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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第七話
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3

今日も役所に赴いてクエストの確認をしたが、やっぱり良い仕事は無かった。

ハンターの仕事が無いのは魔物の害が無いと言う事なので喜ばしいのだが、これでは収入も無い。


「しょうがない。俺はソロで子守りの仕事を受けるよ。夕方までの長時間だから結構良い額が貰えるし」


グレイは掲示板の張り紙を剥がし、窓口に持って行った。

カレンは興味無さそうに帰って行った。


「僕達は教会に行きましょう」


テルラとプリシゥアとレイは、三人で教会に赴いた。

昨日と同じく礼拝後の掃除をしていたシスター・トキミが出迎えてくれた。

その足元に二匹の子犬が居る。


「まぁ可愛い。これがプリシゥアが仰っていた子ですのね」


子犬が見たいだけという理由で付いて来たレイが、屈んで子犬の頭を撫でた。

捨てられ、放置されていた期間が短かったのか、人懐っこく尻尾を振る子犬達。


「あれ? 二匹っスね。一匹貰われたんスか?」


「はい。昨日の夕方、ターニャちゃんが連れて行きました。親御さんの許可を無事得られたそうです」


「良かったっス。残りの子達の引き取り先も見付けられそうっスか?」


「今朝の礼拝の後に子犬いりませんかと聞きましたら、帰って検討すると仰ってくれた方が5人ほど居らっしゃいました。早い者勝ちと伝えておきましたから、今日明日中にはこの子達も行き先が決まるでしょう」


「それは良かったです。……ほぅ」


テルラもレイの隣で屈み、子犬の頭を撫でる。

直後、自分の掌を見詰めて動きを止めた。


「どうしたっスか? テルラ」


「プリシゥア。僕、犬に触るのはこれが初めてでした。動物ってフワフワしているんですね」


それを聞いたレイが驚く。


「まぁ。テルラは自由の無い幼少期をお過ごしでしたのね。わたくしも自由は無かったですが、子犬子猫くらいは触れましたわ」


しゃがんだままテルラににじり寄るレイ。


「よろしければ、いつでもわたくしを撫でても宜しいですのよ?」


銀色の頭を差し出す美女に苦笑を零す金髪の少年。


「ありがとうございます。でも、人と動物は違いますから、遠慮しておきます。旅をしていれば、犬くらいいつでも触れるでしょう。――それより、不死の魔物の情報は来ましたか?」


首を横に振るトキミ。


「いいえ、まだです。まだまだ深刻に考える時間ではありませんが、向こうで何か問題が起こっている可能性も考えておかなければいけないかも知れませんね」


「問題とは?」


「例えば、不死かどうかの確かな確認が取れない、とか。気軽に行ける街ではないので、呼んでおいて違いましたでは申し訳ないですから」


「確かに」


「もしくは、連絡を意図的に遅らせている、とか。聖女の関係者には聖都の大聖堂を良く思っていない人も居るらしいですし、ワザと現場を混乱させている可能性が有るのではないかと」


「そんな事が有るんですか? 聖女も女神教の信徒なのに?」


テルラは驚いたが、レイは深刻そうな表情で頷いた。


「女神に仕える聖職者でも、王家の影響が薄れる地方になると政治にかぶれるんですわ。嘆かわしいですわ」


「レイはそう言った事情に詳しい様ですね。屋敷に帰ったら詳しく教えてください」


「よ、喜んで! テルラに頼られるなんて、至上の喜びですわ!」


「良かったですね。あ、子犬にミルクを与えますので、ちょっと面倒を見ていてもらえますか?」


シスター・トキミは一旦奥に戻り、二枚の皿とミルクピッチャーを持って来た。


「待て! 待てですよー」


トキミは食事前の躾を試みた。

皿にミルクを注いだ後、子犬達の身体を掴んで優しく押さえ付けている。

しかし子犬達は良く分かっていない様子で、早くミルクを飲みたいと身をよじっている。

それでも根気良く「待て」と言い聞かせるトキミ。

それを見ていたレイが薄ら笑いをする。


「犬の躾を見るのは初めてですけど、何だか良いですわね……」


「待て、待て……はい、食べて良し」


ミルクを与えられた二匹の子犬は、旺盛な食欲でミルクを平らげた。


「ちょっとすみません。こちらにリーズ家に貰われた子犬の兄弟が居ると思うんですが――この子達ですか?」


若い男が礼拝堂のドアを開けたので、全員がその男に注目した。


「そうですが。貴方は確か、ペットショップの店員さんでしたか」


「ええ、そうです、シスター。リーズ家に子犬のしつけのやり方をお嬢様に教えて欲しいと依頼されたんですが、ちょっと問題が発覚しまして」


「問題っスか?」


自分も関わっていた事なので、プリシゥアが興味を示した。

ペットショップの店員は子犬の前で跪き、その毛並みを観察する。


「ミックス犬だから一匹だけでは判別出来なかったんですが、三匹の平均を見ると……。うん、やっぱりそうだ」


「何が分かったんスか?」


「親犬の犬種です」


「犬種っスか? それは重要な事なんスか? 捨て犬なんスから、親が何でも関係無いと思うんスが」


「それが有るんですよ。この子達は恐らく、バーニーズ・マウンテン・ドッグとラフ・コリーのミックスです。もしそれが間違いでも、大型犬である事は間違い無いでしょう」


その言葉に頷くシスター・トキミ。


「子犬にしては大きいなと思っていましたから、大型犬と言われたら、なるほどなと思いますね」


「そして、その犬種はこの街には居ません。恐らく、親犬の飼い主がわざわざ他の街から捨てに来たのではないかと」


驚くテルラ。


「まさか。なぜそんな手間を掛ける必要が有るんですか? 魔物が出るこのご時世に」


「大きくて目立つ犬ですから、近所に捨てると『あの家の人が捨てた』と一発でバレます。その点、この街は邪魔だった魔物が退治された直後で物資の搬入が盛んですから、万が一犬種がバレても知らぬ存ぜぬを通せます。証拠が無いので、別の街から来た可能性を否定出来ませんからね」


「僕は犬について詳しくないんですけど、大型犬はそんなに目立つんですか?」


「この子犬が成犬になると、リーズ家の長女さんなら馬の様に乗って遊べます」


「まぁ。そんなに大きくなるんですの?」


レイが驚く。


「はい。ですからエサ代とかを気にされる方が多いんですが、リース家は犬の大きさ自体を気にしていらっしゃるんです」


「つまり、どう言う事っスか? さっさと発覚した問題が何かを言うっス」


プリシゥアがやきもきした感じで聞くと、ペットショップの店員は犬のアゴを撫でた。


「リーズ家の長女さんは身体が弱くて、体力作りの一環で散歩をなさるそうで。そんな非力なお嬢様では大型犬を制御出来ないかも知れないと、ご家族が判断されているんです。最悪、子犬はここに返却されるかもしれません」

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