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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第四話
28/277

1

五人の若者が、雑草がちらほらと生えている街道を歩いていた。

魔物も出ず、怪しい人影等も一切無いので、道端に生えている花を全員で眺める余裕さえ有る旅になっていた。


「次の街が見えて来ましたわ」


先頭を歩く剣士のレイが前方を指差した。

街を囲む木製の壁に全員の視線が集中する。

高さ二メートル程度で小さな隙間があちこちに有るので、人間なら簡単に乗り越えられる。

侵入者対策ではなく、野生動物避け、魔物避けだろう。


「日が沈むまでまだまだ時間が有るから、宿を探す前に役所に行く? さすがにこの街では仕事しないとマズイでしょ」


テルラと共に荷物持ちを担当しているカレンが言うと、殿を務めているプリシゥアが難色を示した。


「今有るクエストは夜間の仕事だけだと思うっスよ。私ら、夜の仕事が出来るほど練度は高くないと思うっス。止めといた方が良いっス」


「プリシゥアがそんな事を言うなんて珍しいですね。確かにその通りだと思います。ですので、今日は宿で休みましょう」


テルラが関心すると、プリシゥアと並んで殿を務めているグレイが半笑いになった。


「夜動きたくないだけじゃないのか?」


「そりゃ動きたくないっスよ。夜は悪魔と動物の時間っスから。僧兵見習いが一番脱落するのは夜間訓練だってくらい夜の仕事は辛いっス。ちなみに、脱落理由の二番目は見習いになり立ての基礎体力作りっス」


「え……。基礎体力作りって、大聖堂の庭でやっていたアレですよね? アレより辛いんですか?」


テルラが振り向いて苦笑いする。

それに頷いて応えるプリシゥア。

この国の宗教の中心を担う大聖堂の跡取りであるテルラは、10年の人生のほとんどを大聖堂の中で過ごして来た。

友達と外で遊ぶ事が許される身分ではないし、勉強も大聖堂の中なら十二分に出来るからだ。

しかし幼子の身で勉強ばかりだと気が滅入るので、空いた時間は窓の外を眺める事が多かった。

そこで僧兵達の修行を良く目にしていた。

成人前の男女が吐くまで走らされていたり、組手の練習で気絶して水を掛けられたりしているのを見て、

自分はあんな事は出来ないなと思った物だった。

それを見たからこそ僧兵達を尊敬したし、そんな彼等に護られても恥ずかしくない大人になろうと決心したりもした。

夜間訓練は、それよりも辛いとプリシゥアは言った。

当分の間、少なくとも魔物退治が難無く行える様になるまでは、夜の仕事は避けようと思うテルラだった。


「あら? あそこに人がいっぱい居ますが、何をなさっているんでしょうか」


レイが指差す方向。

村の入り口である木の門の右方向100メートルくらいのところで大勢の人が居た。

それを見たカレンが「ああ」と声を出す。


「あれは多分、街を囲む壁を直してるんだよ。ここみたいに壁が木で出来ているところは、魔物の攻撃とかで結構壊れるから」


外の知識の乏しいテルラが感心する。


「へぇ、そうなんですか」


「ウチの村もそうだったから。こう言う時は勇者が警備しているはず。ホラ、居た」


確かに、立派な鎧を着た大男が立っていた。

実際には魔物の襲撃に備えているのだろうが、丸太を切ったり運んだりしている男達を監視する現場監督の様な佇まいにしか見えない。


「前から不思議だったんだが、ハンターと勇者って何が違うんだ? どっちもクエストを受けて仕事をするんだろ? 同じに聞こえるが」


グレイの疑問に応えるのはテルラ。


「簡単に分けると、僕達みたいに旅をしているのがハンターで、村や街に留まり続けるのが勇者です」


「なるほど、それは大きな違いだな。じゃ、勇者が街を離れたらハンターと呼ばれるのか? その逆も」


「そうなりますが、ハンターになるには許可証が必要になりますから、気軽には出来ません。勇者には許可証が必要ありませんから、そう言った点からもハードルが有りますね」


「勇者は許可証無しでなれるのか」


「認識票は支給されますけどね。勇者は一か所に留まり続けるので、そこの住人に信用され、頼りにされます。ですので、余程の事情がなければ街の人が辞めさせてくれないらしいです。魔物を退治出来るその街の若者が勇者になる事が多いそうなので、勇者の方も余程の事情がなければ故郷を捨てたりはしないでしょうね」


「ふーん。と言う事は、勇者がいっぱい居る村だとハンターの仕事が無い事も有るのか」


「グレイは賢いですね。勇者が大勢居る可能性を、僕は思い付きませんでした。きっとそう言う事も有るでしょうね」


「賢いとか言うな。子供みたいじゃないか。――さ、宿で休もう」


照れ臭そうにそっぽを向いたグレイは、隊列を崩して一番に村に中に入って行った。

始めて見るグレイの子供っぽい仕種を見た一行は、顔を見合わせて笑んだ後、後を追って村の門を潜った。

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