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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第五話
42/277

6

百人を超える村人達は、十台のリヤカーを引いて柔らかな日差しの中を進んだ。

周囲に注意を払っているが、思ったよりは緊迫していない。


「テルラの護衛を始めてやった日の行列を思い出すっス。あの時は行列のど真ん中だったっスけど」


商隊もどきの後方に居るプリシゥアがしみじみと言った。

その前に居るテルラが苦笑する。


「そんなに懐かしむほど昔ではないでしょう」


「いやー。テルラやレイには分からないと思うっスけど、聖都に住む普通の人は行列を遠くから眺める事しか出来ないんスよ。今みたいに。だから、貴重な体験した私には凄く昔に感じられるんスよ」


「そう言う物なんですか。プリシゥアの言う通り、良く分かりませんね」


ピクニックに向かう散歩の様に雑談していると、同じ後方に居る男性が寄って来た。


「そろそろ魔物が出て来る頃合いだ。しっかりやってくれ」


「はい」


頷く5人のハンター。


「お前達が受けたクエストの報酬は俺達が払った税金から出されるんだ。この行列も役所から援助金が出ている。俺達の金を死に金にしてくれるなよ」


別の男が嫌な事を言ったので、反骨心溢れるグレイが鼻で笑った。


「クエストが出されていなかったら、そもそも俺達は同行しない。バカな事を言って俺達のやる気をそぐな」


「何……!」


男の鼻息が荒くなったが、三人目の男に肩を掴まれた。


「おい、ここで無駄口を叩くな。魔物の足音が聞こえない」


「……チ」


渋々引き下がる男。


「来たぞ!」


隊列の前方に居る男が叫んだ。

それに呼応してレイが剣を抜き、グレイがコートの前を開けて長銃を構えた。

遠くの方で緑色の物体が動いている。

まだ大分離れているので自然の緑と同化しているが、動きが動物っぽいので見分けが付く。


「あれかな? あれね!」


カレンが慌てて額に手を当てようとしたので、テルラはその腕を掴んだ。


「待ってください。魔物に逃げられたらクエスト失敗になります。出来るだけ引き付けて。カレンの魔法は僕達以外を巻き込んでも問題は無いので、落ち着いてください」


「う、うん」


緑色の物体がどんどん近付いて来る。

全身緑の毛に覆われた巨人だった。

事前に言われていた通り動作は確かに遅いが、身長が5メートルくらい有るので、歩幅が大きい。

だから接近スピードは早かった。

商隊もどきの動きも慣れていて、囮役のリヤカー以外はさっさと避難を開始している。


「今です!」


「第三の目ッ!」


テルラの合図を待っていたカレンは、素晴らしい反射速度で額にダブルピースを当てた。

すると眩い光が商隊もどきの半分と魔物一匹を照らした。


「今の光に当たった人は、走ってこの場を去ってください!」


テルラが叫ぶと、大勢の男達がリヤカーを引いて走り出した。

魔物はそれには目もくれず、いつもの様に放置された囮のリヤカーを漁り出す。

その隙に、指の輪を作ったテルラがガーネットの目でクズ野菜を貪り食っている魔物を見た。


「出た! 『王の威厳』! あの魔物は潜在能力持ちです!」


「つまり、わたくし達の獲物である48の魔物の一匹ですわね!」


嬉しそうに言ったレイは、抜身の剣を構えながら駆け出した。


「じゃ、48の魔物だった時の作戦を始めるっス!」


レイの後をプリシゥアが追い掛けて行く。


「んじゃ、俺の仕事をするか。それ、開始の祝砲だ!」


グレイは長銃を構え、装填出来る5発全てを撃った。

二発は頭。

二発は心臓。

最後の一発は左足に。

全弾綺麗に狙った場所に当たったので、普通の生物なら死んでいる。

しかし、緑の毛に覆われた巨人は痛がるだけで弱っている気配は無い。


「我ながら良い命中率だ。弾も良い。あの店は当たりだな。――しかし、不死の魔物は確かに厄介だ」


長銃に新たな弾丸を込めながら仲間の戦闘を見守る。

何か有ったら援護射撃をするのもグレイの役目だから。


「たぁっ!」


気合い一閃、レイが魔物の首を斬りつけた。

その一撃で魔物の大きな頭が落ちた。


「へぇ。おかしな奴等だったから不安も有ったが、普通に強いじゃないか」


グレイが感心していると、魔物は血を噴き出しながらうつぶせに倒れた。


「うぅ、返り血が気持ち悪いですわ……。でも、やはり首を落としても死なないみたいですわ」


魔物は、レイが様子を伺っている前で落ちた首を探す様に腕を動かしている。

その動きに気を付けながら、プリシゥアが緑色にざわめく脇腹の毛を掴んだ。


「ひっくり返すっスよぉー」


「手伝います!」


作戦を知っている囮役の村人数人が手伝い、首が無くなった魔物の身体を仰向けにする。

カレンの潜在能力によって攻撃力が奪われているので、魔物に殴られたり捕まれたりしても何の効果も無かった。


「うー、気持ち悪いですわー。でも、我慢しないと退治出来ないので、我慢しますわぁ~」


魔物の上に乗ったレイは、言葉とは裏腹に楽しそうに魔物の胸に剣を突き立てた。

そして大雑把に切り開く。

グレイの位置からは見えないが、脈動する心臓が太陽の下に出ているだろう。


「ふわー。こんな状態でも心臓が動いてるっスよ。不老不死って凄いっスねぇ」


「羨ましいですか?」


魔物の上に立っているプリシゥアとレイが中腰になって傷口に顔を近付けている。


「いやー。この状態でも生きてたら、きっと凄く痛いっスよ。遠慮するっス」


「ふふ。わたくしもそう思いますわ。権力者なら喉から手が出るほど欲しい能力ですのに、こんなの絶対に嫌ですわ」


「どうしましたー? 何か問題でも?」


テルラがプリシゥアとレイに声を掛ける。

カレンと二人で大きな壺を持っている。


「あ、すみません。仕事中に無駄話をしてしまいましたわ。さ、プリシゥア」


「了解っス」


プリシゥアがぽっかりと開いた魔物の胸の穴に手を突っ込み、まだ動いている心臓を掴んだ。

そして、それに繋がっている血管をレイが切る。

そこまでして、やっと魔物の動きが止まった。


「死んだか?」


長銃を魔物に向けたままのグレイが訊くと、血が滴る巨大な心臓を持ったプリシゥアが首を横に振る。


「まだ心臓は元気っス。このままだときっと復活するっス」


「では仕上げをしましょう」


壺を地面に置くテルラ。

その横に、別動隊の村人が引く一台のリヤカーが来る。


「さ、プリシゥア。この中に心臓を入れてください」


「了解っス」


汚い物をゴミ箱に入れる様にして心臓を壺に入れるプリシゥア。


「村人のみなさん。注意して酸を入れてください」


革の手袋を装備した村人達が、リヤカーに乗っていた小さな壺の中身を心臓入りの壺にぶちまけた。

鼻を突く異臭と共に心臓が溶かされて行く。


「オッケーです。もうひとつの壺に頭を入れましょう。このふたつの壺に栓をして、僕達の家に持ち帰ります。日数が経っても復活しなかったら、この方法で不老不死の魔物が倒せる事が証明される訳です」


「酸が手に入らなかったら、俺がアシッドスライムを召喚する訳か」


「そうなります。心臓だけ溶かせば良いのか、頭も溶かさなければならないのかを調べなければ、どれくらいの代価が必要になるかの試算も出来ませんし。――さ、魔物の死体を燃やしましょう」


「おう」


プリシゥアとカレン、そして村人達が協力し、魔物の身体に薪と藁を巻き付けた。

そして油を掛け、火葬した。

激しく燃える魔物の遺体の横で穴を掘る。

一時間ほど燃やして灰となった魔物の遺体をそこに埋めた。


「これでクエスト完了です」


テルラが宣言すると、この場に居る村人全員が勝鬨を上げた。

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