2
テルラ達が野営の準備を始めると、いきなりコテージが現れた。
高床式で、カップケーキみたいな形の可愛らしい物だった。
「……こんな物、ここに有ったっけ?」
大きなリュックからテント一式を取り出そうとしていたカレンが呟く。
他の仲間達も、水使いフレッシも驚きで固まっている。
「これが有るから一人旅をしたかったんですよね。これはストレージと呼ばれる物で、ギフトのひとつです。今まで秘密にしていましたが、今更良いでしょう。リビングでの雑魚寝で宜しければ、こちらに入った方が安全ですよ」
ルーメンは玄関に続く階段を上ってコテージの中に入って行った。
それを追って、フレッシも中に入る。
残された女性陣は無言で見詰め合い、それから視線でテルラに指示を願った。
「……折角ですので、安全な方に行きましょうか」
野営の準備を切り上げてぞろぞろとコテージに入ると、すぐにリビングの様な空間に出た。
中心にテーブルとソファーが有り、ルーメンが座って一息吐いていた。
「寝室はひとつしかなくて、私が使います。客間もひとつしかなくて個室だから、男の子のテルラくんが使った方が良いでしょう。そちらがキッチン。隣が浴室。トイレは有りません」
リビングは円形で、外側に向かってそれぞれの部屋が有る様だ。
だからリビングにはドアばかりが有って窓が無い。
天井、もしくは屋根裏部屋に続くはしごが有るが、ルーメンはそれについては触れなかった。
「キッチン内部に隣の部屋が有って、そこは冷蔵庫になっています。昨日の内に食材をいっぱい詰め込んで置いたので、この旅では食料に困る事は無いでしょう。ちなみに、この中は明るいとは思いませんか? その秘密はアレです」
天井を指差すルーメン。
呆気に取られているテルラ達は、素直に天井を見た。
光り輝く光の玉みたいな物が無数に埋め込まれている。
「アレは電球と言って、電気で動く物です。なぜこんな事をわざわざ説明するかと言うと、雷神様が来ていた服も電気で動く物だったからです」
テルラがルーメンに向き直る。
「勝手に動いて天使みたいな形になった、あの服ですか?」
「ザックリと言うと、錬金術が進化すると科学になります。私が転生する前の世界は、科学の世界でした。だから分かりました。しかし、雷神様が着ていた物は、私の前世よりも進んだ物でした。超科学と言っても良いでしょう」
リュックを床に下ろしながら慎重に理解するカレン。
「錬金術が進化すると科学になって、それよりも進むと超科学になる、と言う事ですか? ええと、それってつまり、雷神様は凄い未来から来たって事ですか?」
「凄い未来と同じ状態の異世界から来た、ですね。なので、雷神様に色々と訊きたかったんですが……拒否されてしまいました。でもまぁ、雷神様は図書都市に行きましたから、会おうと思えばまた会えます。希望はまだ有るでしょう」
テルラ達が立ちっ放しな事に気付いたルーメンは、座ってくださいと言った。
ソファーは広いので、全員が座れた。
「あの。ルーメン様がおっしゃっているギフトは、僕達が言う潜在能力の様な物なんですよね?」
「呼び捨てで良いわよ、テルラくん。――君のオッドアイで見れないみたいだから厳密には違うでしょうけど、後天的に女神から貰った物、と言う括りなら同じでしょうね」
「僕も呼び捨てでお願いします」
私も私も、と手を上げるテルラのパーティメンバー。
ルーメンが笑顔で頷いたのを見届けてから話を続けるテルラ。
「――それで、ですね、ルーメン。貴女はギフトを複数お持ちになっているみたいですが、いくつ持っているんですか?」
「それは秘密です。転生したボーナスは、ルール違反レベルで強力な物ばかりなので、手の内を晒すと世界を破壊する魔王にもなり得ますから。でも――」
自分の手を見詰めるルーメン。
「私が新世界の神になれれば話が早いんですが、何をどう想像しても、創造しても、神の域には届かなかった。転生者は神になれないらしい。ですので、テルラとカレンの存在が、私の、リビラーナの救いなんです」
さて、と膝を叩いて立ち上がるルーメン。
「お話しする時間はいっぱいあります。休憩はこれくらいにして、取り敢えず夕食の準備を始めましょうか」