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テルラ一行は門番が居ない城門を潜った。
他の国の王都と同じく城門内側近くに宿屋が有ったので早速部屋を取ろうと思ったが、グレイが首を傾げた。
「リビラーナに入ってからの状況から考えると、旅人が居るとは思えない。無策で入っても良いんだろうか」
「確かに怪しまれそうですね……。しかし、王都内での野宿は無理が有ります。どうしたら良いでしょうか」
宿の前で相談していると、プリシゥアの背から降りて松葉杖を突いたカゲロウが溜息を吐いた。
「貴方達って、普段のほほんってしてるくせに余計なところは慎重よね。多分大丈夫だから入りましょ。疲れたわ」
「ずっと私におぶわれてたクセに疲れたとか良く言うっス。でも、ここで立ちんぼも目立つっスから、さっさと入った方が良いと思うっス」
プリシゥアの言葉に反対意見が出なかったので、務めて平然と宿に入った。
カウンターに誰も居なかったが、ベルを鳴らしたらすぐにおかみさんが出て来た。
「いらっしゃい。あら? カゲロウ様じゃないですか。お久しぶりです」
「こんにちは。この人数だけど、部屋は空いてる?」
「相変わらずガラガラですよ。ええと、君は男の子かな? なら、部屋はふたつ? 大部屋と個室」
「それで良いわよね? ……何その目は」
テルラパーティ全員に見詰められている事に気付いたカレロウがたじろぐ。
「お知り合いのお店でしたか?」
テルラの質問に肩を竦めて見せるカゲロウ。
「私、この国の武将よ? 国民に幻術を使う意味も余計な魔力も無いから、名前も顔も売れているわ。普段は国外に出てるけど、たまに国内で宿泊する時はここを使うし」
そう言ったカゲロウは、自分のリュックから香辛料や調味料を取り出した。
一般家庭なら一ヶ月くらいは持ちそうな量だった。
「外貨を持ち込んでもしょうがないから、調味料で宿代にしたいんだけど、どう? これで良いかな?」
「まぁまぁ、助かります。数日前に王女様が物資の仕入れをしてくださったから今は大丈夫ですけど、すぐに足りなくなりますからね」
喜んで調味料を受け取ったおかみさんにテルラが質問する。
「ここに来るまでに無人の村をいくつも見ましたが、どう言う事でしょうか」
おかみさんは訝し気な顔をしたが、カゲロウの連れだからと警戒心無く応える。
「何年も鎖国しているからね、この通り物資不足なんだよ。だからほぼ全ての国民が王都に集まってる。王女様がしてくださる物資の仕入れは、王都でしか売りに出されないからね。おととしくらいまでは補給部隊が居たそうなんだけど、外の戦況が悪いからか今はもうどこも回ってないらしいね」
「グラシラドが本気で国境を取りに来てるからよ。昔は10年に一人クラスの魔法の天才が出ないと国を興したり国境を攻めたりしなかったそうだから、それを知ってる世代から見れば戦況は絶望的に悪いわね」
テルラ達にも説明する様に言うカゲロウ。
「人が集まると食料品不足になるから元々の王都住民は困るけど、国策だしお互い様だから追い返す訳にも行かない。ま、政治に頑張って貰いたい、ってところかね」
カウンターに並べられていた調味料を後ろに置き直しながら喋り続けるおかみさん。
「戦争の脅威は無いし、奴隷に行っていた親戚も帰って来た。だから、鎖国には賛成してるよ。大体の人はそう思ってるんじゃないかな。だから禁欲生活も我慢出来る。でも、さすがに長過ぎるかな。戦争に勝って、外の人達が自由に故郷の村に帰れる様に頑張ってくださいよ、カゲロウ様」
「うん、頑張るわ」
内心は亡命したがっているカゲロウは、臆面もなく笑顔で頷いた。