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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第二十九話
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朝日が昇ると共に、村民が仕事だ朝食だと動き出す。

今日は村長邸からピアノの音色が流れ出ていた。

決して広くない村なので、起きているほとんどの人がその音色を耳にした。

その音色の意味を知っている一部の村人は、畑仕事に出るための準備を途中で止めて別の準備を始めた。


「素敵な曲ですね。なんて曲名ですか?」


ピアノ部屋の入り口で拍手する金髪のテルラ。

ドアも窓も全開だったので、他の仲間も全員集まっている。


「練習用で覚えたピアノソナタなので、曲名は知りません。前世の幼い日に繰り返し引いたのでもう飽きているんですが、不思議と引きたくなる時が有るんですよね」


ピアノを閉じたオレンジ髪のルーメンは、傍らに置いていたリュックを背負った。


「では参りましょうか。準備は宜しいですか?」


「お待ちください!」


申し訳ございませんと断りながら入り口を塞いでいるテルラ達を掻き分け、一人の女がルーメンの前で跪いた。

魔法使いっぽい格好なので、村長邸の護衛をしている人だろう。


「自分は水の魔法が得意なので、砂漠では必須です。どうか同行をお許しください」


「必要有りません。村の警備が減るのは困りますので、お留守番をお願いします」


女の肌の色は他の村人と比べれば薄い程度で、髪は黒い。

水をイメージさせる色ではないので、武将になれるほどの能力は無いのかも知れない。


「自分一人では力不足なら、男になりますが、他の水魔法使いも同行したいと言っています。私達はルーメン様に救っていただいた恩返しがしたいのです!」


命懸けなのでルーメンは渋ったが、水使いの意志が固く引き下がらない。

むしろ、命が掛かってるからこそ、ルーメンを守りたいんだろう。

部屋の外からは、他の護衛が様子を伺っている気配がする。


「……まったく、しょうがないなぁ。モタモタしてるとテルラくん達の迷惑になるので私が折れましょう。大人数で動くとどうしても目立ってしまうので、貴女だけなら同行を許可します」


「ありがとうございます! もう準備は整えてあります!」


立ち上がった水使いは、テルラ達に頭を下げた。


「私はフレッシと申します。よろしくお願いします!」


元気良く言ったフレッシは、その場で魔法使いのローブを脱いだ。

下に旅装束を着ていた。

廊下に控えていた仲間達から旅用のコートとリュックを受け取り、数分で準備を終えた。

赤髪黒コートで百合の花の眼帯を着けているグレイがテルラの肩を叩く。


「ちょっと良いか? テルラに許可を取りたいんだが、俺は別行動しても良いか? 砂漠行きは、行きたくなければ行かなくても良いんだろう?」


「砂漠は命懸けの危険な旅になりますので、強制はしません。でも、別行動と言う事は、何か目的が有るんですよね?」


「本音は海の女が乾いた地域に行くのが不安なだけだけどな。まぁ、活動費を貰っているから、仕事はする。リビラーナが無くならない様に、オペレッタとミマルンに話を通しておこうかと、な。それでだ。ルーメンにも許可を取りたいんだが」


「一人で村の外に出たいのなら記憶を消すと私は言いました。それをどうにかしたい、と?」


「話が早くて助かる。記憶を少しでも消されるとこっちに有利な交渉が出来ないんじゃないかと思うんだ。絶対に村の位置を口外しないから、俺を信用してくれないか?」


「うーん、そうですねぇ……」


「担保に親の形見の銃を一丁置いて行っても良いぞ。それ以上の物は無い」


ルーメンがグレイとテルラの顔を交互に見ながら考えていると、黒髪をヘアバンドで留めてオデコを出しているカレンが話に入って来た。


「はいはーい! グレイ一人だと不安だから、私も一緒にミマルンのとこに行きたいな!」


「いや、俺一人の方が良い。船の上でロープを伝う訓練を受けていたので、猿みたいに木の上を渡って行こうと思っている。パンツ丸出しになるから誰にも見られたくないし、その動きはカレンには無理だ。諦めて荷物持ち頑張れ」


黒コートの下に着ているタイトなミニスカートを見せるグレイ。

アッサリと断られたカレンは、諦めて肩を落とした。


「はぅーん。一人でこの村に残るのも怖いから、砂漠行きかぁ」


砂漠行きなので、荷物持ちが背負うリュックの中は水筒が多めに詰められている。

かなり重いが、これが命綱になるのでカレンの役目は重要だ。


「分かりました。形見の銃をこのピアノに隠してください。リビラーナのためになるなら、それで信用しましょう。――それでは出発しましょう」


とっくに旅立ちの準備を終えていたテルラ達とルーメンは、大勢の村人と数人の英雄に見送られて村を後にした。

魔物や野盗が出易い国境付近や大通りを通らないと事前の打ち合わせで決めていたので、道無き山道を進む。

数日後。

山の起伏が無くなり、樹木が少なくなって来た。

賊や魔物との戦闘が数回有ったが、予定通りの速度で進めた。

順調だ。

これ以上進むと荒野になり、その先に砂漠が有る。


「今日は無理をせずにここで一泊しましょう。この治安で見晴らしの良い荒野にテントを張るのは危険です。明日は夜明けと共に荒野に入りましょう」


テルラの指示に、ルーメン達も素直に従った。

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