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街道を塞ぐ魔物が居なくなったので、カミナミアに活気が戻って来た。
最初の数日は周辺の町や村に安全になったとアピールするために若者が出掛けなければならなかったので人が少ない状態が続いたが、今はもう普通の街と同じ様に老若男女が通りを歩いている。
しかし魔物が居ないと宣伝し捲ったので、新たなハンター等の旅人が寄り付かない問題は依然として続いていた。
閑散としている宿屋脇で、今日も占い師が露店を開いていた。
「いつもここで見掛けるが、儲かってるのか?」
バイコーンの帽子を被って黒いロングコートを着ている少女が露店の前に立った。
「おや。この街を救った英雄さんじゃないですか。儲かりはしませんが、生活には困っていませんからご心配無く。何か用ですか?」
「お前、この前、俺に言ったよな。『食い物に困る』って」
「中りましたかな?」
「大中りだよ。1000クラゥ払うからアドバイスをくれ」
グレイは一枚のお札をテーブルに置いた。
顔を隠している女声の占い師は、それが風で飛ばない様にすぐに懐に仕舞った。
「お話を伺いましょう。どうぞお座りください。――貴女のお名前はグレイさんですね?」
用意されている対面の椅子に座ったグレイは、占い師の目を真っ直ぐ見た。
「俺の名前を知っているのか」
「英雄ですからね。では、お悩みの内容をお聞かせください」
占い師は大きな水晶玉に被せていたビロードの布を取り、商売を始める姿勢に入った。
「まず、俺達は結構良い屋敷に5人で暮らしていて、朝食だけを当番制で順番に作っているって事を知っておいてくれ」
「はい」
「昼と夜は各自勝手に食うから、それほど問題ではない。――と、最初は思っていた」
盛大な溜息をひとつしてから続けるグレイ。
「俺達の名前を知っているみたいだから名前で言うぞ。俺とプリシゥアの調理技術は年相応で、俺的には問題は無い。だが、他の三人が酷いんだ」
「酷い、とは?」
「まず、唯一の男であるテルラ。彼が作った最初の朝食は味が全くしなかったが、二回目は普通に食える物になった。彼は真面目だから、向上心が有る。学習能力も有る。それは良い」
「彼が問題かと思いましたが、違うんですか」
「問題は問題なんだ。彼は修行中の身だからと言って、蒸かした芋しか作らないんだ。今後も豆と芋しか調理しない宣言をしている。俺としては物凄く不満だが、まぁ、朝食だから問題は無い」
「では、他の二人が?」
「カレンとレイの二人はお嬢様で、調理の経験が無い。――まず、カレンだが、こっちは仕事が雑なんだ」
「雑」
「野菜の皮を剥かずにただ切って鍋にぶち込んだり、煮込む順番が適当で生煮えと煮崩れが同じ皿に入っていたり。単純に不味くて、食うのが辛い。本人も不味いのが分かっているので反省しているが、未だに改善していない」
「なら、調理が出来る誰かがアドバイスをしてみては?」
「したさ。でも改善されない。本人は何とかしようと努力しているみたいだが、別方向の不味さになるだけで改善しないんだ」
「ははぁ……それは困りましたね。――で、もう一人の方にはどんな問題が?」
「レイは調理に愛情をたっぷりと籠める。籠めすぎて身体に良い具や評判の良い調味料を山ほど入れる。文字通り山ほど入れるんだ。どう言う事か分かるか?」
「調味料も山ほど入れるんですか?」
「そうだ」
「なら、味が濃くなりますね」
「一口食ったら身体が震えるほどな。お湯で薄めれば食えたが、具の入れ過ぎで雑味が出てるから結局は不味い。次の当番では、逆に味が薄過ぎた。二人共、対処が極端なのだ」
「なるほど。食の問題は大問題ですから、それではお辛いですね」
「嫌なら食わなければ良いと思うのだが、それも叶わない。真面目なテルラがお残しを許さないんだ。特にレイは高級食材を使うから、余計に。失敗料理も強引に誤魔化せば食えるが、それがまた不味い事不味い事」
「グレイさんのお悩みは分かりました。それでは占ってみましょう」
水晶玉に手を翳した占い師は、ムニャムニャと呪文を唱えながら何やら念じた。
「出ました。ええと、グレイさんはこの街の地理に詳しいですか? 番地を聞いて、それがどこかか分かりますか?」
「ここに来てから数週間経ったから、メイン通りなら普通に歩ける。だが、それ以外は自信が無いな」
「なら、少々お待ちください。今、メモします」
占い師は机の下から紙とペンを出し、サラサラと書き込む。
「この住所にある、ゾエ・モレルさんを今日の昼過ぎに訪ね、グレイさんが食に困っていると相談してみてください。良いですか? 必ず昼過ぎですよ?」
「今すぐだとダメなのか?」
「急ぐと失敗する確率が上がります。先方にも都合が有りますからね」
「それもそうだな。ちょっと早いが、昼飯を食って時間を潰すか。話を聞いてくれてありがとよ」
メモを受け取ったグレイは立ち上がり、なじみとなった宿屋近くの酒場に入った。




