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カレンを含めた仲間全員が自由に日々を過ごしていたある日、屋敷に一通の封筒が届いた。
郵便屋から手渡しで受け取ったのは、玄関の鍵や建て付けをチェックしていたプリシゥアだった。
受け取ったその足で二階に上り、カレンの部屋をノックする。
「カレン。お手紙っスよ」
「ん? ありがと」
手紙を受け取ったカレンは、裏面に書かれている差出人を見た。
「コスモス……。お花の名前だ」
「知り合いっすか? 匿名っぽいっスけど」
「まぁ、知り合いかな。なんか色々な事情が有る相手っぽい」
「仕事の依頼人っスか?」
「そんな感じ。多分、もう会わないと思う」
「ふぅん……。仕事を受けるのは自由っスが、怪しい相手とは付き合わない方が良いっスよ。痛い目に遭うかも知れないっスし」
「第三の目が有るから、怪我はしないよ。夜は動けない能力だし。でも、うん。プリシゥアの言う通りだと思うよ。気を付ける」
ドアを閉めたカレンは、ベッドに座って封筒を開けた。
中身は二枚の便箋と一万クラゥ紙幣五枚だった。
「お、儲け儲け。いい加減椅子を買わないとなって思ってたんだ。でも、なんでお金?」
お金を枕の下に一旦隠し、便箋を読む。
一枚目は簡単な内容だった。
『郵便事故や盗難を考え、答えその物は書かない。しかし、答えその物でもある。お金は材料費だ。有効に使え』
「どゆこと??」
首を傾げながら二枚目の便箋に目を通す。
『必要な物。
大きめのボウル。
ひとまわり小さいボウル。
氷。
氷の三分の一くらいの量の塩。
生クリーム。
グラニュー糖。
バニラエッセンス――』
「これは……お菓子? 料理しろって事? それとも、何かの間違い?」
甘そうなレシピが書かれた紙を下し、一枚目の便箋を改めて見る。
『答えその物は書かない。しかし、答えその物でもある』
「これに書かれている事を試せば、錬金術の本を理解出来る様になるって事かな」
意味が分からずにしばらく首を傾げていたカレンは、「いや違う」と気付く。
「この書き方は錬金術の本と同じ感じ。つまり、知らない人には料理のレシピにしか見えない。でも、知っている人間にはこれが錬金術だと分かる。って感じか」
枕の下に隠した紙幣を財布に入れ、街に出る。
「実際に試してみよう。目的が有る買い物は楽しいし」
塩や生クリームは安かったが、氷が三万クラウもした。
冬の間に出来た氷を氷室と言う場所で保管しないといけないので手間が掛かり、量に限りが有るので、どうしても高価な物になる。
差出人のコスモスが五万クラゥも包んだのも、氷菓子は貴族の道楽だと言う事を知っていたからだろう。
貴族っぽかったし。
「溶ける前に急いで帰らなきゃ」
勝手口から台所に入ったカレンは、急いで便箋に書かれてあるレシピを試してみた。
「まず、大きい方のボウルに氷を入れ、塩を塗す。捨てる方に塩を掛けるのか。――次に小さい方のボウルに食材を入れ、混ぜながら冷やす」
氷に塩を掛けると、氷より冷たくなるそうだ。
その性質を利用すると、生クリームが凍るくらい小さいボウルが冷える。
「こうして作るのが、アイスクリーム」
カレンは、五つの皿に乳白色の冷菓を装った。
自分の分を一口舐めてみる。
「うん、おいしい」
台所から一歩出て、肺いっぱいに空気を吸う。
使ったバニラの香りがした。
「みんなー! お菓子を作ったからすぐに来てー! 急いで食べないといけない物だからー!」
屋敷中に聞こえる様に大声を出した。
すると、グレイとテルラがすぐに来た。
「何事ですか?」
テルラがそう聞くと、一歩遅れてプリシゥアが来た。
「お菓子を作ったって聞こえたっスけど、買った、じゃないんスか?」
「うん、作った。試しに作ってみたくなってね。上手く出来たからお裾分け」
「甘い匂いだが、やたら冷たいな。食えるのか?」
テーブルに近付いたグレイが、皿に顔を近付けて鼻を鳴らしている。
「アイスクリーム、食べた事無いの? 美味しいよ」
訝しむグレイと同じ格好でアイスを覗き込むテルラ。
「アイスですか。こんな高級な物を自分で作ったんですか?」
「ビックリだよね。作れるんだよ。テルラは食べた事有るでしょ?」
「ええ、祭事の時に。頂いても宜しいんですか?」
「うん。溶ける前にどうぞ」
四人はテーブルに着き、スプーンを手に取った。
「……! 旨い!」
恐る恐るアイスを口に含んだグレイが目を輝かせた。
「アイスを食べたのは初めてっスけど、美味い物っスね」
プリシゥアにも好評なので、カレンは満足気に自分の分を舌に乗せた。
人数分に分けたので量は少ないが、それでも甘味は幸せな気分を齎してくれる。
「あー、旨かった。……レイ、来ないな」
あっと言う間にアイスを平らげたグレイが、ひとつだけ空いた席を見た。
手が付けられていないアイスが溶け始めている。
「そうだねぇ。お出かけしてるのかな」
「最近、犬の躾に興味が有るみたいっスから、多分あそこっスね。あそこだったらしばらく帰って来ないっスよ」
視線を逸らしながら言うプリシゥアの態度に違和感が有ったが、そう言うのを気にしてたらこのパーティではやっていけないので、特に追及はしない事にした。
「ふーん? 溶けたら勿体ないから、もう一回呼んでも来なかったらグレイが食べても良いよ。良いよね? テルラ」
「溶けたら勿体ないですからね」
台所の入り口で再び呼んでみたが、レイからの返事は無かった。
「居ないみたいね。しょうがない、グレイが食べて。レイは王城に帰ればいくらでも食べられるだろうから、残念でしたで許してくれるよ」
「そうだな。じゃ、頂きます」
最後の一皿を食べたグレイは、満足気に舌なめずりした。
「ご馳走様。アイス、また作ってくれるか?」
「気に入ったみたいね、グレイ。でも残念。氷がアホみたいに高かったから、今回限りね。真冬で氷が簡単に手に入るなら簡単に作れるけど」
「むむ、そうか。残念だ。ちなみにいくらくらい掛かったんだ?」
「食事付きの宿屋に数日泊まれるくらいかな」
「アホか高過ぎるわ」
驚きと共に唾を飛ばしてそう言ったグレイは、残念そうに肩を落として席を立った。
「旨かったよ。珍しい物を食わせてくれてありがとう」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでしたっス」
テルラとプリシゥアも、礼を言ってから席を立った。
「おそまつさま。使った道具の後始末しないといけないから、使った食器はそのままで良いよ」




