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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第三十話
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2

「もう居ない人の話は横に置いといて」


松葉杖を脇に挟んだまま物を横に置くジェスチャーをする女魔法使い。


「南の国は戦争のせいで魔法使いの障碍者が多い。私はあの海賊のせいだけどね。身体の一部分でも欠損すると魔力の循環が滞って魔法の威力が下がるから、武将の引退理由はそれが多いの」


「戦争って殺し合いだって思ってたけど、欠損で済む事が多いんだね。王都でもここでもそう言う人結構居たから」


カレンの言葉に頷く女魔法使い。


「戦ってる時は勿論殺す気でやってるよ。戦死者も普通に出る。でも、魔法使いは防御魔法が使えるから。戦場に行くんだから当然覚える。だから、武将同士の戦いは防御魔法の削り合いになる。負けたら大怪我をする」


「なるほど」


「私も片足を失った事で健康の大切さを知った。平穏に長生きしたいと強く思う様になった。ルーメン様が計画している新世界計画は、雷神の言う通りなら失敗するだろうね。だから自分一人でもエルカノートに亡命したい。どうかな?」


「ちょっと待て、待てー!」


赤髪の少女が黒コートをはためかせて走って来た。

突然の大声に身構えたテルラ達は、すぐに緊張を解く。


「お前達は迷い無く頷くお人好しだから、柄にも無く焦ったぞ」


「おかえりなさい、グレイ」


「おう、ただいまだ、テルラ。話は通して来たが、どう出るかは向こうさん次第だ。ミマルンの方は期待薄だが。それよりも、エルカノートに亡命したいって聞こえたんだが、どう言う事だ?」


女魔法使いは肩で息をしているグレイに向き直る。


「片足を失ったから平和な国で余生を過ごしたいってだけよ。要望が有ればエルカノートのために働いても良いわ」


「良く言う。俺達を騙したくせに。ハイタッチ王子を救ってやってくれとか言ってただろ」


「嫌ね、騙しただなんて。あれは本心よ。あんなに思い通りに動いてくれる人を使い捨てになんかしたくなかったもの。結果はダメだったけど」


「とにかく、俺はお前を信用していない。――ところで、様子がおかしいが、俺が居ない間に何が有った?」


周囲を見渡すグレイにレイが説明する。


「わたくし達が砂漠に行っている間に奴隷狩りに襲われた様ですわ。しかし、ルーメンの設置型魔法で全員がリビラーナ国内に避難したそうですわ」


プリシゥアが続く。


「私達は取り残されたっス。信用されてなかったみたいっスねぇ。これからどうするかを相談して、補給がてらミマルンに奴隷狩りの事を聞きに行こう、って話になったっス。その前に亀の魔物を退治しようとしたら、カゲロウに止められて、ここで立ち話っス。で、グレイが来たっス」


「グラシラドに戻るのか? リビラーナに行かないのか? 魔物の大本の王様が居るんだろ?」


テルラが頷く。


「リビラーナに入りたいのは山々ですが、砂漠帰りで物資が足りません。一旦都会に帰って補給しないと、魔物ひしめく国境を超えるのは無謀です」


「ふむふむ」


無人となった村を見渡したグレイは、右目を覆っている百合の花を模した眼帯の位置を微調整した。

変な形をしているせいで、ちょっとズレると違和感でかゆい。


「俺の考えを言っても良いか? テルラ。勿論ダメならダメで良い」


「どうぞ。グレイも僕達の仲間なので、自由に発言してください」


「なら――カゲロウ。お前、数日だけ俺達の仲間になって、リビラーナ国内を案内しろ。案内役が居れば、知らない土地でも少ない物資で行けるだろ。不足分は、村の家を回って食料を分けて貰おう。盗みになるが、どうせ帰って来ないだろうし、腐らせるよりは良い」


「はぁ? 私がお前達の仲間に? いやまぁ、仲間になる事自体は別に良いけど、それってルーメン様を裏切る事にならない? 分の悪い博打は私の趣味じゃないんだけど」


「俺は海賊だが、こうして手伝えばある特例が貰える話になっている。カゲロウも、不死の魔物を退治する手伝いをすれば犯罪の免除が貰えるんじゃないか? 亡命するなら居るだろ」


「私が犯罪者だと言う口ぶりね」


「ランドビークから見れば大犯罪者だろう。ランドビークの王子を洗脳して王族殺しをさせたんだから。それを無視しての亡命は可能なのか? レイ」


「そうですわねぇ。亡命自体は可能でしょう。ですが、両国の関係を壊さぬ様、カゲロウの情報をランドビークに伝える必要は有りますね。国を揺るがす大事件でしたから、秘密には出来ません。引き渡し請求が有れば断れないでしょう」


肩を竦めるレイ。

エルカノートの王女に知られた以上、そうしなければ北側の国でも戦争一歩手前の緊張状態になる。

反論出来ずに歯噛みするカゲロウ。

グレイは、自分の立場を理解したカゲロウを指差す。


「だが、俺達に協力すれば、ランドビークに伝える情報に恩赦を付け加えられるだろう。今のままなら即刻斬首だが、恩赦が有れば言い訳くらいは聞いて貰えるんじゃないか? どうだ? テルラ」


「悪くない話だと思います。反対意見が出なければ、グレイの案で話を進めても良いでしょう」


「後はカゲロウの決断だけだ」


テルラパーティの全員に注目されたカゲロウは、たっぷり五分悩んだ。


「……生き残るにはエルカノートの王女に気に入られた方が良い、と判断するわ。でも、数日だけよ。仮のメンバーになって、リビラーナ国内の案内だけするわ。私はまだリビラーナの武将でルーメン様の部下だからね。スパイの訓練は受けてないから、二足のわらじはさすがに怖いわ」

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