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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第六話
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屋敷内や庭で人が動く音に起こされたカレンは、掛布団を頭まで被った。


「うぅーん、うるさいなぁ……」


ハンターになってからは夜明けと共に目覚めるのが日常となっていた。

しかし、カレンは田舎の村ながらも村長の娘なので、普通の娘と比べれば甘やかされて育って来た。

だからか、ちゃんとしたベッドの中で毛布に包まれると、ついつい寝過ごしてしまう。


「……」


布団を被っていると息苦しくなるので、結局は頭を出す。

まだうるさい。

カレン以外の仲間は、いつも通りの時間に起きていた様だった。

真面目なテルラは朝のお祈りが有るし、お金を稼ぎたいグレイは仕事熱心だ。

今日の予定が無いカレンはいくらでも寝られるが、仲間達はのんびりと惰眠をむさぼれるほどヒマではないらしい。


「……起きるか」


二度寝したかったのだが、結局は眠れなかった。

覚醒してしまうと空腹を感じるしトイレにも行きたくなって来るので、けだるくベッドを降りる。


「やっぱりレイとプリシゥアか」


素朴な黒髪の寝ぐせをそのままに窓から外を見ると、庭で仲間の二人が戦っていた。

勿論本気のガチバトルではなく、戦闘訓練だ。

レイは愛用の剣ではなく木刀を、プリシゥアはタオルか何かを腕に巻き、お互いに怪我をしない様にやりあっている。

カレンの部屋は二階に有って見下ろす形になっているので、向こうは見られている事に気付いていない。

と言うか、彼女達の掛け声がうるさくて二度寝が出来なかったのだ。

今暮らしている屋敷は、元々は金持ちが住んでいた。

とっても敷地が広いので、ちょっとくらい騒いでも近所迷惑にならない。


「真面目だねぇ」


窓から離れたカレンは、旅用の装備ではなく、街中用のドレスに着替えた。

仕上げにお気に入りのスカーフで前髪を上げ、おでこを出す。

着替えたが、あまりのやる事の無さに愕然とした。


「取り敢えずトイレ行って、朝食行って。どうせ外に出るのなら、散歩してどんなお店が有るか見てみるか」


一人で街に出たカレンは、なじみの軽食屋でサンドイッチを買った。

朝と昼の中間くらいの時間だったので、売れ残り価格でちょっと安かった。

大通りをウィンドウショッピングしながらそれを食べる。

この街に来た時とは違って結構な人出が有り、店頭をチラリと見ただけだが商品も豊富に有ると感じた。

欲しい物もチラホラ目に入ったが、結局は何も買わずに取って返して帰る事にした。

個人ではクエストを全然こなしていないから、お財布の中身が少々寂しいのだ。


「あ、お帰りなさい、カレンさん。これをどうぞ」


玄関を掃除していたシスター・トキミがカレンに一枚の雑巾を手渡した。

シスター服のポケットに入っていたそれは新品で、手を拭えるくらい真っ白だった。


「お屋敷内の掃除は私がやりますが、各自のお部屋は自分で掃除するって決めてましたよね。だから雑巾を作って来ました」


「ありがとう。――随分綺麗な雑巾だね。普通こう言う物は着なくなったシャツとかで作る物だと思うんだけど」


「教会ではボランティアで縫物会を開いたりしますので、布の寄付が有るんですよ。他にも様々なボランティアを行っていますから、興味とおヒマが有りましたらぜひご参加を」


「ボランティアって、言ってしまえばタダ働きでしょ? 貧乏な新人ハンターがやる事じゃないかな。テルラはそれでもやりそうだけど、私は強く誘われなきゃきっとやらない。グレイは絶対やらないね」


カレンの断言に苦笑して見せるトキミ。


「生活に余裕がないとボランティアは出来ませんからね。それはさておき、掃除用の桶は共用のを使ってください。数が足りなかったら自分で買うなり、相談して順番を決めるなりしてください。ではでは」


カレンが出ている間に邸内の掃除を終えていたのか、そのまま帰って行くシスター・トキミ。

それを見送ったカレンは、手の中に有る綺麗な雑巾を握り締めてみた。

水分を良く吸い取りそうな柔らかい手触り。


「掃除でもするか」


カレンは暇潰しの掃除をやろうと思って自室に戻ってみたが、

ここで寝泊まりする様になってまだ数日しか経っていないので、全然汚れていない。

それで納得するとまたやる事が無くなるので、ベッドに座って汚れを探した。

神経質な綺麗好きなら一日中掃除が出来るらしいから、探せば汚れのひとつやふたつくらい有るだろう。


「ん? 何だあれ」


壁板の一部に不自然なところを見付けた。

微妙に色が違う。


「雨漏りしてカビたから板を変えたとか? まぁ、どうでも良いや」


掃除を諦め、ベッドでゴロゴロし始めるカレン。

怠けたいのに、どうしてやる事が無いと辛いんだろう。

しょうがないので溜息と共に立ち上がる。


「一応、調べてみるか。雨漏りしたら嫌だもんな」


不自然なところを擦ってみる。

なんでもない、ただの壁だ。

鼻を近付けて臭いを嗅いでみてもカビや湿気の気配は無い。


「何にもないか」


アッサリと諦め、ベッドに座り直すカレン。

これから何をしようかと考えながら、再び掃除が必要な場所を探しながら天井や床を見る。


「……ん?」


こうして良く見て見ると、床にも不自然なところが有った。

それは家具を引き摺った傷だ。

この部屋に初めて入った時から気付いてはいたが、古い家なら良く見る傷だと無視していた。

だが、その傷を線で結ぶと円形になっているのだ。

普通、こう言う傷は四角、もしくは直角の十字のはずだ。


「これはおかしいぞ」


床に跪き、一番近くに有る傷に顔を近付けてみる。

傷の中の一部分に小さな穴が開いていた。

虫食いや老朽化ではなく、工具を使って開けられた物に見えた。


「金持ちの家には秘密の通路が有るとか聞くけど、それ系かな。こう言うの、結構ワクワクするな」


押し入れに仕舞ってあった旅の荷物から鉄櫛を取り出し、その穴に挿してみた。

何の音もしなかったが、仕掛けを動かした手応えは有った。


「ホントに何か有りそう」


他の穴にも鉄櫛を挿し、仕掛けを動かす。

五本を挿し、改めてその穴を目算で円形に結んでみる。

円は部屋をはみ出している。


「六個目は隣の部屋っぽいな」


隣りは空き部屋なので遠慮なく入り、床の傷を探す。

穴は押し入れの奥の壁際に有った。

分かって探さないと見付からない位置だった。


「有った。これで全部のはずだけど」


穴に鉄櫛を挿すと、カレンの部屋で何かが落ちた音がした。


「お。正解っぽい」


自室に戻ると怪しい壁の板が四角く外れていて、小物入れみたいな小さな空間が現れていた。

そこには紙の包みがひとつ入っていた。


「お宝かな? 高価な物なら売っちゃおうかな」


包みを開けると、中から一冊の本が出て来た。

手製の本で、表紙に『これを手に取った者は必ず一ページ目を読む事』と書かれてあった。

印刷ではなく、手書きだ。


「これがタイトル? 変な本」


ページを開く。

中身も手書き。


『これは私が発見し、研究した錬金術の研究書である。

しかし聖職者に嫌われ、権力者に疎まれ、志半ばで諦めざるを得なくなった。

願わくば、これを発見した物事を正しく見れる者が、教会に知られず、国家にも知られないまま、錬金術の研究を引き継いで欲しい』


「……錬金術って何だろう? 何にせよ、お金にはなりそうもないわね」


ガッカリしたカレンは、気落ちしたまま鉄櫛を回収した。

尖っている物なので、放っておくと危いから。

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