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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第五話
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1

何日も掛かる距離を踏破したテルラ一行は、やっと目的の街に辿り着いた。

レンガの城壁に囲まれているので、結構な規模の街だ。


「ここがカミナミアっスね」


開けっ放しになっている街の門に、はっきりとカミナミアと書かれている。

隊列を崩して門に近付いたプリシゥアがそれを読んだ。

安堵の吐息を漏らしている一行は、何日もの野宿の影響で全員が薄汚れている。


「お昼過ぎの中途半端な時間なので、まずは教会に行きましょう」


テルラがそう言うと、グレイが黒のロングコートの下に隠している銃の位置を直した。

疲労のせいで武器の持ち方が雑になっていたが、人が居る街中では気を付けて持っていないと危ない。

暴漢に襲われた時などに銃を構えるのがコンマ遅れたら、それが命取りになったりするからだ。


「情報収集か。じゃ、俺は何か食いに行って来るよ」


「いえ、今回はみんな一緒に行動しましょう」


「ん? 何でだ?」


「僕達はこのカミナミアをしばらくの拠点にします。ですので、家を一軒借りるんです。自由行動は、その家に荷物を置いてからにしましょう」


「ここに腰を落ち着けるのか。――そうだな。なら、その方が動き易い」


「レイとカレンも良いですね?」


「異論は有りませんわ」


「良いよー。歩くの疲れたから、早く座りたーい」


「では行きましょう。念のため、隊列を崩さない様に」


門番の居ない門を潜り、街に入る一行。

そこは普通の田舎街だったが、妙に人の気配が少ない。


「随分と寂しい街ですけど、本当にここを拠点にしますの?」


レイが不安そうに言う。


「勇者が居ないから、と言うのもここを選んだ理由のひとつですからね。色々な状況が予想されますが、とにかく教会に行って情報を得ましょう」


「確かにここで考えても無意味ですわね。参りましょう」


この街の教会は、田舎の建物に相応しいみすぼらしさだった。

両開きの玄関ドアには鍵が掛かっていなかったので、そのまま中に入る。

一般的な教会と同じく、いきなり広い礼拝堂に出た。

素朴な見た目の割には綺麗に掃除されていたが、ここにも人の影は無かった。


「こんにちは。どなたかいらっしゃいませんか?」


奥に鎮座されている小さな女神像に一礼してから、テルラが大声を出す。

すると、女神像横のドアからシスターが出て来た。


「はーい、何でしょう? ――あれ? 旅人さんですか?」


レイ達と同年代くらいの若いシスターは、大きな瞳をクリクリと動かしながら近付いて来た。


「始めまして、テルラティア・グリプトです。僕の事は聞いていますでしょうか」


「あ、はい。大聖堂から派遣されたハンター様――ですよね? えっと、全員ですか?」


「僕達全員ハンターです。僕達の家を用意してくれていると言う話になっていると思うんですが」


「はい、今ご案内致します。神父さんに外出の許可を頂いて参りますので、少々お待ちください」


シスターは一旦奥に行ってから、お年を召した神父と一緒に戻って来た。


「ようこそおいでくださいました、テルラティア・グリプト様。この街を魔物からどうか守ってください」


「お任せください、神父様。ええと、後日落ち着いてからと思ったのですが――」


背負っていた大きなリュックを下したテルラは、その中から小さな包みを出した。


「借家をお世話してくださったお礼として、大聖堂からの志です」


「ありがとうございます。魔物の詳細は彼女が説明します。――トキミ、しっかりお世話しなさい」


「はい、神父様」


トキミと呼ばれたシスターは、荷物を背負い直したテルラ達と共に教会を後にした。

そして人気の無い道を進みながら名乗り合った。


「改めまして。私はトキミと申します。以後お見知りおきを」


「ハンターをしている時の僕はテルラと名乗る事にしています。ですから、シスター・トキミは僕の事をテルラとお呼びください」


「分かりました。なら、私の事もトキミと呼び捨てにしてください。――そちらのお方は王女様ですよね? そちらも?」


「ええ。レイとお呼びくださいませ」


「プリシゥアっス」


「グレイだ」


「カレンだよ。で、この村は、どうしてこんなに人が居ないの?」


訊くと、先導していたトキミが顔半分だけ振り向いた。

結構歩いているが、未だに人とすれ違わない。


「今、この街の若者が魔物退治に出ているんです。その魔物とは、皆様の目的である、不死身の魔物です」


「確定ですか?」


テルラが訊くと、トキミはうなずいてから前を向いた。


「過去に何度かハンターが退治に向かったんですが、残念ながら討伐に成功していません。重傷を負わせても死なないんです。回復は普通の生物と同じスピードなので撃退は出来ますが、死なないのでは退治出来ません。ですから勇者が居なくなり、クエストクリア出来ないのでハンターも寄り付かなくなりました」


「と言う事は、素人が不死身の魔物退治に? 大丈夫ですの?」


レイが訊くと、トキミは辛そうに首を横に振った。


「勿論大丈夫じゃありませんが、定期的に街から遠ざけないと危ないからしょうがないんです。本気で退治しようとしていないおかげか、こちら側に被害が無いのがせめてもの救いです」


「どんな魔物なんスか?」


プリシゥアが訊く。


「聞いた話では、毛むくじゃらの巨人らしいです。動きが鈍いのですが、怪力で近寄れないんだそうです」


トキミは溜息を吐く。


「幾度となく遠ざけられたその魔物は街道の途中に住み着き、商隊を襲う様になりました。ですので、この村に物資が入って来ないんです。大聖堂の要請では新築を、との事でしたが、そんな理由からまぁまぁの借家しかご用意出来ませんでした。すみません」


「僕達はそんな事気にしませんよ。ねぇ、みんな」


「雨風が凌げれば問題は無い」


グレイが言葉短く言う。


「ありがとうございます。人通りが無いのは、何かの手違いで魔物が村を襲って来た場合の事を考えてです。だから女子供年寄りは家に引き籠っているんです。男衆が出払っているので、ほとんどの店が閉まって買い物出来ませんしね」


「大変な状況なんですね。その魔物退治のクエストは役所に出てますよね?」


「多分、出ていると思いますよ、レイ。引き受けてくれる勇者様もハンターも居ませんので、多分としか言えませんが」


「なら、わたくし達がクエストを引き受けませんとね」


「助かります! もしも出ているのなら、そちらの方が魔物の詳細に詳しいでしょうね。――さぁ、着きましたよ」


一軒の家の前に立ち止まるトキミ。

カレンは、門前で家を見上げる。


「まぁまぁの、って言うか、かなり良い家じゃない? ここで合ってるの?」


庭付き二階建ての豪邸だった。

お隣の家も庭が広いので、住宅地なのに近所が遠い。


「役所近くの家を望まれていましたから。そうすると一等地になりますので、こうなります」


「大丈夫なんですか? 無理して確保したりしていませんか?」


テルラが訊くと、トキミは苦笑した。


「物資が無くなり、治安が悪くなると、お金持ちはお引越ししてしまいますから。そんな訳で、この辺りは普段から人が少ないので大丈夫です。空き家が塞がってお家賃を払って貰えるなら街としては大助かりです。ちなみに役所はあそこです」


トキミが指差す方を見ると、200メートルくらい先に大きな建物が見えた。

ここならクエスト確認を日課にしても楽そうだ。


「あと、これがお家の鍵です。みなさんがクエストで外泊する場合は私が家を管理しますので、予備の鍵は私が預かります。玄関の鍵はこのふたつしかありませんので、無くさない様に注意してください。私も気を付けます」


鍵のひとつを手渡されたテルラは、それをしっかり握り締めた。


「最低限の家具は揃っていますが、毛布やシーツはありません。教会にお越しくださればお貸し出来ますが、緊急時用の物資なので、なるべく早めに自力で用意してください」


「わかりました」


「では、私はここで失礼します」


頭を下げたトキミは、そのまま帰って行った。


「荷物を置きましょうか」


「はーい」


家の中に入った一行は、まず玄関を一望した。


「ちゃんと掃除されてるっスね」


「趣の良い花瓶も有りますわね。残されているのなら安物でしょうけど」


パーティーメンバーは、遠慮無くずんずんと奥に歩いて行く。

テルラもそれに続く。


「部屋割りはどうする? 自由で良いか?」


グレイは、珍しくウキウキしていた。

豪邸が新居になってテンションが上がっている様だ。


「部屋の数が多いので、一人一部屋でも余裕ですね。自由にしましょう。荷物を置いたら役所に行きますので、30分後に玄関に集合してください」


「了解。俺は狙撃し易い二階の見晴らしの良い部屋にする」


「私も二階ー。上の方で暮らすの夢だったんだー」


グレイとカレンが階段を上って行った。


「私はテルラの護衛っスから、テルラの隣にするっス」


「なら、来客に気付き易い玄関の近くにしましょうか。それがリーダーの役目でしょうから」


「そうっスね」


玄関脇のドアを開けるプリシゥア。

そこはソファーとテーブルの部屋だった。


「この様子だと、ここは客間っスね。もうひとつ隣りの部屋は、と」


その部屋はがらんとしていた。


「一瞬物置かと思ったっスが、タンスの日焼け跡が有るっスね。高級家具は持って行った、って感じっスかね」


「多分、そうでしょう。クエストをこなして家具を買い揃えないといけませんね」


「そうっスね。じゃ、防犯上の理由で、客間の隣は私の部屋にするっス。テルラはその隣にするっス」


「分かりました。そうしましょう」


「では、わたくしはその隣にしましょう。まぁ、この部屋もカラッポですわ」


嬉々として部屋を選んだレイをジト目で見たプリシゥアは、テルラの部屋のドアをチェックした。


「……各部屋のドアは内側からカギが掛けられるっスね。この村は治安が悪くなっているってトキミが言ってたっスから、用心はするっスよ、テルラ」


「そうですね。みんなも気を付ける様に言わないと。では、一旦分かれましょう」


一階組の三人は、それぞれの自室に入って荷物を下した。

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