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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第四話
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2

テルラ達は、今日も夜明けと共に行動を開始した。

レイとグレイは武器の手入れ。

カレンは旅の道具のチェックと補充。

そしてテルラとプリシゥアは教会へ情報収集に向かった。


「ただいま。不老不死の魔物に繋がりそうな情報は有りませんでした。この街も長居する必要は無さそうです。宿はこのまま引き払いましょう」


一時間もしない内に宿に帰って来たテルラは、出掛ける準備を終えた仲間達にそう告げた。


「そうですか。まぁ、短期間でホイホイ発見出来るのなら、テルラが大聖堂を出る必要がございませんですからね。のんびり参りましょう」


ベッドに座っているレイに頷くテルラ。


「では、朝食を済ませたら全員で役所に行きましょう。クエストをこなしませんと共用財布が寂しくなっちゃいますから」


「全員で行くと言ってるが、プリシゥアはどうした」


長銃を肩に掛け、その上から黒コートを羽織っているグレイに背後を指差されて振り向くテルラ。


「あれ? 居ませんね。宿の入り口までは居たんですけど」


レイは呆れて溜息を吐く。


「安全だと勝手に判断したら、すぐにどこかに行きますわね。道中でも何度も消えましたから、あの子の放浪癖はもう病気ですわ。仕事はちゃんとしていますので、もう諦めるしかありませんわね」


「諦めはしませんが、言っても聞かないなら放っておくしかありませんでしょう。好きなところで朝食を食べるのも構いません。これから行く役所に顔を出さなかったら、その時はさすがに叱りますが」


「勝手に好きなところで食べても良いの?」


カレンが訊くと、テルラは苦笑した。


「この旅は修行の場ではありませんし、お金を頂く仕事をしている時点で子供でもありません。ですので、自由行動を咎めたりはしません。ちゃんと事前に断って貰えれば、単独行動も咎めません。ですが、仕事をサボれば、それだけ収入が減る事だけは忘れないでください」


「分け前が増えるのは嬉しいから、誰がサボっても俺は気にしないぞ。元々俺は一人で働くつもりだったからな」


海賊帽を被ったグレイが不敵に笑う。


「とにかく朝食を食べ、役所に行きましょう」


テルラが話を纏め、宿の近所に有る食堂で腹を満たした。

そして、街の人に道を聞きながら役場を目指した。

役場の中では、十人程のハンターがクエスト専用掲示板を睨み付けていた。


「ほーん。ハンターって奴は結構居るんだな」


グレイが値踏みする様な目付きでハンターを観察する。

体格の良い男性しか居ない。

向こうが当たり前で、女子供しか居ないこっちが異常なのだが。


「まだまだ聖都に近いと思うのですが、魔物の害は結構有るみたいですね」


テルラは遠巻きで掲示板を伺う。

クエストは張り紙に書かれていて、内容が気に入ったらそれを剥がして窓口に持って行く。

ハンター達は、そのシステムに従って張り紙を剥がしている。

貼られている紙が多いので、この街には仕事が沢山有る事になる。


「おい、実入りの良い仕事が取られてるんじゃないのか? 俺達もさっさと仕事をしよう」


張り紙が減って行く様子を見ていたグレイが居ても立っても居られずに口を開く。


「まだプリシゥアが来ていないんですが……。しょうがないですね。僕達だけで仕事を受けましょう」


テルラ達も掲示板の前に立つ。


「どうだ? 良い仕事は有るか?」


背が低いグレイがやきもきしながら訊く。

テルラも同じ様な背なので、未だに掲示板を見ている数人のハンターが邪魔で依頼を見れていない。

なので鎧を着ているレイが男達の横に出る。


「お金になりそうな依頼は――三件ですわね。『畑を荒らす魔物退治』と『幽霊屋敷の真相究明』と『猫探し』。猫を見付けるだけで5000クラゥなのは割高ですわね。良い所の子なんでしょうね」


「一番金になるのはどれだ?」


グレイの質問に答えるのはカレン。


「幽霊屋敷ね」


「じゃ、それにしよう。さっさと取ってしまえ」


逸るグレイに首を横に振って見せるテルラ。


「僕達の目的は魔物退治です。畑荒らしの方にしましょう」


テルラ達の言い合いが聞こえたのか、残っていた数人のハンターは何も取らずに去って行った。


「ん? 何であいつ等は手ぶらで帰ったんだ?」


グレイが不思議がると、カレンが張り紙に人差し指を突き立てた。


「報酬額じゃない? 猫探しは5000クラゥ。魔物退治は1匹1万クラゥ。幽霊屋敷は原因が究明されたら5万クラゥ。パーティでやるなら宿代と食事で消える程度の仕事よ。それ以外のクエストも何かのついでならやるかなって額の報酬だし」


「なら、畑荒らしの魔物を大量に殺せば良いじゃないか。10匹殺せば今までの宿代と食費が取り戻せるぞ」


「それも出来ないみたい。――魔物の目撃者は農家の人で、畑が荒らされたから依頼を出した。魔物の数は恐らく3匹。5匹までなら報酬を出すが、それ以上は無理。って書いてある」


カレンが読んだ張り紙に顔を近付けるグレイ。


「むぅ。ケチだな。儲からないじゃないか。気軽に魔物が退治出来ないからハンターって言う専門職が出来てるのに、魔物を舐めてるのか?」


グレイが不貞腐れると、レイが予想を言う。


「ケチというより、コストパフォーマンスの問題でしょうね。最大5万クラゥ以上出すのなら、魔物に畑を荒らされた方が安く付くのでしょう。その程度の被害だと思われます」


「それもそうか。畑で作ってるのは野菜だろうから、3匹が食い散らかす程度ならそんなもんだろう。しょうがない、魔物退治を受けようか」


グレイは渋々納得すると、後ろから声を掛けられた。


「ちょっと待った。女の子が魔物退治に行くのは感心しないな」


そう言ったのは、外壁修理を警護していたこの街の勇者だった。

その隣にはプリシゥアも居る。


「プリシゥア! 貴女、どこに行ってらしたの?」


レイが詰め寄ると、プリシゥアが謝る前に勇者が頭を下げた。


「申し訳ない。彼女は、俺の妻を助けてくれたんだ。だから、俺に免じて許してくれ」


「貴方の妻? どう言う事ですの?」


レイが訝しむと、プリシゥアは頭を掻きながら説明した。


「宿の近くでお腹の大きな女の人がうずくまってたんで、お家まで送ってあげたんスよ。そしたら勇者さんのお家だったんスよ」


「人助けをしていたのですか。僕に声を掛けるヒマが無かったのなら不問にするしかありませんね。以後、気を付けてください」


「しょうがありませんわね」


テルラが許したので、レイも溜息を吐きながら許した。

パーティの雰囲気が和らいだので、勇者が話を元に戻した。


「それはそれとして、魔物退治は若い女の子がする物じゃない。どうしてもしなくちゃならないんだったら、俺も一緒に行く」


「何でだよ。分け前が減るからやだよ。それに、多分相手は『大ネズミ』だ。それだったら俺一人でもやれるぞ」


グレイを見て眉を上げる勇者。


「ほう、君は魔物に詳しいのか」


「詳しくはない。状況から予想しているだけだ。張り紙には魔物の情報が書かれていた。その特徴が『大ネズミ』と似ている。『大ネズミ』は船に忍び込んで食料を食ったりするから、俺も銃の訓練がてら撃ち殺した事が有る。そいつらなら殺し方は心得ている」


「その予想が外れていたらどうする?」


「みんなで知恵を出して何とかする。そうする為にパーティを組んでいる」


グレイは早口で言い放った。

その態度の悪さに勇者が面食らっている。


「で、どうする? 受ける? 断る? 一緒に行く? 行かない?」


このままだと空気が悪くなるだけなので、カレンが訊く。

少女達の視線がリーダーであるテルラに集まった。

それを受けて勇者も少年を見た。


「そうですね。戦い慣れている勇者様の実践を見るのも勉強になりそうですので、慣れていない今の僕達なら一緒に行くのも良いですね。ただし、僕達の分け前ルールに従うのなら、ですが」


「勿論従うよ。身重な妻を助けて貰ったから無償でも良いんだけど、何かと要り用でね。タダ働きは出来ないんだ。ゴメンよ」


「良いですか? グレイ」


改めて訊くテルラから顔を背けるグレイ。


「こんな安い仕事をしていて、俺は船を買えるのか?」


「仕事のコツを習得して効率良く動ける様になれれば、きっと買えますよ。今回、勇者様と一緒に行くのはそのコツのヒントを得るためです。報酬が減るのは『勉強代』です」


「なら、辛抱してリーダーに従うよ」


そう言ったグレイは、顎で掲示板を指示した。

頷いたテルラは、『畑を荒らす魔物退治』の張り紙を剥がして窓口へと向かった。

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