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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第三話
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カレンが受けたテルラパーティ初のクエストは、依頼者の遺体を発見した事により、役所への通報と言う形で幕を閉じた。

遺体の持ち物には一切手を付けていないので、儲けはゼロだった。

魔法溜まりの洞窟は、殺人現場かもしれないと言う理由で役人や騎士が即日立ち入り禁止にしてしまった。

その翌日にグレイのハンター許可証が届いた。


「これが許可証か。髪の色とか身長とかの身体的特徴が書かれているんだな。得意武器は銃。10歳。――年齢が書かれているが、誕生日が来たら更新しないといけないのか?」


グレイに許可証を手渡したテルラが頷く。


「ルールとしてはそうですが、年齢不詳のハンターもいらっしゃいますので、更新を怠っても罰則はありません。ただ、そう言う部分もしっかりしていれば、信用はされます」


「信用か。真っ当な仕事には必要な物なんだろうな」


「そして認識票とバッジです」


それらは必ず身に付けなければならないと説明を受けたグレイは、早速バッジを黒コートの胸に着けた。

しかし、二枚の金属プレートにネックレスチェーンが通されている認識票の方は目の高さに掲げたまま身に着けようとしなかった。


「海賊としては遺体の身元が分かる認識票は着けたくないが、ハンターとして働くのなら着けなくてはいけないか」


「嫌でも必ず身に着けてください。ハンターを辞めるとなった時も、そのまま捨ててはいけません。誰かに拾われたら死んだと勘違いされますから。捨てる時は表面を削って名前と番号を分からなくすれば良いでしょう」


「そんな面倒な事はしない。俺がハンターを辞める時は船を手に入れた時だろうから、海のど真ん中に投げ捨てるさ」


「誰かに拾われなければ良いんですから、それでも良いですね。――では、僕とプリシゥアは役所に行って遺体発見時の証言をして来ます。みなさん、特にカレンには話を伺う可能性が有りますので、許しが出るまで教会の外に出てはなりません。良いですね?」


「分かりましたわ」


誰も返事をしなかったので、黙って成り行きを見守っていたレイが頷いた。

テルラ達の退室を見送ってから優雅に立ち上がるレイ。


「では、わたくしは僧兵を相手に剣術の訓練でも致しますわ」


レイも立ち去ったので、椅子しかない休憩室の中はカレンとグレイの二人だけとなる。


「なぁ、カレン」


「ん?」


クエストが衝撃の結末となったショックで呆然としていたカレンは、薄ぼんやりとした声で返事をした。


「お前を海賊の手下にすると言う話をしたな。覚えてるか?」


「うん」


「もしも本気にしていたのなら、あの話は無かった事にしてくれ。お前は海賊になれない。少なくとも、俺の手下にはいらん」


「ど、どうして?」


「死体から財布を取れなかったからだ。普通ではない状況に戸惑っていたのは分かるが、それでも金品を頂くのが海賊なんだよ。お前は、カレンは、それが出来なかった。海賊失格だ」


「そんな……」


いらないと断言されてガッカリするカレンに微笑を向けるグレイ。


「なぜそんな顔をする? これは喜ぶべき事だぞ? だって、悪事を働くより、真っ当なハンターをした方がカレンに合っているって事だからな」


そう言い残し、グレイは部屋を出て行った。

残されたカレンはしばらくその場でボンヤリしていたが、トイレに立ったのを切っ掛けにして教会内を散歩した。

元々深く考え事をするのが苦手なので、グレイがそれで良いと言うのならそれで良いと言う事にして気分を切り替えた。

ハンター一本で頑張ろう。

夕方になると、テルラとプリシゥアがやっと帰って来た。


「おかえりなさい、テルラ」


どうやって嗅ぎ付けるのか、レイが一番に出迎えた。


「服にほつれが見えますけど、何かありましたか?」


「ちょっと剣の修行をしていただけですわ。なるべく早めに裁縫を覚えないといけませんね」


「そうですね。――では、全員を集めてください。捜査の結果をお伝えします」


椅子しかない休憩室にパーティメンバーが集まった事を確認したテルラは、立ったままで語り始めた。


「遺体で見付かった依頼者の死因は、剣で斬られたせいだと判明しました。そして、同じ場で殺されていた牛頭の巨人も同じ剣で殺害されたと判明しました。つまり、牛頭の巨人と依頼者を殺害したのは同一人物であると思われます」


「殺したのは王子の護衛だろうな」


グレイの言葉に頷くテルラ。


「切り傷はとても大きかったそうです。王子の護衛が持っていた剣も普通より大きかったので、僕もそう思いました。更に、牛頭の巨人の下に有った図形は、何かを召喚しようとした跡らしいと、この街の魔法使いの人が確認してくださいました。王子の潜在能力と符合するので、悪魔召喚をしようとしていた事に間違いないでしょう」


「ハイタッチ王子の潜在能力は何ですの?」


「『パンデモニウムの裏。相当な望みが必要だが、新たな神、もしくは世界の敵を召喚出来る。ただし現実改変により決して望みが叶わない』です」


「俺の潜在能力に似ているな。俺が対価で損をする様に、あいつは望みが叶わないのか」


自嘲気味の半笑いで言うグレイに頷くテルラ。


「かなり珍妙な能力ですが、今度会ったらその事を伝えた方が良いでしょうね。現場の雰囲気がかなり怪しかったので、良くない物、つまり悪魔を召喚するつもりだったのではないかと僕は思っています。望みが叶うまで同様の行為を続けるでしょう。新たな神ならともかく、世界の敵が召喚されたらとんでもない事になりそうですから、説得して止めないといけません」


「手遅れの様な気もしますが……分かりましたわ」


レイが頷くと、他の二人も頷いた。


「潜在能力の事を知らない役場はこう推理しました。『異国の王子が魔法溜まりで何かを召喚しようとした。その場面を依頼者に見られたので殺害した』と。つまり、殺人事件と断定して捜査が続行されます」


「しかし、相手はランドビーク王国第三王子。その推理が当たっていたとしても、罪には問えないのではなくて? それこそ、わたくしが王女として抗議しなければ問題にもならないのではなくて?」


レイが面倒臭そうに言うと、テルラは首を横に振った。


「いいえ。死人が出ているので、さすがに放置は出来ません。ですので、然るべきルートを使って抗議と説明を求める書簡を送るそうです。無視をしたら国際問題になるので、何らかの返答が有るでしょう」


テルラは肩を落として続ける。


「と言う訳で、事件の解決にはかなりの日数が掛かりそうです。僕達が出来るのはここまでです。依頼に有ったロケットと指輪も、遺体の確認に来たご家族の手に渡りました。残念ながら、今回はタダ働き決定です」


グレイが溜息を吐く。


「クソが、と言いたいが、この結果は誰にも予想出来なかった。こう言う事も有ると言う勉強代として納得するしかないな」


「勉強代ですか。良い考えです。と言う訳で、明日には次の街に出発したいと思います。良いですね? カレン」


返事を求められたカレンは、午前中とは打って変わってあっけらかんとした顔で頷いた。


「ロケットと指輪が先生の家族に渡ったのなら、それで良いです。一応、依頼を終えたって事になりますから。彼も、きっともう化けて出ないでしょう」


「では、解散して旅立ちの準備を始めましょう」


「はい」


パーティメンバー全員が立ち上がり、装備の点検や保存食の買い足しの為に一斉に退室した。

第三話・完

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