一階で助かったっス。血は出てないみたいっスから、ガラスで切ったりはしてないっスね」


暗闇の中でテルラに抱き着こうとしていたレイは、方向を見誤って窓から飛び出した。

そして地面に激突して目を回した。

闇の中で起こった事をそう推理したプリシゥアは、呆れて溜息を吐いた。

全身ガラスの破片まみれなのに赤い液体が垂れていないのは奇跡と言って良い。


「打ち所が悪かったら大変です。道行く誰かに心配される前に魔法をかけなければ」


治癒魔法の使い手であるテルラがハンターとして初めて活躍した場面は、仲間の自爆だった。

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