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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第三十話
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1

無人となった隠れ里の村長邸で静かな朝食を終えたテルラ達は、使った食器を洗うのは後回しにして会議を始めた。


「僕達はこれからどうすべきでしょうか。危険を冒してでもリビラーナ国内に侵入すべきでしょうか。それとも、今まで通り不死の魔物を倒す旅に出るべきでしょうか」


金髪で赤と青のオッドアイの少年が深刻に言うと、地響きがした。

村長邸の前を巨大な亀の魔物が横切って行く。

村人が居なくなっても、与えられた仕事が有る亀は働き、やる事が無い亀は無意味に徘徊していた。


「旅を再開させるのなら、まずは亀退治ですわね」


武装していない銀髪のレイが窓の外を見る。

飼い慣らされて村の労働力になっている無害な魔物だが、魔物は全て倒さなければならないので、旅を続けるなら見逃す事は出来ない。


「無策でリビラーナに入るのは危険っスし、奴隷狩りの真実も気になるっスから、一旦グラシラドの王都に戻った方が良いんじゃないっスかね」


亜麻色の髪のプリシゥアが言うと、黒髪をヘアバンドで留めてオデコを出しているカレンもそれに同意した。


「グレイもそっちに行ってるはずだから合流するのも良いかもね。リビラーナ国に行くとしても、食料が足りないし。砂漠から帰って来たばかりだからね」


テルラは女性陣の顔を見渡した。

日差し避けのフードを被っていたが、うっすらと日焼けしている。

自分も彼女達と同じくらい黒くなっているだろう。


「……そうですね。では、グラシラドの王都に引き返しましょうか。そちらの道も山賊やらで危険ですが、物資不足はいかんともし難いですし」


反対意見が出なかったので、食器を片付けてから素早く旅支度をした。

通常の状態ではないのでほんのりと警戒しながら村長邸を出る。


「では、早速」


指の輪を作ったテルラは、ガーネットの左目で周囲を見渡した。

すると、すぐ近くに潜在能力を表す文字が浮かんでいた。


「ここの亀を倒すつもりなら、ちょっと待ってくれないかな」


いきなり目の前に現れる女魔法使い。

見えた潜在能力は彼女の物だった。


「貴女は……カゲロウ」


「認識疎外の魔法で隠れてたけど、その左目には見えてたみたいだから」


「全員リビラーナに行ったんじゃなかったんスか? なんでカゲロウが残ってるんスか?」


松葉杖を突いている女魔法使いとテルラの間に立つプリシゥア。

レイも腰に差した剣の柄を撫でている。


「まぁまぁ、そう警戒しないで。この村は避難民を匿うための物なのは知ってるでしょ? だから、無人になっているのを知らずに逃げて来る人も出て来ると思うんだ。そう言う人のために魔法で隠れられる私が残った。それだけだから私に敵意は無いよ」


「と言う事は、避難民を誘導している協力者も各国に散っているんですね」


冷静に言うレイを指差す女魔法使い。


「さすが王女様、鋭いね。そんな訳で、この村はまた人口を増やすかも知れないから、

亀を退治されると困るんだ。今は見逃してよ」


女魔法使いは水場に向かっている小さな亀の列を見る。

魔物である事を気にしなければ、とてもほのぼのとした光景だ。


「元々は違ったんだよね、この村の役割。避難民には身体を欠損させた武将も居て、そう言う人は気性が荒い。そんな人をリビラーナに入れる訳には行かないから、記憶を消して穏やかな一般人にしてたんだよね」


「なるほど。隠れ里と言う、決して安全ではない村を作っていたのはそう言う事情が有ったんですか」


剣の柄から手を離したレイに頷く女魔法使い。


「私はまどろっこしいと思ってた。私は短気な方だから、ハイタッチが王族皆殺しにした時、ランドビーク王国を乗っ取ったら良いとルーメン様に進言した。神だ新世界だと言うより、そっちの方が現実的でしょ?」


でしょ? と言われても、テルラ達は何とも返事が出来ない。


「北の国なら平和だから、避難武将で部隊を組んで攻めれば手っ取り早いしね。でも、拒否された。何だかんだ言っても甘いのよ、ルーメンは」


「……ハイタッチ王子がそんな事をした原因、もしかしたらアンタじゃないでしょうね?」


カレンが訊くと、女魔法使いは一瞬動きを止めた後、曖昧に笑んで誤魔化そうとした。

それを見て察し、引くカレン。


「まじかよ……」


「いやいや、直接はしてないわよ。壊れ掛けててもう使い物になりそうもなかったので、最後のつもりで神の召喚実験に使っただけ。私だってあんな無茶するとは思わなかったわよ。まさか王族を生贄にした召喚をするなんて。しかも失敗してるし。ホントよ?」


女魔法使いは、ホントホント、と軽く笑み続けた。

とても胡散臭かった。

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