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朝の散歩を終えて村長邸に戻ったテルラ達は、お客様として不自由無い扱いを受けた。
とは言え余所者が許可無く外に出る事は許されませんと釘を刺されていたので、割り当てられた自室で各々がやるべき事をやった。
数時間後。
英雄の優男に連れられ、村長邸に大きなリュックを持った女が来た。
決して広くない村長邸がざわついたので、何事かと思ったテルラ達も廊下に出た。
「あの人は……確か……」
「お知り合いですか? レイ」
王族として人の顔を忘れない様に訓練を受けているレイが記憶の底を探る。
数秒で思い出し、ポンと手を打つ。
「ああ、あそこで会いましたわ。テルラも会った事が有りますわ。最北の国の劇場で話し掛けてきた、小さな劇団の女ですわ」
「ええと――異常気象で豪雪になっていたハープネット国の劇場、ですよね。……ああ、僕にチラシをくれた、あの人」
玄関先で劇場の女と話をしていたルーメンは、物凄い地獄耳で客室前に居たテルラ達の声を聞き付けた。
「おや、テルラくんはイーと面識が有るんですか」
「私の方から接触したんです。彼らの活動が私達に影響を与える可能性が高かったので、どんな人かを確認したかったんです。目立つ人達ですから必要無いかとも思ったんですけどね。一応」
イーと呼ばれた劇場の女は、テルラ達に向けて一礼した。
頷いたルーメンは、テルラに向けて手を差し伸べた。
「なら、テルラくんも話を聞いて貰いましょうか。ただし、私達三人のみで宜しければ、ですが」
テルラはレイとプリシゥアの顔色を窺った。
カレンとグレイは、自分には関係無いと判断して無言のまま自分の部屋に引っ込んだ。
「今更護衛が必要な状況にはならないと思います。少しでも情報が欲しいですから、僕一人で行って来ます」
レイとプリシゥアは不満そうだが、ここまで旅をして来ておいて慎重になるのもおかしいので、
テルラを信じて一人で行かせた。
「廊下で待機してるっスから、何か有ったら大声を上げるんスよ、テルラ」
「はい。頼りにしていますよ、プリシゥア」
「では、こちらへ」
大きなリュックをメイドに任せた劇場の女は、ルーメンの指示に従って客間に入った。
続いてテルラが客間に入る。
「合図が有るまで人払いを」
メイドにそう言ったルーメンが最後にドアを閉め、真っ直ぐ上座に座った。
「最初にお断りしておきますわ、テルラくん。このイーは、我が国のスパイです。イーと言う名前もコードネームです。ですので、色んな情報を持っています。この事は御内密に。だから同室を許可出来るのは、神候補のテルラくん一人だけと言う訳です」
「この子が、神候補」
ルーメンの言葉を聞いたイーは、改めてテルラのオッドアイをまじまじと見た。
「イー。報告を。貴女は私の命を受け、五頭のドラゴンが新世界の神になれないかを探ったんですよね」
テルラにも分かり易く言うルーメン。
それを察し、イーも言葉を多くする。
「結論として、五頭のドラゴンは新世界の神にはなれません」
持てる情報と手段の全てを使って北のシルクドラゴンを手下、眷属、仲間等、とにかく味方にしようとしたが、何をしても暴れるだけだった。
東のゴールドドラゴンも、金塊確保と同時に実験をしたが、思う通りに動いてくれなかった。
西のシードラゴンはガン無視の無反応。
「何らかの魔法、例えば幻惑のカゲロウの魔法で従えたとしても、あまりにもこの世界に特化した存在なので新世界の神になれない、と判断されました」
「そうですか……」
残念そうに俯くルーメン。
「北の異常気象はイーさんの仕業だったんですか」
間が空いたので、イーに話し掛けるテルラ。
北国で暮らしていても不思議じゃない肌色のイーは、普通のお姉さんみたいに頷いた。
「シルクドラゴンを北の地から移動させようとしたら、姿を変えてまで抵抗されました。ゴールドドラゴンも、金塊確保以上の事をしたら天変地異を起こしたと思います。ドラゴンは地上の神としてしか存在出来ないんでしょう」