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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第四話
32/277

5

「魔物が攻めて来たぞ! みんな起きろ!」


エディの怒号で寝ていたテルラ、グレイ、プリシゥアの三人はふたつのテントから飛び出した。

テルラは寝起きでフラフラしているが、プリシゥアはしっかりと立っている。

意外にもテルラと同じくらいの年齢のグレイもしっかりと長銃を構えていた。


「夜明けと同時に2匹の魔物が襲って来たんですわ。1匹はエディさんが倒しましたが、もう1匹は逃がしてしまいましたわ」


火の番をしていたレイの足元に死体が転がっている。

体長一メートルほどの人型の生き物で、袈裟懸けに一刀両断されている。

身体つきは筋肉質な子供っぽいが、肌の色が緑色なので明らかに魔物だ。


「やはり大ネズミだったな」


グレイが爪先で死体を突く。

完全に死んでいる。


「いや、ワザと逃がしたんです。巣の場所に案内して貰う為にね。さ、荷物番を残して追い掛けましょう」


「では、グレイとプリシゥアがここに残ってください。レイとカレンと僕がエディさんと共に行きましょう」


「はい!」


「分かりましたわ!」


カレンとレイは力強く頷いたが、プリシゥアは不満顔で一行の前に立ち塞がった。


「私はテルラの護衛なんスけど、居残り組っスか?」


「今は適材適所です。急ぎましょう!」


「ああ、行こう。走るから遅れないで」


エディは、逃げた魔物が残した足跡や草の分け目を頼りに駆け出した。

それに続いてテルラが進み出すと、プリシゥアはアッサリと道を譲った。


「寝起きで頭が働ないっス。だから全部テルラに任せるっス。気を付けるっスよ!」


「分かっています! プリシゥア達も気を付けて!」


先頭のエディが屈強な身体を使って森の中を突き進んでいるので、自然と獣道的な物が形作られて行く。

だから、それに続く少年少女達は時々草を手で払うだけで走る事が出来た。


「夜が明けたばっかりで薄暗いのに良く追えるなぁ。何かコツが有るんですか?」


カレンが感心すると、エディは朗らかに笑った。


「コツと言うより、経験と勘かな。食料を求めて動物を追ったりしていたから、その経験が役に立ったって言うか。君達もその内出来る様になりますよ。――ただ、今回の魔物は知恵が浅い奴だから簡単に追えますけど、報酬が良い魔物だとこうはいきませんけどね」


しばらく走ると大木の前に出た。

その根元にウロが有り、そこを護る様に2匹の魔物が待ち構えていた。

肌の色が緑色の大ネズミ。


「大ネズミと言うより、小人っぽいね。魔物だから小鬼かな?」


カレンがノンキに言っている前で勇者と剣士が剣を抜いた。


「これで3匹か。レイさん、一匹ずつやりましょう」


「分かりましたわ。では、わたくしから見て左の奴を」


「俺は右ですね。了解」


「丁度朝日が見えて来たけど、私はどうする?」


カレンが地平線の方に顔を向ける。

昇り立ての太陽光が木々の隙間から差し込んで来ていて、草が湛えている朝露を輝かせている。


「事故が無くなるのでやってください。この前みたいに全員に当てない様に」


「はーい。第三の目!」


カレンの額から光線が発射され、2体の魔物を照らした。

突然の魔法に何も知らないエディが怯む。


「何だ? 何の光だ?」


「敵の攻撃力を奪う魔法です。魔物に対しては初めて使うのでどこまで効果が有るかは分かりませんが、安心して倒してください」


戦闘の邪魔にならない様に距離を取りながら言うテルラ。

仕事を終えたカレンも一緒に下がっている。


「行きますわよ!」


「おう!」


レイとエディが飛び出し、苦も無く魔物を屠る。

魔物側は必死に抵抗したが、素手だった上に攻撃力を奪われていたので、あっと言う間に勝負が終わった。

これでカレンの潜在能力は魔物にも完璧に作用する事が証明された。


「良し。――ここが奴等の巣だろう。伏兵が居るかもしれないので、用心して中を覗きましょう」


エディが大木のウロの中を覗くと、3匹の魔物が居た。

かなり小さくて、人間を見ても全く警戒しない。

生まれたてらしい。


「なるほど。だから近くの村を1回しか狙わなかったのか。こいつらの世話で動けないから」


エディが納得すると、遅れてウロを覗いたレイは困惑した。


「どうします? 子供に罪は無いので見逃しますか? それとも……?」


「そうですね……。親がもう居ないから、放っておいても勝手に死ぬでしょう。だから苦しまない様に今殺してやるのも情けですが……」


エディの迷いの篭った言葉を聞いたテルラはハッと気付く。


「ここは心を鬼にして殺しましょう。レイ、カレン。思い出してください。僕達が48の不老不死の魔物を退治し、世界から魔物を一掃しないと、300年後に世界が消えるんですよ」


「ええ。ですから、わたくし達はハンターになったんですわ」


「つまり、ここで見逃しても、結局は根絶やしにしないといけないんです。世界と魔物の共存は出来ないんです」


カレンもハッと気付く。


「あ、そうか。魔物が1匹でも残ってたら世界が消えるんだから、ここで情けを掛けても結局は退治しないといけないのか」


テルラは覚悟を決めた表情で頷く。


「ですから、レイ。やってください。それが剣士である貴女の役目です。エディさんは手を出さないでください。これは僕達の問題ですから」


「ぐ……。幼子を手に掛けるのは辛いですが、やらないといけないのですね」


剣を握り直したレイは、木のウロに向かって進んだ。

辛さを噛み締め、切っ先を魔物に向ける。

つぶらな瞳で銀髪の女性を見上げる魔物の子供達。

その仕種は穢れを知らない子犬の様だった。


「可愛らしくても、魔物は魔物。いつかは滅びなければならないんです。許してくださいませ。でも、ああ、可愛い……。ああ、なんと言う理不尽。とても辛いですわ……ハァ、ハァ……」


顔面蒼白で息を荒げているレイを見上げているのに飽きたのか、魔物の子供達は自由に動き始めた。

時間を掛けると、きっと巣の外に出てしまうだろう。

逃げる為じゃなく、遊ぶ為に。

そうなれば追い掛けるのが面倒になるし、結局は野生動物のエサになるので、意を決して突きを繰り出した。

せめて苦しまずに逝ける様にと、持てる技術の全てを込めて。


「エイヤッ!」

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